風の告白〜Confession Del Viento〜

藝術を通じて人と分かち合いたい 書評は全部ネタバレなのでご注意を

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冬の日

街中が白い雪で覆われた真冬の白昼。

玲子は部屋の隅で膝を抱えたまま、世界の終りを観ていた。

何も感じないような冷たく澄んだ瞳で、近くとも遠くとも取れない曖昧な地点を、

沈黙と静寂の中で瞬き一つせずに見つめていた。

白い幻想的風景が、窓の外には一面に咲き乱れている。

玲子はよく周りの大人、つまり彼女を観察し、彼女のことを十全に理解していると勘違いしている

多くの大人から、「感情がない」だとか「何を考えているか分からない」だとか陰口を叩かれ、

彼女自身もそれを知って知らぬ振りをしていた。

確かに玲子は、数人の他人と同席し食事を摂る時、或いはただ休み時間にグループになって話をする時、

必死でその輪に入ろうとし、笑おうとしても、キリキリと不気味に引き攣った微笑しか生じず、

心の淵では他人が何が楽しくて笑っているのか理解できず、そしてそんな人と違う自分を自分で軽蔑し憎

んでいた。

クラスの中で一番目立たない三人グループの中にも、あり合わせで入れてもらっているようなものだ。

玲子は色白でいつも貧血気味だった。他人にからかわれても怒ることができなかった。

喜怒哀楽の情が自分には乏しいのか、ということを玲子はよく自問した。

しかしそうではなかった。玲子に足りていないのは表現能力であった。

言いかえると、他者と、社会と上手くやってゆくための情報伝達能力……。

であるから玲子は感情を固いカプセルに仕舞い込み、心の奥底に埋め込んだまま、

自分の中だけで感情をコントロールし、外出するのを防いだ。

玲子にしか感じ取れないもの、それは眼に見えない無限で大切な名状し難いもの。

相変わらずその一点を見据えたまま凍結している玲子の部屋に父親が入ってきた。

「だから何回呼んだら分かるんだ、おい、いい加減に返事しろ、お前は俺の娘だろ、それとも雪女か!」

この不景気の中、昨日、会社をリストラされ、その憤りの為に夜から今までやけ酒を煽っていた父親が、

赤い顔をして玲子に言い放った。

「この人でなし!」

父親は部屋に置いてある、睡蓮が活けてある青白い花瓶を摑み上げ、玲子の顔面に思い切りぶち当てた。

玲子の顔面からはその蒼白な顔色とは相反する真っ赤な血が噴出した。

「イタイ……」

玲子は呟いた。

「イタイ…・・・イタイ……オトウサン、コレガ、イタミ?ヒャッ、ヒャッ、ヒャッ、コレガイタミナノ?

 ネエ、コタエテヨ、ワタシ、チ、デタヨ。ダカラ、ワタシ、イキテルノ?イタイッテカンジラレタ

 カラ、ワタシニモカンジラレタカラ、ワタシモニンゲンデショ?デモコレハキモチイイイタミダヨ。

 ワタシハマイニチマイニチ、モットクルシイイタミヲ、コノムネノオクフカクデカンジテルンダ。

 シッテタ?ネエ、シッテタ?セカイハモウスグオワルヨ。キレイサッパリナクナルヨ。

 キキキキキ…・・・。ダカラソノマエニ、ワタシハコノチデ、キレイナキレイナエヲカクンダ。

 ソノエハワタシジシンノエダヨ。ダレニモリカイサレズ、ダレニモアイサレナカッタワタシノ、

 ツメタククラクアカヨリモアカイアカ……。オトウサンヨウヤクワカッテクレタ?

 レイコモイキテタンダヨ……」

その後、玲子は血染めの顔を両手で拭い、その掌を父親の顔に撫でつけた後、魔女のような雪女のような

狂乱した甘高い声で喚き叫び、踊り狂いながら、ベランダから飛び降りた。

その落下点は、真っ白な毛布の上にできた、どうしても落とすことのできない赤黒い滲みのように、

酒の酔いも吹き飛ぶほど驚愕し青褪めた父親の両眼には映った。


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