日本で大ヒットを記録した「恋する惑星」(重慶森林 CHUNGKING EXPRESS)はまさし
く、邦題の勝利といおうか、原題の「重慶森林」の名では日本では絶対にヒットしなかったハズ。
この映画は香港・九龍にあるネイザンロードに面したインド人やアラブ人、アフリカ系の人々が雑居する
「重慶大廈(チョンキン・マンション)」と香港島の中環(セントラル)の坂を上がった蘭桂坊
(ランカイフォン)というバーストリート付近でメインに撮影されている。
重慶大廈といえば、安宿の集まる雑居ビルとして宿代の高い香港ではそのスジの旅行者には名高い。
ビルの内部は複雑怪奇な迷路の様相を極めており「AKIRA」の世界に飛び込んだよう。
カレーのマサラとケバブの羊の肉を焼く香ばしい匂い。時々聞こえるチベット仏教やシーク教徒の読経、
イスラム教のコーラン、甘いお香の香り、キンキンに響くインドポップスと、「無国籍迷宮世界」なので
ある。その「鬼が出るか、蛇が出るか」的な雰囲気がたまらなく楽しい。
(人によっては絶対に近づきたくない場所かも。)
映画劇中、密輸を企てる、金髪にサングラスのブリジット・リン(林青霞)が、インド人相手にかけめぐ
るこのビルの「ヤバさかげん」は実際の風景と全くもってその通りのままだった。
(何故、原題が「重慶森林」”ジャングル”なのかはあそこに行った人にしか分からないと思う。)
蘭桂坊(ランカイフォン)は日本のガイドブックにはよく「香港の六本木」などと紹介されているリッチ
そうな外国人の集まるオシャレストリート。(重慶大廈と違いここは白人ばかり)
映画の主人公である”フェイ”ことフェイ・ウォン(王菲)はこの通りにあるスタンドカフェ
”Midnight Express 深夜特急”で働いている、という設定。
(この名前も出来すぎている!)
このスタンドカフェ、坂のどんつきの分かりやすい場所にあり、映画がヒットしたお陰で日本人客がグッ
と増えたそうな。(お店のママさん談) 映画にも登場した”カリフォルニア”というレストランはこの
すぐ向かい。
坂を登るエレベーターとその脇にあるという設定の、おとぼけ警察官633(トニー・レオン)住むアパー
トもこの蘭桂坊から歩いてすぐ。この坂の辺りは洒落たヒップな店と下町の雰囲気が混在していて散策し
ていて実に面白い。
この映画の大ヒットで一躍日本で有名になったのはフェイ・ウォンこと王菲。中華ポップスファンには
シャーリー・ウォンの名でかつては知られていたが、映画を観てびっくり。しばらくご無沙汰だと思った
ら芸名も変えて女優デビューしていたとは。しかし、この映画で彼女を始めて知った人は「香港人の
女優」だと思ったらしい。(彼女はれっきとした北京人です。)
警察官役のトニー・レオンも好演だった。以前、台湾映画「悲情城市」を観て「この俳優の演技力と存在
感は凄い・・・」と思っていただけに、この映画でのひょうきん役には少し驚きだった。
金城武もこの映画でブレイク。めでたし、めでたし。
主題歌である、クランベリーズの広東語カバー「夢中人」もヒットした。以前、フェイ・ウォンの来日
コンサートを武道館に観に行った折、皆ずっとおとなしく座って聴いていたのが、この曲のイントロが
始まった途端にいきなり総立ち! (オイ、それはちょっとないだろ・・・。しかしテレサ・テンのカバー
には泣けましたが・・・)
今まで日本で香港映画といえば、ジャッキー・チェンなどのカンフーアクションものか、キョンシー映画
か、はたまた、ミスターBooなどのドタバタ喜劇か、と思われていたが(正直、あまり垢抜けていな
いというイメージ)この映画のヒットでこんなスタイリッシュなラブ・コメディーものもあるのだと、
日本人の香港映画に対する印象を覆したという功績は大きかったと思う。
その後、ウォン・カーウェイ監督作品は次々と好調なヒットを飛ばした。久々にこの映画のビデオを観て
思った。あの返還前のどこへ向かおうとしているのか当の香港人にも分からないそんな、返還前夜の疾走
感を、あの映画は体現していたのではと−。(ある意味、記録映画?)
※実は僕が一番好きなウォン・カーウェイ作品はこの「恋する惑星」ではなく「欲望の翼」。
多分、ベストムービーのひとつに入るかも。
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