宇田川耕一の「天まで昇れ札響通信」

札幌交響楽団の更なる飛翔(昇天ではありません)を願い、ほぼ全てのコンサートをレビュー!

プレイバック2009

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昨年の札響演奏会を自筆のレビューをもとに振り返ります。はたしてその後1年で札響はどこまで羽ばたいたのでしょうか(敬称略)。
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プレイバック09年(昨年の札響を当時のレビューで振り返ります)⇔11月28日土曜日、雪の降りしきる中を中島公園を通ってキタラに向かった。札響名曲コンサートの第3回のテーマは「イタリア」、南欧イタリアの音楽は寒い日には最高のプレゼントである。
 
前回の「チェコ」では見られなかったが、名曲コンサートでは指揮者によるトークが恒例になっている。この日は正指揮者の高関健が開演前にマイクを持って一人でステージに現れた。

「イタリアといっても、今日はヴェルディやプッチーニではなく、ロッシーニとレスピーギを取り上げます。ロッシーニは美食家としても有名で、ロッシーニ風ステーキという、ステーキにフォワグラを添えたものがあるぐらいです」といった具合に高関の解説が始まると、会場全体が和やかな雰囲気に包まれてくる。
 
前半はそのロッシーニの序曲集。歌劇「セビリアの理髪師」、「ブルスキーノ氏」、「チェネレントラ」、「ウィリアム・テル」の各序曲を並べた。高関の解説によれば、通常演奏されている版とは少し異なる原典版や、最新の研究成果を取り入れた楽譜を使用したという。そのためかなり詳しい上級者でも、それなりに違いを楽しめる仕組みである。 
 
高関の指揮には曖昧なところはない。そのためロッシーニ作品の疾走感が際立ってくる。札響も「チェネレントラ」のような滅多に演奏されない作品でも、ぎこちなさを感じさせることはなく、作品の魅力を十分に伝えていた。
 
後半は、弦楽合奏によるレスピーギの「リュートのための古風な舞曲とアリア第3組曲」のしっとりとした情感あふれる演奏に続いて、交響詩「ローマの松」という、名曲コンサートに相応しい大スペクタル作品が組まれた。
 
高関は大編成の作品を、濁らずにくっきりと表現することでも定評がある。パイプオルガンとバンダと呼ばれる別働隊も加わった大編成のオーケストラが、高関の指揮により一糸乱れず統率されている様子は、音だけでなく視覚的にも十分に楽しめる。 「私は噴水、松、祭のいわゆるローマ三部作のなかでは、オーケストラの響きが効果的なこのローマの松が最も好きです」という高関の作品への思い入れが良くわかる熱い指揮によって、札響の演奏もこの日一番の盛り上がりを見せた。
 
お楽しみのアンコールは意表をついて、イギリスの作曲家エルガーの「威風堂々第1番」が演奏された。「イタリアとは無関係な作品ですが、じつはこのホールで翌週に行われるキタラファーストコンサートで小学6年生にこの威風堂々を聴いてもらいます。皆様もここは小学生になった気分で、楽しんで下さい」
 
その高関の言葉通り、11月30日と12月1、2日には1日2公演ずつ計6回の子供を対象にしたコンサートも開かれた。まさにキタラのこの1週間は「高関ウィーク」であった。
 
※当コラムは新聞掲載記事をもとに、筆者自身がリライトしております。オリジナルの著作権は写真(筆者撮影)も含め毎日新聞社にあります。無断転載は固くお断りします。
 
プレイバック09年⇔17日にPMF札響演奏会がキタラで開催された。正指揮者・高関健の指揮で、クラリネットのペーター・シュミードルとマンフレート・プライス、東京クヮルテットが出演した。

最初はウィーンで活躍したクロンマーの「2つのクラリネットと管弦楽のための協奏曲」という珍しい作品。シュミ―ドルとプライス、名手2人による華やかな掛け合いが主役を務め、札響も上品な響きでソロをバックアップしていた。
 
