『聯合艦隊司令長官 山本五十六―太平洋戦争70年目の真実』成島出監督、日本、2011 昨年末、NHKドラマ『坂の上の雲』が三年がかりで終結した。203高地での乃木希典の無謀な戦略がありつつも、東郷平八郎率いる連合艦隊が日本海海戦においてロシアのバルチック艦隊を破る……、そしてなにより主人公の秋山真之の活躍が描かれていた。ただし僕はずっと、非戦論を唱えていた内村鑑三の視点から批判的に観ていた。まあ、小さな国が大きな国に勝ったというナショナリズムの誇示は想定通りなのだけれど、秋山が最後に妻につぶやいた言葉、「もう海軍を辞めたい」という言葉にはそれなりのリアリティを感じた。
戦争では、死体という肉の塊を否が応でも見せつけられるからだ。
東郷から少し時をまたいで、山本五十六という人物が「聯合艦隊司令長官」となった。この映画では、五十六(役所広司)が三国同盟に反対し、真珠湾攻撃を実行した張本人であっても目的は短期間での「講和」であったことが強調されていた。薩長を中心とした陸軍と、五十六のような佐幕派の海軍の対立という構図も鮮明に描かれていた。海軍大臣の米内光正、事務局長の井上成美が五十六に歩調を合わせているのも印象的だ。
機動部隊の司令官、南雲忠一がミッドウェー海戦で負けたときにも五十六は「南雲を責めるなよ」と部下をさとし、お茶漬けを南雲に差し出す。そのときに南雲が泣きながら茶漬けを食べるシーンはすばらしかたった。これがすべて史実であるならば、五十六という人物は相当に人間味あふれた人格者であったということがうかがえる。戦時下における美談は、ソロモン諸島のブーゲンビル島で最高潮に達する。
賛否はいろいろとあろうが、当時の軍人が何を考えていたのかを知る上で、重要な史料になることは間違いない。海軍と陸軍、そして政府、天皇という権力機構の現実がある一方、治安維持法で捕えられた少なくない人々の現実もある。たとえば、山田洋次監督の『母べえ』を対極に据えることで、あの戦争を立体的にとらえることは必要不可欠だろう。
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