風の告白〜Confession Del Viento〜

藝術を通じて人と分かち合いたい 書評は全部ネタバレなのでご注意を

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Art of Life

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僕と奈津美は、ホテルのテラスから東京の夜景を見渡し、ワインを片手に淡い瞳を浮かべた。
「僕はいつも、相反するものに憧れるよ。なんでかな?冷涼でシステマチックな都市で暮らしていると、その虚像を幻視し、薄っすらと廃墟を見透かす。裸のままの大地を懐かしむ。崩壊を夢見ているのかな。逆に、都市から田舎に引っ込んで、花鳥風月、田園牧歌的自然に身を委ねると、今度はあの大都市を夢想する。この山を切り裂いて、でかいビルを何個も建てて、お洒落な人口の都市が創られればってね!なんて理不尽なんだろう。人間はいつでも、無いものを欲しがるのかな……。」
「でも、結局、あなたは、この音の無いガラス張りのビルに、鼻の先を突きつけて、決壊寸前の只中を、クールに何ともない振りで生きる方を選んだわけね。私もそれが正解だと思うわ。だけれど絶望があるとすれば、『その先には何もない』ということね。だから崩壊を夢見る以外に憧れの矢が向かう先は無いんだわ。」
「自分で言うのも何だけれど、それなら僕が誰かの憧れの矢そのものになれば良いと思う。もう後戻りは出来ないよ。進むしかない。進むというより、縋り付くしか……。」
「私でよければ、あなたの支えになるわ。」
「有難う。共に進もう。」
此処では言葉の代わりに、行き交う電波が総てで、凍結した愛はあまりに冷たくて、本当の自分なんて誰にも理解されなくて、マナーや常識だけが人を見分ける基準で……。普段は僕の秘書としてオフィスで働く奈津美とも、こんな会話は出来る訳もない。
「こうして君と二人きりでいる時だけ、漸く本当の自分に立ち還れる気がするよ。普段の会社での自分なんて、ただの虚像だ。黒尽くめの行列の一部だ。」
「でも、私たちも何だかんだで、漸くこんなホテルに泊まれるようになったんですもの……。」
BGMには淡いエレクトロニカがかかっていた。その幻想的な響きに荒涼としたビルの夜景がシンクロし、僕たちは哀しく互いの生を想った。
「ねえ、僕が知ってる君なんて、君の内のほんの一部にしか過ぎないと思うんだ。でもね、こうしてこの時代に、僕と君が偶然出会えたことは、奇跡だと思うよ。青臭いことは嫌いだけれど、これは本当にそう思うんだ。」
「私もそう思うわ。」
嘗て学生の時に読んだ、ドイツの変わった哲学者の言ではないが、生という完全に一回性のゲームのこの一瞬一瞬を、心を込めて生きてゆければ、どんなに不満や不平が生じようとも、きっと素敵に生きてゆける。僕はそう確信した。僕はまだ旅の途上だ。僕という一個の生のアートの途上だ。願わくば、奈津美の生もまた、儚く美しい上品なアートとして描けるように、僕に手助けが出来れば……。
BGMは終章に向かっていた。僕たちの生はまだ幕が開けたばかりだ。


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