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昨年2月に米チェイニー副大統領が来日した際に、日本は『北朝鮮拉致問題の解決』を主張するが、その『解決』とは具体的には何か?ということを真剣に日本側に問い質していったと言われている。
『北朝鮮拉致問題の解決』という総論に関しては、日本ならずとも、北朝鮮を除く6カ国協議に参加する国々も異存は無いが、その問題の『解決』とは具体的には何を指すのかという各論になると、日本以外の国の考えていることと、日本の考えていることとは、かなり隔たりがあるように思う。
拉致被害者自身やそのご家族・ご親類の心情を思うと、誰もはっきりとは言えない部分があるので、マスコミや政府関係者も含めて、拉致問題の解決とは具体的には何なのかを敢えて明確化せずに、拉致被害者全員の帰国というスローガン的なものが拉致問題の解決であるという流れが日本人社会の今までの空気である。
つまり、日本人の思う拉致問題の解決とは、拉致被害者が全員生きており、その全員が日本に帰還するという希望を実現することなのである。
そのような日本人の心情的な部分が多く占める見方を含めて、北朝鮮拉致問題の解決ということ関することを具体的に考えると、それぞれ次元は少し違う捉え方ではあるが、拉致問題の解決とは、大まかには、以下のような三つの観点から見ることができると思う。
1)拉致被害者全員の日本への帰国。
2)真相を究明し事実関係を明確化させる。
3)北朝鮮に謝罪させ、日本人拉致に関わった者を日本の法律で処罰する。
以上に挙げた三通りの回答に対して、北朝鮮側は、2002年の日朝平壌宣言の前後に、北朝鮮側は、曽我ひとみさん親子や蓮池薫さん夫妻等の帰国の措置を行ったり、横山めぐみさん等の他の拉致被害者の死亡に関する情報提供を行った。しかし、それ以外のことは、北朝鮮側の何らかの内部事情で、日本側に教えられないという理由があるのは明確である。
日本からの経済援助を、喉から手が出るほど欲しいはずの北朝鮮側にとって、日朝平壌宣言当時に明確化された日本人の拉致被害者以外の日本の拉致被害者が生存していれば、北朝鮮側は、それを交渉のカードとして、経済援助を見返りに、日本に返すべく交渉をしてくるはずである。
しかし、それができない北朝鮮には、更なる拉致被害者に関しての、良いニュースや情報は一切存在していないのであると推定するのが合理的な見方であると思う。事実や真相を日本側に明らかにすることにより、北朝鮮に対する日本の憎しみが増加するような事実や情報しか無いというふうに考えざるを得ないであろう。
以上に述べた3つの『解決』に関して、クールなコメントを言えば、以下のように考えるのが自然である。
1)に関して言えば、拉致被害者ご自身やそのご家族や親類の方々のご心情を思うと誠に申し訳がないが、生きているという保証はどこにもなく、死亡しているという場合の方が、今までの北朝鮮側の対応を客観的に見て、可能性が高いと言わざるを得ない。つまり、生きていない人は帰れないのであるから、『拉致被害者全員の日本への帰国』とは現実味はあまりなく、空しいスローガンに響く。
2)以上の1)に述べたような客観的見方を前提とするなら、その他の拉致被害者の方々の真相を究明できたとしても、日本に悪いニュースを与えるだけであり、日朝国交正常化交渉においてもプラスとはならないので、日朝国交正常化の以前には、真相を北朝鮮が明らかにする可能性はまずあり得ないのである。
つまり、『真相の究明』とは、現実的には、日朝関係が正常化し、日本と北朝鮮が国交を回復した後に、過去の出来事に関して、日本人の側で、北朝鮮に入り込み、調査活動をしない限り、真相は見えてくることはないと思う。つまり、北朝鮮の金正日政権のような悪徳政権が、自分の冒した悪行を自ら調べて、それを日本に総て伝えるという行為などするはずが無いのである。
金正日政権のような政権が、民主的な政権にとってかわり、日朝国交正常化が行われて、日朝関係が改善され友好関係に変化した後に、初めて、北朝鮮側は、日本側の拉致問題に関する調査に協力的に応ずるという図式でしか、拉致問題の真相究明は有り得ないと思う。
3)に関しては、拉致という犯罪行為を北朝鮮は、日本人に対してだけでなく、他のアジア人や西洋人も含めて行っていたことが明らかになっており、国の政策のような形で行ってきたことであろうから、金正日政権下では、素直に謝罪することは考え難いし、自国の為に働いた拉致実行者を日本側に、北朝鮮が引き渡すということも考え難い。このことも、日朝国交正常化が行われ、金正日政権を批判できるような民主政権が北朝鮮にでき上がらない限り、現実には有り得ない『解決』となる。
