『しあわせのパン』、三島有紀子監督、日本、2012 人生には何度か絶望がある。
昨日の絶望は、何度目になるだろう、そんなことを考えながら、この映画を観た。
洞爺湖のほとりの月浦というところで、季節が移ろう美しい場所で、水縞夫妻(原田知世と大泉洋)はカフェ「マーニ」を営む。原田知世の淹れるコーヒー、季節の野菜をつかった料理、大泉洋が焼くパンはとても美味しそうで、だれもがちょっと寄ってみたくなるカフェだ。そして、実際に、さまざまな事情をかかえた人々がそこに立ち寄る。
夏に東京から来るOLと地元の若者、秋に母親と離れ離れになった少女と父親、冬に死に場所を求めてやってくる老夫婦、春には……。水縞夫妻は彼ら/彼女らにそっと寄り添い、心のこもったパンや料理を差し出す。あがた森魚のアコーディオンもすばらしい。
水縞くん(大泉洋)は老人にカンパーニュ(campagne)の意味を教える。いまは「田舎」という意味だけれど、ラテン語の語源をたどると「パンを分け合う人」、つまり「仲間」という意味があるという。だから、この映画では登場人物たちがパンを分けて食べるシーンが多く演出される。
夜空に浮かぶ月、緑の草原、凪いだ湖面、風のにおい、そしてパンをめぐる人々の出会い。
そんな、ありふれているようで、僕らが生きている現実の生活では味わえない、とても切ない物語。
僕は映画を観てから、近くの書店で道満晴明『ニッケルオデオン 赤』と柄谷行人『政治と思想』を買い、揚州商人でスーラ―油麺を食べた。それから、乗り換えの武蔵野線の駅のホームで青空を眺めた時、なぜだろうか、ふと涙がでた。無性にカンパーニュが食べたくなったのだ。
その夜は、家族のために少し味の濃いポトフを作り、カンパーニュとワインで映画の余韻を楽しんだ。
(C)2011『しあわせのパン』製作委員会
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