司馬井 太郎

フィリピンと日本に関係する小説を書いております。現在、長編になりますが、フィリピン百感執筆中です。

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6時少し前にフロントから電話が掛かって来た。
電話の向こうで梶原君が「着いたよぉ。お邪魔してなかったかい」と云っている。
「何を云っている。一人だよ、一人」と云いながら、荷物を担いでエレベーターに向かいフロントロビーに下りると、例のドライバーが待ち受けていて又直ぐに荷物を車に運んでくれる。
「さて、飯でも食おうかね。何処が良い」と聞いてきた。
「何でも良いよ、此処は君のテリトリーだから君にお任せだ」と云うと、
「OK、ダイヤモンドホテルの近くに{R}と言う上手い焼肉屋があるからそこに行こう。何でも、そこの親父が良い肉を日本からハンドキャリーしていると云う事だから、日本と変わらない味で旨いよ」
「ああ、そこで結構だ」と返事をすると早速私を車の後部席に誘ってドライバーに焼肉屋直行を命じた。

確かに、その焼肉屋の牛肉は旨かったが、値段も一流に高かった。
カルビとロースに店のオリジナルの角焼きを頼んで、キリンビールを2本飲んだが、一人3500ペソもした。
「此処は俺が払うよ。雅からは割り勘だぜ」と梶原君は笑いながら勘定書を持ってさっさとカウンターに行ってしまった。
「おい、良いのか。結構するよ」と問い掛けると、「引退族と違って、俺はまだ現役だよ」と暗に経費処理するからと匂わせる。
「そうか、じゃあ御言葉に甘えるとするか」と云いながら、習慣で先に焼肉屋を出ると外でドライバーが待機していて、車のドアを開けて呉れた。
ドライバーに「君は食事は済ませたの」英語でと聞くと、「大丈夫です。自分で食べました」と日本語で答えた。
支払いを済ませた梶原君が、後ろから私に続いて車に乗り込んで来て私に云った。
「彼は最近雇った奴でボビーと云うんだが、俺が客を接待する時は絶対に一緒に食べないんだ。良く気が利くよ。最も、ボビーに出会うまでに何人ドライバーを変えたか忘れる位雇ったがね」
「ヘー、良い人に出会うまでにはフィリピンでも大分苦労するって事か」と云うと、
「ああ、雇用に関しては日本よりも大変な所があるな。基本的な労働教育がなっていないから、教育の代わりに性格でこちらの要求をカバー出来る人選をするんだ。しかしフィリピン人を知らない奴がやろうと思ってもまず無理だがね」と云う。
「その通りだね。私も含めて偽フィリピン通が多すぎて失敗談ばかり聞くもんな」と私が自分の見解を云うと、梶原君はただ頷いて笑っていた。

