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1989年ベルリンの壁崩壊前夜を舞台に、各国のスパイの活躍を描くサスペンスアクション。
監督のデヴィッド・リーチはキアヌ・リーヴス主演の「ジョン・ウィック」をサプライズヒットへと導き(続編は本作の製作のために降板)、来年公開の話題作「デッドプール2」の監督に抜擢された新進気鋭のクリエイターである。
キアヌをアクションスターへとカムバックさせたリーチが本作を監督するとあって(当然ながら共同監督であり続編の単独監督でもあるチャド・スタルスキの功績でもある)、まさに女性版「ジョン・ウィック」的な作品になるだろうと思っていたのだが、実際はより硬派で、コンゲームを全面に押し出したスパイ映画に仕上がっていた。
当然ながら、「ジョン・ウィック」の監督であるリーチが、自ら女性版「ジョン・ウィック」的作品を製作したのでは芸がないが、とは言え観客の多くが本作に期待したのはそれであるのは間違いなく、個人的にはやや肩透かしを食らった感がある。
実際、ひとたび走り出したらひたすらアクション一辺倒だった「ジョン・ウィック」と比較しても、本作は要所で素晴らしいアクションが用意されてはいるが、そのボリューム自体は決して多くはなく、いわゆるアクション映画的作品を期待して鑑賞するのは得策ではないだろう。
しかしながら、前述のようにアクションの質自体はあまりにも素晴らしく、特に誰もが印象に残るであろう終盤の数分間に及ぶ疑似ワンカットワンシーンのアクションシークエンスには惚れ惚れしてしまう。
正面切ってのガチバトルでもなく、スタイリッシュでもなく、ひたすら生々しく痛々しいアクションが展開される。
このアクションの装いはまさに「ジョン・ウィック」の系譜であり、デヴィッド・リーチ監督の作風が顕著に表れていると言えるだろう。
そして、この凄絶なアクションシーンのためにトレーニングを重ね、撮影を成功させたシャーリーズ・セロンの才能と努力には大いに賞賛を送りたい。
恐らくほとんどスタントなしでセロンが実際にアクションをこなしているのは間違いなく、その撮影が相当に過酷なものであっただろうことは容易に想像出来る。
「マッドマックス 怒りのデス・ロード」でさらに多くのフォロワーを得たセロンは本作でも製作に入っており、その意気込みを十分に感じさせる演技とアクションであった。
さて、アクション自体は決してスタイリッシュなわけではないが、その一方で、映像そのものは非常にスタイリッシュかつロマンティックである。
オープニングからの数分間、赤と青を基調とした冷たい映像と音楽から伝わる圧倒的センスは凄まじく、すっかりとその世界観に魅了されてしまった。
ところが問題はここからで、いざ物語の本筋が幕を開けるとそれまでのトーンは一気にダウンし、少々退屈な展開となってしまう。
主人公ロレーンの回想形式で語られるベルリンの壁崩壊前夜に起きた一連の事件の顛末は、コンゲーム的な様相を帯びていくが、それがどうにもカタルシスへと繋がってこない。
これに冒頭で述べたアクションのボリューム不足が加わり、物語中盤は盛り上がりに欠ける。
決してテンポが悪いわけではないが、上映時間のわりには長く感じてしまった。
街中での尾行には一瞬で気付くのに、コートの襟に隠された盗聴器には全く気付かないと言うのも超一流のスパイ設定としては如何なものだろうか。
「ジョン・ウィック」はアクションの勢いで多少の粗や物語の単純性を感じさせなかったが、本作は物語そのものが作品の基盤となっているため、その物語に魅力を感じないと評価が低くなってしまうのも致し方ない。
シャーリーズ・セロンが本作の絶対的アイコンになっているのは当然ながら、ドジっ子萌えキャラ属性を持ったジェームズ・マカヴォイや脇で作品の雰囲気をグッと占めてくれたジョン・グッドマン、トビー・ジョーンズらの演技も印象に残った。
話題作への出演が続くソフィア・ブテラもスパイとして個性を発揮しており、セロンとの濡れ場は非常にエロティックであった。
舞台となった1980年代を彷彿とさせる音楽や俳優(「ラ・ラ・ランド」的であり「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」的でもある)を上手く使って、世界観の構築も丁寧にされている。
ユーモアをほとんど感じない重々しい雰囲気にはやや息苦しさも感じるが、東西冷戦下の緊張状態を表現するにはそれも仕方なしか。
脚本の凡庸さには個人的には落胆したが、映像・音楽・アクションの面では大満足で、シャーリーズ・セロンが改めて稀有な女優であることを実感するには十分な良作であった。
評価 75点
2017年10月27日 劇場鑑賞
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