司馬井 太郎

フィリピンと日本に関係する小説を書いております。現在、長編になりますが、フィリピン百感執筆中です。

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浜ではチリャード船長が乗組員である息子を連れて私達を待っていた。
約束時間は、6時と言う事であったが、時間は既に6時半を廻っていた。
彼等は結構早くから来ていた様子だったので私は彼等を待たせた事が気に掛かっていたが、それを言うと又梶原君に笑われると思い黙って荷物をバンカの中に放り入れて、彼に続いて渡り板からバンカに乗船した。
バンカは息子が舳先で操る竿の力で向きを変えると直ぐにエンジンを吹かして沖に向かった。
行く先はサバンから約2時間弱の行程で、ルバン島の手前にあるタラオタオ島の近くのリチャード船長だけが知る秘密の場所と言う事であった。
今日も空は快晴である。
「ルバン島は、日本では英文綴りの最後のGを発音してルバング島と呼ばれているが小野田少尉が見つかって始めて有名になったんだよな」と聞くと、
梶原君は「ルバン島だけでは無いよ。日本人はルバン島どころか、フィリピンそのものの知識もゼロに近い。巷の自称フィリピン通程度の知識くらいは我が国にもあるとは思うがね」と言う。
「それを言うなら、日本人の外国に関する知識は全体にお粗末に過ぎる。一体何処の外国の事を解っていると言うのかね」と私。
「もう、そんな独善の日本流は全て終わりに近いよ。金とか技術力とか、そんなものだけを売り物に外交をしてきた国が、頼るべきを失ったらどうなるんかね。金も技術も実の処は、国にも拘束されない個々の企業にまずは帰属しているんだ。企業が日本から消えても、国と個人の大半は逃げられないし、既定の路線や日本流の物の捉え方を一朝にして変えるなんて事も出来る訳はないんだ。従って日本はだんだん空っぽになって行き付くところまで行くだろうね。勝負あっただよ」と梶原君。
「その後はどうなると思う」
「どうにかはなるんだよ。但し、日本と言う偽装先進国のあり方と恣意的に造り上げられた輸出依存型経済構造に全国民が依存していた時代が終わるのは間違いないと思うよ。流されて一緒に終わるのが嫌だとすると、俺達に要求されてくるのは今までと逆の個の価値観とそれに沿って生きる力かな。俺の会社も、生産効率や掛かる社会的リスクを勘案した上で、そう遅くない時期にフィリピンを撤退してタイか中国に力を入れる事になる。それに経済全体が縮小している事への対応として、フィリピンだけで無く日本の工場も閉鎖か縮小を避け得ないんだ。世界的な生産力過剰だからね。
最大効率を求めるのが資本主義であり又企業ならば、その思想の現実部分にある日本と言う国の空洞化、即ち国や国民生活の大前提となっている企業そのものや優秀な人材が脱日本を指向する事は、今の日本では避けられないんだ。一般市民レベルでその変化を受け容れざるを得ないなら、今後は自分自身のアイデンティティーをはっきりさせて来るべき新時代に整合性のある存在価値を造る自身の力が必要って事かな」
「すると日本は国としては必ず没落するって事か」
「ああ、その時期が早いか遅いか。又は急激かゆっくりか、だけの違いだろうね」と梶原君は話題を締めくくった。
もし、梶原君の会社がフィリピン撤退を決めた時には、梶原君は躊躇無く辞表を提出し、このフィリピンに定住するのだろうと私は想像した。
企業戦士として定年まで勤め上げた人物が、利益至上主義の企業社会や金融資本主義の国をも滅ぼす凶暴さに荷担して来た人生を、激しい悔恨と共に振り返っている様に私には感じられた。
しかしその悔悟は決して日本人全体のものにはならないのだろう。
豪放磊落であっても同時に繊細な神経をも持ち合わせている彼は、その心底にある理想と企業戦士と言う社会的立場から生ずる矛盾に相当に悩みもして来たのだろうと私は思った。
「ゴーギャンみたいになりたいんかな」と私が問うと、
「まぁ大げさに云えばそんなとこかな」と梶原君は真顔で答えた。

続く・・・

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