2曲目はPMFレジデント・コンポーザーのレーラ・アウエルバッハが作曲した、弦楽四重奏と室内オーケストラのための「Fragile Solitudes」の日本初演。公式プログラムの作曲家自身の解説によれば、「人が孤独なときに起こる様々な心模様」を表現したという。東京クヮルテットの演奏が素晴らしい。4人の弦の響きがまるで1つの楽器のように揃っていて、曲想にあった沈潜した深い音色が美しい。高関の指揮する札響も難曲をクリアして実力を十分に発揮していた。

バルトークの「管弦楽のための協奏曲」は、同じ演奏者による07年の定期での名演奏が記憶に新しい。このときは対向配置による演奏で、バイオリンの左右の掛け合いが楽しめたが、今回はアウエルバッハ作品の影響からか、一般的な配置であった。
 
タングルウッドでバーンスタインに指導を受けた曲をメインにしただけに、高関の気合も十分、先月の定期での「カルミナ・ブラーナ」に続く、渾身の名演奏となった。
 
※当コラムは新聞掲載記事をもとに、筆者自身がリライトしております。オリジナルの著作権は写真(筆者撮影)も含め毎日新聞社にあります。無断転載は固くお断りします。
プレイバック09年⇔7、8月の札響は、定期演奏会こそ9月までひと休みだが、全道各地での公演や、PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)ウェルカム・コンサートなど、充実した夏のシーズンを迎えた。
 
まず、6月27日には「札響名曲シリーズ」の第1回「ロシア」がキタラで行われた。札響音楽監督・尾高忠明の指揮で、チャイコフスキーの三大バレエ音楽「白鳥の湖」「くるみ割り人形」「眠りの森の美女」からの抜粋とグラズノフのバイオリン協奏曲というプログラム。ソロは札響コンサートマスターの三上亮が務めた。

「三大バレエ」は作曲者自身の選曲による組曲の演奏が多いが、そこはプログラムに定評ある尾高監督のこと、組曲以外の曲も取り入れ、独自の世界を作り上げていた。
 
名曲シリーズの恒例である指揮者による解説でも、尾高の名調子がさえる。「くるみ割り人形」の「こんぺいとうの踊り」で初めて使われた「チェレスタ」という楽器を紹介したが、その中で作曲者自身が初演まで、この楽器の使用を(特に同業者であるリムスキー・コルサコフ等の作曲家には)秘密にしていたエピソードを披露。会場を沸かせていた。

尾高は7月5日のPMFウェルカム・コンサート(キタラ)にも登場。ソロはフルートにヴォルフガング・シュルツ、ハープはクサヴィエ・ドゥ・メストレというPMFウィーンのメンバー。曲目はメンデルスゾーンの序曲「フィンガルの洞窟(どうくつ)」、モーツァルトのフルートとハープのための協奏曲、R・シュトラウスの「英雄の生涯」であった。

共にウィーン・フィルの首席奏者であるフルートのシュルツとハープのメストレはさすがに見事なアンサンブル。典雅なモーツァルトの世界が一瞬にしてステージに現れた。
 
続く大編成の「英雄の生涯」ではPMFオーケストラからのメンバーもゲスト出演し、キタラでのPMF開幕を華麗に彩った。この曲はバイオリンのソロが大活躍する。コンサートマスターの三上亮は、名曲シリーズでのグラズノフの協奏曲に続き、絶妙のソロを披露。尾高監督・札響とのコンビネーションも実に素晴らしい。尾高もグラズノフの共演後に解説で、「これほど上品なこの曲のソロ演奏は初めてだ」と手放しで称賛していた。
 
※当コラムは新聞掲載記事をもとに、筆者自身がリライトしております。オリジナルの著作権は写真(筆者撮影)も含め毎日新聞社にあります。無断転載は固くお断りします。
プレイバック09年⇔指揮とお話に「アキラさん」こと宮川彬良を迎えた特別演奏会「アキラさんのモダン・コンサート2009」を聴いた。「昭和」を彩る名曲をフル・オーケストラで楽しもうという試みは、アキラさんの名編曲と新井鴎子の巧みな構成により見事に成功していた。
 
