宇田川耕一の「天まで昇れ札響通信」

札幌交響楽団の更なる飛翔(昇天ではありません)を願い、ほぼ全てのコンサートをレビュー!

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プレイバック08年⇔大型連休中の3日の昼下がり、初夏を思わせる新緑が目に鮮やかな札幌・中島公園を歩いて、キタラへと向かった。札響の「きがるにオーケストラ―大作曲家の世界―」を聴くためである。

指揮は李心草(リシンサオ)、ピアノはサー・チェン、共に70年代生まれで、札響初登場となるフレッシュな顔合わせ。客席は子供連れが多いかと予想したが、意外にも各年齢層から幅広く集まっていた。そのためか、司会者を用意するなどの特別な演出のないシンプルな構成で、通常の定期演奏会に近い印象である。
 
前半はサー・チェンの独奏によるショパンのピアノ協奏曲第2番。技巧は確かだが、強烈な個性で勝負するタイプのピアニストではないようだ。ショパンの美しい響きが前面に出た素直な明るい演奏だが、「このピアニストならでは」という魅力には不足していた。

後半の李指揮によるベートーベンの交響曲第3番「英雄」が聴き応え十分の名演奏。なによりも指揮者のこの曲に懸ける気迫がすごい。速めのテンポできびきびと進めるが、ここぞというところでは、若手とは思えぬ「こく」のあるずしりとした表現もみせる。50分ほどの長い大曲を、一気に聴かせた力量には脱帽した。終演後、指揮者の姿が一回り大きく見えたほど。

このところ巨匠級の指揮者に率いられ、緊張感あふれる定期演奏会が続いていた。そんな中で、若手2人をもり立てようとする札響の、ややリラックスして伸び伸びとした演奏に、聴き手もリフレッシュできた演奏会であった。
 
※当コラムは新聞掲載記事をもとに、筆者自身がリライトしております。オリジナルの著作権は写真(筆者撮影)も含め毎日新聞社にあります。無断転載は固くお断りします。
第24回を迎えた「道銀ライラックコンサート」、指揮は札響正指揮者の高関 健、チェロ独奏は札響首席奏者で、道銀芸術文化奨励賞を受賞した石川祐支がつとめた(敬称略)。
 
「セヴィリアの理髪師」序曲 ★★★★
ラロ「チェロ協奏曲」 ★★★☆
ベートーヴェン交響曲第3番「英雄」 ★★★★☆
(10点満点 ★=2点 ☆=1点)
 
ロッシーニの歌劇「セヴィリアの理髪師」序曲で幕開け。高関は昨年の「名曲シリーズ」でもロッシーニの序曲をまとめて取り上げるなど、イタリア物にも強い。軽快なリズムに乗って、ロッシーニ特有の思わず口ずさみたくなるような名旋律が駆けめぐる。これならば、「名曲シリーズ」のような指揮者による解説は不要であろう。
 
ラロの「チェロ協奏曲」はプログラムの解説によれば代表作とのことだが、私は今回初めて聴く曲である。ラロといえば、何といっても「スペイン交響曲」(ヴァイオリン協奏曲第2番)が有名である。「チェロ協奏曲」にも、「スペイン交響曲」同様に、スペインを思わせる明るい旋律や軽やかなリズムが溢れていて、聴いていて楽しい。
 
ソリスト、オーケストラ共に弾き慣れた曲とは(多分)いえないので、そのためか、ところどころに表情の硬さも見られた。しかし、あえてこの曲を取り上げた意欲には敬意を表したい。
 
休憩をはさんで、後半はベートーヴェン交響曲第3番「英雄」。高関は大阪センチュリー交響楽団と2002年頃にベートーヴェン交響曲全集を録音していて、それらのCDは私の愛聴盤である。今回もベーレンライター版に基づくすっきりとした表現で、表面的には大きな違いは無いようにみえる。
 
だが、私は今回の実演から、CDでの演奏を大きく上回る感銘を受けた。CDと実演、あるいはオーケストラの違いもあるのだろう。しかしそれ以上に、均整を保った端正な表現のところどころから、溢れ出るような熱い感興が感じられ(ちょっと意外ではあったが)、そこに大いに共感をおぼえた。
 
 
指揮とお話に「アキラさん」こと宮川彬良を迎えた特別演奏会「アキラさんのモダン・コンサート2010」を聴いた。アキラさんの名編曲と新井鴎子の巧みな構成は今回も見事に決まり、理屈抜きで楽しめる2時間となった(敬称略)。
 
「第1部」ミュージカル、スクリーンから ★★★★☆
「第2部」東京・大阪 そして札響 ★★★★
(10点満点 ★=2点 ☆=1点)
 
大型連休入り直前、しかも例年になく寒く小雨がぱらつくという最悪のコンディションで、毎回完売を誇るこの公演にも今回は若干の空席が見られた。それでも人気はさすがで、ステージ袖からアキラさんが登場するだけで、自然に拍手と笑い声が起こる。
 
タイトルからは分かりにくいかもしれないが、このコンサートは、ポピュラー音楽やクラシックの名曲をフル・オーケストラにアレンジして聴かせるという、いわゆる「ポップス・コンサート」とは一味違う工夫が加えられているのが特徴である。
 
たとえば、前半の第1部では「半音」をテーマに、作曲家が「愛情表現」にいかに「半音」を上手く使っているかを、自らピアノを弾きながら解説する。ベートーヴェンの「エリーゼのために」を用いて、出だしのフレーズを「うじうじうじうじじ〜」と節をつけながら弾き語りする。それだけで、いかにもベートーヴェンらしい、不器用な愛情表現が一発で客席に伝わる。
 
