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昨日、フランクフルトの Literaturhaus で大江健三郎の講演がありました。 大江氏の作品は難解すぎるのでほんの数冊しか読んだことがありませんが、 その昔、メキシコでオクタビオ・パスとのWノーベル賞作家による講演を 見たことがある私は、勝手に大江健三郎という作家に親近感を持っています。 日本でだって滅多にお目にかかる機会がないお方に、まったく違う二つの 国で会えるなんて、運命的にさえ思え...、ませんね(笑)。 講演では翻訳者による大江氏の紹介の後、大江氏による作品「さようなら、 私の本よ!」の解説、独日での朗読が行われました。そしてその後聴衆 からの質問に答えてくれることになりました。大江氏がノーベル賞作家 だから、という理由で集まって来た人が多かったのでしょうか。それとも 難解すぎて質問もできないからでしょうか。一瞬会場はシーンと静まり かえり質問をする人は誰ひとりいないかのように思われました。が、すぐ さま「はいっ」と手が上がりました。それは一人の日本人のオバさんでした。 作品についての質問かと思いきや、オバさんは 「最近、日本では携帯小説が流行っていますが、それについてどう お感じになりますか?ご自身もお書きになりたいと思われますか?」 というようなことを聞きました。瀬戸内寂聴が携帯小説を書いてみたから、 とはいえ、相手はノーベル賞作家です。しかも難解な文章を特徴としている 大江氏に対して携帯小説に関する質問は適しているとは思えませんでした。 案の上、氏は少々気分を害したようで、「そんな気はまったくありませんね」 とあっさり答えていました。 講演が終わるとサイン会が行われました。彼の作品をわざわざドイツ語で 読むつもりはないのですが、サイン欲しさにドイツ語訳の本を買い、列に 並ぶことにしました。私の前には先ほど質問をした日本人のオバさんが ご友人と一緒に並んでいました。 「教えてもらったおかげで、今日はいい経験ができたわ〜。どうもありがとう ございます。それに先ほどの質問、なかなか的を得ていて素晴らしかったです。」 とご友人はオバさんを褒めちぎっていました。二人もやはりドイツ語訳の 本を買っていて、あーだ、こーだと作品の登場人物の名前を確かめ合って いました。 「映画監督の名前はなんだったかしら。あ、ゴローね、ゴロー。」云々 大江氏はかなりお疲れのようで、一人で4冊も5冊も持ち込んでいる人には 2、3冊だけサインをし、残りは断わっていました。確かに、ペンで名前を 書いた後に丁寧に印鑑を一つ一つ押してくれていたので大変だったろうと 思います。それでも強引にサインをいくつももらおうとする人もいて、その 度に氏は頑なに拒んでいました。待つこと約30分、ようやく順番が回って きたオバさんは、本を差し出しすかさず、 「先生、ゴローさんだったら、どんな映画をおつくりになられますでしょうか」 と質問をしました。すると大江氏はかなりうんざりした表情をして 「ヒトをバカにするものいい加減にしなさい。あなたね、そういうのはやめた方がいい。」 と言いました。オバさんは面喰っていました。まさかノーベル賞作家に注意 されるとは夢にも思ってもいなかったのでしょう。「ゴローさん」というのは 大江氏の義兄にあたる伊丹十三がモデルになっています。その自殺のショック から立ち直る過程で書かれた作品が今回紹介された「さようなら、私の本よ!」 です。それなのにずけずけと他人の心に踏み入るような無神経な意味のない 質問。気分を害すのは当然です。 外国にいるとつい「黙っていては負け」「言ったモノ勝ち」みたいに振る舞い がちです。だからと言って何でもいいから言えばいいというものではありません。 自分で作品を鑑賞したことすらないのに、そんな上っ面な質問をしたところで 無知をさらすだけです。偉大な作家に失礼です。自分だけいっぱいサインを もらおうとする欲の深い人間や、意味もなく目立とうとする浅はかな人間を 氏は最も嫌っているように思えました。日本人として、謙虚さや、相手を 思いやり尊重する気持ちは忘れたくないものだ、としみじみ思った瞬間でした。 さて、そんな光景を目の当たりにしてちょっとドキドキしていましたが、 勇気を出して、14年前にメキシコでの講演を見たということを伝えました。 すると彼の顔はほころび、今は亡きオクタビオ・パスがいかに偉大だったか、 いかに若かりし大江氏に親切だったかを懐かしそうに話してくれました。 写真: Kenzaburo OE "TAGAME. BERLIN-TOKYO"
