第19回ウ・タント記念講演、ラウラ・チンチージャ大統領(コスタリカ共和国)
『平和と持続可能な開発:コスタリカの経験』
先週木曜日の午後、渋谷は冷たい雨に濡れていた。
僕は仕事を早めに切り上げ、急ぎ足で宮益坂を上った。国連大学でコスタリカ大統領の講演を聴くために。
ラウラ・チンチージャ大統領はコスタリカ初の女性大統領であり、内閣のおよそ半分は女性を登用したという。彼女のスピーチは明快だった。どこかの総理大臣とは大違いである。自分のビジョンを明確に打ち出し、質疑応答では言葉を濁すことなく、官僚の作った文書を読むのでもなく、率直に語っていたのが印象的だった。
周知のように、コスタリカは常備軍を撤廃している。今年で63年になるという。軍事力をなくしたことで、その分が医療や教育にまわる。当然ながら、「他国からの侵略にはどのように対処しているのか」という質問がでた。かつて、実際にニカラグアからの侵攻があった際、コスタリカは警察力と米州機構の援助、そして国際法=国際司法裁判所の力をかりて危機を乗り切ったという。こうした経験は、日本の安全保障を考える上でも参考になるだろう。
そして、コスタリカは環境問題への取り組みも盛んである。電力の95%は再生可能エネルギーでまかない、2025年までには100%を達成したいという。つまり、この国では脱原発など常識以前の問題なのである。太陽光、風力、地熱(日本と同じ火山国)、潮力が重要なエネルギー源である。国土の25%の自然は保護され、カーボン・ニュートラル(CO2排出量の安定化)の環境を目指すという。「日本もかつてのウォークマンのようにソーラーパネルの製造で頑張ってみたらどうか」という大統領の言葉も印象に残った。
ただ、新聞報道でもあったが、コスタリカは日本とFTAを結ぶことに積極的になっている。2008年のリーマン・ショック以降、コスタリカも財政赤字を経験していることから、いわゆる「構造改革」に迫られているのかもしれない。そこは国内問題なので、僕自身にも判断のしようがないが、仮にFTAを結ぶにしても両国のナショナル・インタレスト(国益)を損なうことは避けてほしい。
国際政治を考える上で、非常に有意義な講演であった。
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