その解説があればこそ、ルグラン:シェルブールの雨傘やマンシーニ:ひまわりなどの選曲が生きてくる。これらの曲にも、確かに半音が効果的に使われている。作曲家・宮川彬良の分析力が、このコンサートを一本筋の通ったものにしているのである。
 
後半の第2部も同様の趣向だが、こちらはやや凝りすぎの感もあった。「東京ドドンパ娘」などは、もう少しストレートな表現でも良かったのではないかとは思う。しかし、ここでもアキラさんの意図は徹底していて、「表現者としての強い意欲」は十分に伝わった。
 
プロ中のプロによる、表面的には面白いがじつは真剣な再現芸術の凄みに、思わず背筋を伸ばす瞬間が幾度となくおとずれた。
プレイバック09年⇔指揮とお話に「アキラさん」こと宮川彬良を迎えた特別演奏会「アキラさんのモダン・コンサート2009」を聴いた。「昭和」を彩る名曲をフル・オーケストラで楽しもうという試みは、アキラさんの名編曲と新井鴎子の巧みな構成により見事に成功していた。
 
第1部は「日本の名歌」と題して、沖縄から「島唄」「花」、アキラさんの父である宮川泰の代表曲「恋のバカンス」、越路吹雪の名唱「愛の讃歌」ほかを演奏した。
 
中でも日本の洋楽受容史上のエポックである「浅草オペラメドレー」では、札響首席奏者のトランペット・福田善亮とトロンボーン・山下友輔が、赤い蝶(ちょう)ネクタイを着けた凝った扮装(ふんそう)で登場、「ベアトリねえちゃん〜恋はやさし野辺の花よ〜女心のうた」を、演技も交えて披露した。

第2部「異国への憧(あこが)れ」は、「海外旅行を音楽で体験したあの頃」というコンセプト。「ヘイ・ジュード」や映画音楽「追憶」に続いて、この日のメーン・ディッシュである「音楽で世界旅行!!」が始まった。
 
山口百恵の大ヒット曲「いい日旅立ち」を、アキラさんが世界各国の「ご当地ソング」に編曲するという趣向である。ヨーロッパ編では、イタリア民謡あり、ウィンナー・ワルツあり、そしてハンガリー舞曲風のアレンジの後、飛行機のジェット音による効果音が流れアメリカ大陸へ移動。アルゼンチン・タンゴやミュージカルの「ウエスト・サイド・ストーリー」が登場するといった具合で、才人・アキラさんの見事な手腕には脱帽、会場からも大きな拍手が送られた。
 
※当コラムは新聞掲載記事をもとに、筆者自身がリライトしております。オリジナルの著作権は写真(筆者撮影)も含め毎日新聞社にあります。無断転載は固くお断りします。
 
 
2010年度の定期演奏会シーズンは、首席客演指揮者ラドミル・エリシュカによるチェコ音楽で開幕した。曲目はドヴォルジャーク序曲「謝肉祭」、「交響曲第5番」、そしてヤナーチェク「シンフォニエッタ」 である(敬称略)。17日昼の公演を聴いた。
 
ドヴォルジャーク序曲「謝肉祭」 ★★★★
ヤナーチェク「シンフォニエッタ」 ★★★★☆
ドヴォルジャーク「交響曲第5番」 ★★★★★
(10点満点 ★=2点 ☆=1点)

エリシュカと札響の幸福な出会いと絶妙な関係については、すっかり有名になった。とはいえ、華やかなスター指揮者ではなく、英語もほとんど話せない。そのためリハーサルも当初は困難が多かったが、共演を繰り返すたびに、意思の疎通もスムーズになってきたようである。

以前に練習風景を見たが、とにかく妥協しない指揮者である。自分のイメージが強固にあって、ひたすらそれを実現しようとするプロセスの繰り返しである。ただ、その表現の仕方に嫌みがなく、作品の偉大さに迫ろうとする強い意欲が伝わるので、団員も(楽ではないだろうが)しっかりとついていく。今回は、演奏機会の少ないドボルジャークの交響曲第5番がメインということで、エリシュカの要望により練習日も一日多く取ったという。ここまでの準備をした演奏が、悪かろうはずはない。
 
そして本番はその期待通り、いや期待以上!まさにシーズン開幕に相応しい、目を瞠るような美しい演奏となった。 「謝肉祭」序曲冒頭から、やや硬質ながらも雰囲気のある豊かな音楽が流れ出す。尾高忠明音楽監督や高関健正指揮者が指揮する札響とは、音色も微妙に違う。これが一年間を通して同じオーケストラを聴き続ける醍醐味でもある。
 
「シンフォニエッタ」は、かつてチャールズ・マッケラスがチェコ・フィルを指揮した実演を聴いたが、それと同等か、あるいは上回る快演。ただ、金管のバンダが舞台後方のP席に並んでいた(そのため、筆者の定期会員席・定位置から移動した)ため、金管が少し強すぎるような気がした。エリシュカの指示だろうが、この音量バランスだけは不満が残った。

今回最も感動したのは、念入りな練習を積んだというドヴォルザークの交響曲第5番である。実演では久しぶりに聴く曲なので、自宅で先日亡くなったオトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ドレスデンのCDで予習して臨んだが、この演奏なら初めて聴く人にも曲の良さが伝わるだろう。
 
やや冗長な感もある終楽章も、このコンビの手にかかるとスリリングな展開になる。特に民族色を強調した演奏というわけではないのだが、とにかくテンポがピタリと決まっているので、佇まいが美しい。背筋がピンと伸びた演奏で、80歳近い老巨匠の指揮による音楽とはとても思えない。
 
この日キタラに足を運んだ私は、本当に幸運であったと思う。

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