大江健三郎 「取り替え子(チェンジリング)」ドイツ語版
Octabio Paz "El laberinto de la soledad"
オクタビオ・パス 「孤独の迷宮」
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フランクフルトでの大江さん朗読会は、ミュンヘンとはずいぶん雰囲気が違ったみたいですね。
ミュンヘンでは、司会をした大学の先生(ドイツ人)と大江さんが旧知の仲らしく、進行の流れもスムーズでした。やはり丁寧にサインしてくださいましたが、みな一冊ずつという感じで節度は守られていたように思います。特に若い学生のような人が習いたての日本語で話しかけると、大江さんもうれしそうに応対されていましたよ。
私のほうの大江さん記事にもトラックバックはらせていただきました。
うちにも日本産のネコが二匹います。ネコの記事も書いてみようかな〜と思います。これからもよろしくお願いします。
2008/11/5(水) 午後 5:51 [ sisi ]
昨日、偶然にも、家で大江健三郎の話が出たのですが、娘は「誰、その人?」
と云っていました。。。う〜む。。。
2008/11/6(木) 午前 1:17
sisiさん、TBありがとうございます。司会と通訳の人は同じかもしれませんが、フランクフルトでは朗読は女性の方でした。sisiさんの記事を読ませていただくと、ミュンヘンの方が本当の大江ファンが多かったように思います。
日本の猫ちゃんが2匹もいるんですか〜。是非是非記事だけでなく写真も載せてくださ〜い。
こちらこそよろしくお願いします。
2008/11/6(木) 午前 5:02
紫桜さん、若い頃は私もそうでした〜(笑)。大学生の姪っ子が二人いますが、たぶん彼女らも同じ反応だと思います。少なくとも名前は正しく読めるよね?みたいな。
2008/11/6(木) 午前 5:16
国外で2度も会うなんて何となく運命的です。
「言ったもん勝ち」的な日本人が増え、何とも暮らしにくい
国になって居る気がしますね。
2008/11/6(木) 午前 7:06
「あなたならどうする?」「あなたならどう思う?」って質問って、相手を同等かやや下に見てる状態ですよね。かなり失礼です。日ごろそんな会話ばっかりしてるんでしょうね。感覚が麻痺してそうです。
そんな失礼な人のことはきっぱり切り捨てて、xirominさんの言葉をきっかけに思い出を懐かしく語る大江健三郎さんは素敵な方ですね。
ちょっとじんっと来ました。
2008/11/6(木) 午後 0:57
おんだなみさん、やっぱり運命的!?そのわりにはまだ数冊しか著書を読んでいないのですが…(笑)。
特に外国にいると、「言ったもの勝ち」的になりやすいのですが、それに「オバさん」キャラが加わると…、もうどうにもとまらなくなっちゃうんでしょうね〜。私も気をつけなくちゃ。
2008/11/6(木) 午後 2:22
UNIさん、外国だと自分の意見を求められることが多いから、それをかわすために先に聞いちゃう癖でもついてるんでしょうかね?でも相手を選ぶべき。本もろくに読んでいないのに、よくそんな質問できるな〜、とあきれてしまいました。
2008/11/6(木) 午後 2:27
時期的に、沖縄ノート訴訟の判決直後に渡欧なさったみたいですね>大江氏
きっとお疲れもたまっていたことでしょう。
まあ、そのオバサンも自分なりに考えての発言でしょうが、場の空気を読んでいただきたいか^^;