第1部は「日本の名歌」と題して、沖縄から「島唄」「花」、アキラさんの父である宮川泰の代表曲「恋のバカンス」、越路吹雪の名唱「愛の讃歌」ほかを演奏した。
 
中でも日本の洋楽受容史上のエポックである「浅草オペラメドレー」では、札響首席奏者のトランペット・福田善亮とトロンボーン・山下友輔が、赤い蝶(ちょう)ネクタイを着けた凝った扮装(ふんそう)で登場、「ベアトリねえちゃん〜恋はやさし野辺の花よ〜女心のうた」を、演技も交えて披露した。

第2部「異国への憧(あこが)れ」は、「海外旅行を音楽で体験したあの頃」というコンセプト。「ヘイ・ジュード」や映画音楽「追憶」に続いて、この日のメーン・ディッシュである「音楽で世界旅行!!」が始まった。
 
山口百恵の大ヒット曲「いい日旅立ち」を、アキラさんが世界各国の「ご当地ソング」に編曲するという趣向である。ヨーロッパ編では、イタリア民謡あり、ウィンナー・ワルツあり、そしてハンガリー舞曲風のアレンジの後、飛行機のジェット音による効果音が流れアメリカ大陸へ移動。アルゼンチン・タンゴやミュージカルの「ウエスト・サイド・ストーリー」が登場するといった具合で、才人・アキラさんの見事な手腕には脱帽、会場からも大きな拍手が送られた。
 
※当コラムは新聞掲載記事をもとに、筆者自身がリライトしております。オリジナルの著作権は写真(筆者撮影)も含め毎日新聞社にあります。無断転載は固くお断りします。
 
 
プレイバック09年⇔09年度の札響定期演奏会は、昨年、首席客演指揮者に就任したチェコの巨匠ラドミル・エリシュカの指揮で幕を開けた。ヤナーチェクの組曲「利口な女狐の物語」(ターリッヒ編)、モーツァルトのバイオリン協奏曲第3番、ドボルザークの交響曲第7番というプログラムで、協奏曲のソリストには木嶋真優を迎えた。

音楽監督の尾高忠明が、日本ではほとんど知られていなかったチェコの指揮者エリシュカの演奏録音を聴き、「これは大変な指揮者だ。ぜひ札響を指揮していただきたい」と定期演奏会に招いたのが06年12月のこと。その慧眼どおり、リムスキー=コルサコフの交響組曲「シェエラザード」などで圧倒的な名演奏を繰り広げたエリシュカは、異例のスピードで首席客演指揮者に迎えられた。

このエピソードと評判は日本中を駆け巡り、NHK交響楽団の定期演奏会にも登場。その演奏がNHK教育テレビの「N響アワー」で放映され、キタラにも東京から多くの音楽関係者が駆けつけるなど、地味ながらも「エリシュカブーム」が起きている。

ヤナーチェク作品は、そのエリシュカが情熱を傾けるチェコの音楽だけあって、経験に裏打ちされた解釈は説得力十分。札響の響きが、以前キタラで聴いた本場の名門オーケストラ、チェコ・フィルハーモニーとそっくりになっていることに驚かされた。これもエリシュカ効果であろう。

続くモーツァルトは木嶋のソロが力演ではあったが、前後のチェコ音楽に比べると、やや特徴に乏しい演奏になっていたのが物足りなかった。

ところで、エリシュカの練習指導には「妥協」という文字がない。満足がいくまで繰り返し演奏する。その成果は、後半のドボルザークでも存分に発揮されていた。舞曲のリズムをしっかりと刻んだ第3楽章では、チェコ音楽特有の哀愁が感じられ、続く第4楽章は、劇的な表現で壮大なクライマックスを築いた。

何よりも素晴らしいのは、エリシュカの指揮がどれほど激しい表情をみせても、札響が音のうるおいを失わないことである。両者の幸福な結びつきが、昨年よりも一層強くなっていることを感じさせる充実した演奏会だった。
 
※当コラムは新聞掲載記事をもとに、筆者自身がリライトしております。オリジナルの著作権は写真(筆者撮影)も含め毎日新聞社にあります。無断転載は固くお断りします。

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