つまり、現在の日本の拉致問題の『解決』という言葉にはそぐわないような悲しい結果が待っている可能性が高いか、真相の究明にしても、北朝鮮に民主的な政権ができ、日朝国交正常化がなされた後に、北朝鮮の協力のもとに、初めて可能になるということでしかない。つまり、日本人の思い描くような『拉致問題の解決』が現実化する可能性はかなり低く、かつ、真相を知るにしても、かなりの時間を要するのである。
従って、米国も、日本には拉致問題で同情はしても、核問題と拉致問題を、どこかで切り離さざるを得ないと割り切っていると思う。下記の2月7日の日本経済新聞の記事は、それを示している。
北朝鮮のテロ支援国解除「拉致と関連づけず」・米国務次官補
【ワシントン=丸谷浩史】ヒル米国務次官補は6日、上院外交委員会の公聴会で証言し、北朝鮮へのテロ支援国家指定解除と日本人拉致問題との関連について「厳格に結びつけようとする動きがあるのは承知している」と語ったうえで「二つの問題を事前にはっきりと関係づけるのは、米国や日本の利益にならない」と述べ、拉致問題の解決を指定解除の明確な要件とすることに慎重な姿勢を表明した。
テロ支援国家の指定解除に向けては、米国法の要件を満たすとともに、核問題を巡る6カ国協議が合意した「第2段階措置」に定める核施設無能力化、核計画の完全な申告で「北朝鮮が責任を果たすかどうかが重要だ」と、北朝鮮の対応を見極めて解除に踏み切る考えを示した。
同時に次官補は「日米関係を犠牲にしてまで、米朝関係を強化するつもりはない。日米間で不意打ちはない」とも指摘し、日米間で緊密に連携していくと約束した。
(以上、日本経済新聞の記事より引用)
また、これとは別に、2005年5月に、英ネイチャー誌は、横田めぐみさんのものとされた遺骨のDNA鑑定を担当した吉井富夫・帝京大医学部講師(当時)が、結果は確定的ではない。他人のDNAによる汚染の可能性も認めるという趣旨の記事を載せ注目された。つまり、遺骨は横田めぐみさんのものではないとする当時の鑑定は確定的なものではなく、第3国における鑑定も行うべきであると事を示唆した記事が、英国の権威ある科学雑誌に載ったのである。
6カ国協議の中で、拉致問題と核問題を結び付けて、対北朝鮮の交渉を行うという交渉方法が当初から、間違っていたとは思わないが、長い時間をかけて、いくら交渉しても進展のない拉致問題の現実をよく見つめ直し、日本は、拉致問題の現実的な解決とは、一体何なのかということを見極める時期に差し掛かってきたのではないかと思う。
日本人のアナログ的な心情は、西洋人のデジタル的心情とは違う部分があるのは仕方のないことであるにしても、心情だけに押し流されて、終着点の良く見えない拉致問題の交渉を今迄通りに、やり方も変えずに無理やり続行せんとする日本に対して、米・中・韓・露の他の6カ国協議の関係国は、各国が共通に認識する北朝鮮核問題の解決を優先し、次第に日本から遠ざかってゆくのではないかと思う。
そのような流れと空気を日本は良く読まなければならないと思う。日本は、拉致問題の現実的な解決とは具体的には何なのかという一年前の米・チェイニー副大統領の投げ掛けた質問を、自らに問い掛けて、自らの現実的な答えと、その答えに近づくためには現実的には何をしなければならないのか?という対北朝鮮に対する拉致問題の交渉の仕方の見直しをする時期に差し掛かってきているのだと思う。
日本が拉致問題の解決を今迄通りの考え方と手法でやってゆくということは、北朝鮮とは永遠に国交正常化は無いということを意味してゆくことになるが、世界が北朝鮮と交流を始めても、日本は一切の交流が北朝鮮と無いという事態に陥ってゆけば、世界は、日本も、北朝鮮と同様な『特殊な国』として見るようになるかもしれないということも忘れてはならないと思う。
最近では、西欧世界の国々が、北朝鮮のレア・メタル資源を求めて、北朝鮮に足繁く通い始めたという情報を聞くようになった。世界の情勢は時と共に、激しく変化しているのである。
世界の空気を読みながら、拉致問題は、基本的には日本と北朝鮮の問題であるということを良くわきまえて、今まで通りのやり方一辺倒ではなく、結果の得られない交渉方法を勇気を持って変えてゆくことを真剣に検討し、日本の拉致問題と、日本を含めた世界が関わる北朝鮮の核問題を分けて考えて、両方の問題に対する、より現実的な対応を注意深く考え出して、そして、それを実行してゆく必要があると思う。
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