車は、ロハス通りを左折して直ぐに{雅}に到着した。
ドアボーイが飛んできて車のドアを開けて呉れる。
「ボビー、おまえも今日は一緒に飲めよ。遠慮するな」と梶原君が云うとボビーは最初迷っていたが、結局私達に付いてクラブの中に入って来た。
ボーイに案内されて、半円形にセットされたテーブルに付くと梶原君が笑顔で、
「何飲む?、御相手も選べよ」と笑顔で私に云い、ボビーにも相手を選ぶ様に云った。
私達のテーブルの後ろでは、大勢の女性が日本語で「私、私」と手を挙げて立候補している。
その中から、指名されないのに一人の女性が立ち上がって梶原君の横に座った。
どうも何時も指名している娘らしい。
直ぐに腕を組んでいる等何かと素振りが親しいのだ。
躊躇している私とボビーに、梶原君が「俺が選んでやるよ」と云って、ボーイに「右から2番目と5番目」と告げてしまった。
私には、スレンダーな大人しい感じの娘が割り当てられてきた。
髪を長く延ばしていて、髪の左側に大きな花飾りをピンで止めている。
花飾りは浅黒い顔に良く似合っていたが、服装はその娘の持つ雰囲気に余りそぐわない黄色と赤のコントラストのきついものだった。
ボビーには、ベテラン風で顔も体も大作りな娘である。
梶原君は得意気に「どうだい、君の好みのタイプだろ」と云ったと思ったら、もう相方の娘の方を向いて、自分の世界に入ってしまっていた。
文句を言っている彼女に無沙汰を詫びている様である。
私に付いた娘は、日本語で自己紹介したがそれ以上の日本語は出来ない様であった。
持ち前の性格もあるのだろう、ただ黙ってウィスキーの水割りを作ってくれている。
私は英語で聞いて見た。
「日本語は余り得意ではないの?、英語ならば君と話しが出来るかな」と云うと、顔を上げて嬉しそうな顔をして云った。
「私はこの仕事が始めてなので、まだどうして良いのか解らないんです。日本人の御客は日本語が出来る子ばかり指名するので、私は少しも日本語の勉強が出来ません。ご免なさい」と詫びる。
年の頃は、二十歳を少し過ぎた位だろうか。
「いいさ、私を気にする事は無い。家は遠いの」と聞くと、
「バタンガスです」と答えた。
「ヘー、バタンガスか。実は私達は今夜バタンガス港まで行って、明日の朝プエルト・ガレラに渡ってから釣りをするんだよ」と云うと、
娘は、驚いた顔をして、
「ミンドロに行くのですか。実は私の家族は今バタンガスに住んでいるけど、本当はミンドロのバコなんです」と云う。
「そうなの、ミンドロでは仕事が見つからなくてバタンガスに移住したの?」と単刀直入に聞いて見ると、彼女の答えは大体想像の通りであった。
「バコ空港の近くで農業をしていたのですれど生活がとても大変で、2年前に家族全員でミンドロを出てバタンガスに移住する決心をしたんです。バタンガス港には外国から色々な船が着きますし輸出もあるから荷積みの仕事があるんです。その時、私もカレッジを諦めてバタンガスよりももっと仕事があると思ったマニラに来たんです」と云う。
良く見れば化粧が行き届いていない部分の彼女の肌は浅黒く、又私に触れる手の皮膚は乾いていて硬かった。
「でも、マニラに来て最初からこの仕事じゃなかったんだろ」
「始めてはデパートの店員で子供服の売場に立ちましたが、半年のコントラクトだったことや給料が安くて家に送金出来なかった事で、この仕事に入るのを決めました」と云う。「家族は知っているの」と聞くと
「知っていますが余り口には出しません。クラブで働く事はプロスティテューションと思い込んでいるので、いくら説明しても仕方が無いんです」と悲しそうな顔をして云う。
次第に深刻になって行くこちらの話とは全くの別世界で梶原君が、カラオケで騒いでいる。ボビーも常には女房以外の女性と話す機会が無いのか、ベテランホステスに手を握られながら少々興奮気味に何か話し込んでいた。
多分、私に付いた娘にはバタンガスに両親のみならず兄弟姉妹が大勢いて、彼女の送る金を当てにしながら生活しているのだろう。祖父母も養っているのかも知れなかった。
その彼女は、敢えて選んだクラブの仕事でも大人しすぎてなかなか指名が受けられず、出来高払いのシステムでは自動的に収入は限られて来る筈なのだ。
フィリピンの人々の職を得る為の必死の思いと、その思いの背景にあるものを満たす事が出来ない現実との狭間で、この大人しい娘も何時か不本意な事になるのだろう、と思うと私は少し苛立ちを覚えながら慰めを云うしかなかった。
「頑張ればきっと報われる。神様は君の努力を見ているから」
如何にもフィリピン人受けする話し方に、私はそれを云った側から自分が嫌になっていたが、それでも娘は嬉しそうな顔をして私に礼を云った。
「そうね、きっと神様は何時か貧乏な人を助けてくれるわ。頑張っていればね」

{雅}を出たのは、午前1時を廻っていた。
{雅}を出る時、私は自身を嘲りながらも、相方のスレンダーの彼女に梶原君に見つからない様にしてチップを渡してしまっていた。
1000ペソ、二千円程度のチップに彼女は驚きながらも受け取ってくれて出口で私の頬にキスをしてきた。
ボビーは酒を少ししか飲んでいなかったが、私は彼の睡眠不足が心配になって何度も彼に訪ねるのを止められなかった。
「ボビー、眠く無いの」と云うと彼は「大丈夫、大丈夫。私は絶対に寝ませんよ。寝たらボスに首にされます」と私が聞くたびに笑って請け合って呉れる。
私がボビーと話している内にも梶原君はもう鼾を掻いて寝入ってしまっていた。
{雅}を出る時、指名の彼女を振りきるのにも大分と精力を使っていた様だが、車に入れば直ぐに寝入る事が出来る切り替えの早さが、フィリピンでの生活を真に自分の物にする条件なのだと彼の寝顔と鼾が私に告げている様に思えた。
ボビーが運転する車は空軍基地脇の道を通って、サウスハイウェイに入って行く。
そこで私もボビーに安全運反を重ねて御願いしてから寝てしまおうと考え目を瞑って見たが、なかなか寝付かれなかった。
ボビーは私の寝る努力を無視してクラクションを鳴らし続けながら車をすっ飛ばしている。

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もんてといいます。
バタンガスとプエルトガレラの名前が出てきたので ついコメントしてしまいました。
3回ほど行った事があります。2度目は、家族4人で1週間ほど過ごしました。
とてもいいところですね。
予約なしで行き、港から小舟で海からホテルを決めた事を思い出しました。

今はどうなっているんでしょうね
後の話が楽しみです。

2010/8/7(土) 午後 3:25 [ もんて ]


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