ドイツの生活 Mein Leben in Deutschland

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Negative Space

線だけで描くContour Drawing(日本語ではクロッキー)を練習した後は、Negative Space
という技法を習いました。これは、線ではなく影の濃淡で形を捉える、というもの。今まで
ガンガン線を引いていたのに、今度は線は使わずに「横塗り、縦塗り、斜め塗り、重ね塗り」
だけで描かなくてはならないというのはとても難しく感じました。

まずは二人組になってお互いの顔を描きっこしました。私の相手は例のアニメおたくの
スペイン人の若者だったのでまだよかったですが、彼にとって凹凸のない私の顔はさぞ
難しかったことでしょう(笑)。

モノのトーンはすべて違うのだから、濃淡だけで捉えることは可能なはず、と頭ではなんとなく
理解できても手が思うように動きません。気がつくと線に頼ってしまいそうになり、私は悪戦苦闘
していましたが、受講者の中には「こっちの方がラク」とさらさらと描いている人もいました。

顔を描いた後は、教室の真ん中に机を二つ並べて、その上に先生が持ってきたありとあらゆる
オブジェ、ゴム長靴、汚れたぬいぐるみ、ミニバスケットボール、ギター、プラスチックの保存
容器、藤の籠、あやつり人形、スニーカー、ボーリングのピン、合成皮革製のバッグ等々を
めちゃくちゃに置き、それを題材として描くことになりました。これらのオブジェは、一見そこら
へんに転がっていた要らないものを適当に持ってきたようですが、実は全部素材が違います。
鉛筆の濃淡だけでその素材感の違いを出すなんて絶対無理、と投げ出しそうになるのですが
迫力のある先生のことです。気がつくとみんな画用紙に向かっていました。

この練習では大まかな輪郭だけは線で描いてもいいことになっていました。でも描けば描くほど
なんだかめちゃくちゃになっていきました。中央にあった藤の籠だけは念入りに描きましたが
あとはいったい何の物体なのか不明、という誠に残念な仕上がりになってしまいました。

みんなが描き終わると、お互いの絵を鑑賞し意見を言い合います。ま、トホホな仕上がりは
きっと私だけではないはずだし、真っ向からケナす人なんていないので、人に自分の絵を見せる
のも気にならなくなってはいます。でも先生と数人の受講者が私の絵のところに集まって見入って
いたので

「ぎょぇっ、なんか遠近法もバランスもメチャクチャなんだよなー」

と、そこらへんを指摘されるのではないかと少々ドキドキしてしまいました。
ところが先生は、

I like your basket.

と言いました。

へっ????あ、そーですか。
まさか褒められるとは思っていなかった私はきょとんとしてしまいました。

授業の後、これらオブジェを先生の車まで運ぶのを手伝って「じゃ、また来週」と立ち去ろう
とした時、先生はまた

I really liked your basket.

と言ってくれました。

それがそのbasketの絵です。そう褒められるほどのものではないのはようくわかっていますが、
あえて載せちゃいます(恥っ)。この先生の場合、なんていうか持っている(少ない)力を伸ばし、
ヤル気を興させるツボをよく心得ているなーと思うのです。
イメージ 1

I like your basket.

日本語で同じようなコメントをするとしたら「籠がよく描けてるね」とでもなるでしょうか。「あなたの
籠が好きです」とはなりません。せいぜい「君の描いたこの籠、いいねぇ」だと思いますが、それが
英語だと私が絵に描いた籠はただの「籠」ではなく、「私の籠」になる、ということが妙に新鮮に
響きました。

そしてふと、その昔英語が大好きだった頃のことを思い出しました。親に褒められたことがあまり
なかった私はハリウッド映画なんかで、

I am proud of you. とか
I love you, my son.

などと親が子供に言ったりするシーンに密かに憧れていました。「あなたを誇りに思うわ」「息子よ、
愛している」は、翻訳の世界ではありえても、普通の日本語の世界でそんな台詞をはく人はいません。
男女間でだって「愛している」なんて言葉は、文学作品中にお目見えすることはあっても普段、口に
することはないのではないでしょうか?

そういう言葉がすっと言える文化に憧れを抱いていた時期があって、それで私は英語を一生懸命
勉強していたように思います。今はイギリスやアメリカにはまったく興味もなく、かえって毛嫌いして
いるくらいなのですが、久しぶりに「英語っていいなぁ」って思う瞬間を味わいました。

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