ちなみに大江氏の本は難解なイメージが強すぎて手が出せてませ〜ん。
2008/11/7(金) 午後 6:16
私は氏の本を読んだことも、読もうと思ったこともないのですが、難しい本なのですね。やっぱり読書が苦手な私です・・・
ドイツは朗読会って多いなと思ってましたが、大江健三郎さんがいらっしゃるとは!メキシコとドイツ、そしてxirominさんの不思議なつながりですね〜
2008/11/7(金) 午後 10:31
akaneさん、沖縄ノート訴訟の件は最初の紹介のところで言っていたそうです。私は具体的に何のことか知らなかったので、akaneさんのコメントを読んでから調べてみました。貴重なコメント、どうもありがとう。
大江健三郎の本は難解なものが多いですが、そうでないものを数冊だけ読んだことがあります。確か息子さんに関する話でした。次に日本に帰ったら何冊か買おうと思っています(読めるかな)。
2008/11/8(土) 午前 5:29
blueoceanさん、私も読書はずっと苦手でした。でもドイツ語をやるようになって、忍耐力がついたのか、読解力が養われたのか、なんだかわかりませんが、以前より本が読めるようになりました。なんでも訓練というか慣れ、みたいです。テレビを見るより本を読むのが好きになりました。これ、歳のせいかな?
日本には朗読会というものがない、と大江氏も言っていました。今回のは確か朗読会という名称でしたが、実際は朗読部分は少なくかったので講演会にしました。
2008/11/8(土) 午前 5:33
この人の小説、読んだは初期の作品数冊だけですが、
ものすごい熱気の文章でこれはすごいという印象をうけました。
しかし、なんとなくやっぱり読むのに時間がかかっちゃうので敬遠してしまうんですよね。
小説のタイトルだけで、衝撃を受けたのは
この人の『芽むしり仔撃ち』とか『見るまえに跳べ』だけです。
2008/11/8(土) 午前 11:32
chibisukeさん、ものすごい熱気の文章、ですか。そういう感想を伝えたら大江氏は喜んだでしょうね♪大江ワールドを理解するのはなんだかとっても難しそうですね。日本語でも難解なのにそれを外国語に訳せる人がいるって、すごい。でもちゃんと訳されているのかな、なんて疑問に思ったり(笑)。今度日本に帰った時、何冊か買ってこようと思っています。
2008/11/8(土) 午後 4:27
このおばちゃんは無知厚顔という言葉がぴったり。誘ったお連れの人の前でいいかっこうがしたかったのかもしれないですが恐ろしいですね。
2008/11/12(水) 午後 1:59
Liahさん、お連れの人との会話からこのお方達は駐○さんではなく、独人を夫に持つ人たちのようだったのですが、外国暮らしが長くなるとこうも厚かましくなってしまうのかと…。いい反面教師とさせていただきます。
2008/11/12(水) 午後 2:23
言っていいこと、言ってはならないことの区別がつかなくなるのは、ちょっときついな。日本人の外国生活が長いからという問題ではないものね。
大江健三郎かぁ〜。なかなかとっつきにくい文章で非文化人の私は本屋でちょこっと読んであきらめたわ・・
2008/11/13(木) 午後 8:41
ポーさん、大江健三郎はとっつきにくいですよね。でも何冊か読みやすいのもありました。息子さんに関するもの、だったかな。
大作家に向かってよくもまぁそんな薄っぺらな質問ができるな、とあきれてしまいました。オバさんキャラ炸裂ですよね。あ、私も気をつけなくちゃ〜。
2008/11/13(木) 午後 9:58
あの女性、その後お叱りを受けていたとは知りませんでした。それにしても同感!女性のあの質問には、私も少しガッカリさせられました。通訳の方もずいぶんと困っていましたしね。
2009/7/19(日) 午後 4:09 [ JAL_A350 ]
ケイタさん、こんにちは。あの場におられたんですね!あの女性、さらに浅はかなことを聞いていましたよ。そこまでなると、失礼ですよね。
2009/7/19(日) 午後 4:40