ほりごた!

今さら平沢進師匠にハマる。

小人の国

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小人の国37

 スチュワートが食事をする映像はその後しばらく目の前に流され続けたが、その映像は唐突に終わりを迎える。
 何か硬いものがぶつかりあったような音が森の中に聞こえる。その音は小さな音、大きな音を織り合わせて繰り返し響き合い、そして消える。
 明らかに森の中に響くには見合わない音だった。人工物がどこかから落ちてきたようなそんな音だ。
 私たち人間の耳にも聞こえたくらいだ。猫の形態をとっているスチュワートにとってはさぞかし大きな音に聞こえたことだろう。映像でわかるほどにスチュワートはびくりと驚き、そして音の下方向へと鋭い視線を向ける。

 しばらくその場で警戒するように音のした方を眺めていた彼だったが、今度は別の音が混じって聞こえてくる。

……ぽつぽつ。

 森の中に響きだしたのは雨が落ちる音。しかし、そのぽつぽつは、あっという間にノイズのように強い、ザーッという音に変わってしまう。

 スチュワートは一度雨の降る空を見上げ、しかしすぐに元みていた不審な音のした方向へと向き直る。まるで何かの気配を探っているようだ。

 そして、彼は雨の当たらない木の下から、一歩前へと踏み出した。途端視界は雨で遮られる。
 猫は雨が嫌いな生き物だ。雨に濡れ、体温が奪われれば、生死にかかわる。そうしたネコとほぼ同じ思考回路を持っている有機アンドロイドであるスチュワートにもそれは共通である。
そういう意味で、音が響くほどの大雨の中、木陰から一歩前へと踏み出したスチュワートの行動は驚くべきものだった。

 何かを決心したように、彼は一心に前へと進んでいく。
 そして、その行きついた先には、ボクのすぐ隣にいる彼女が横たわっていた。

小人の国 36

 とらえた小鳥を口にくわえると、彼は手ごろな木の上にあがっていく。
そこで落ち着いたのだろう。かれはバリバリと小鳥の頭にかじりつく。羽が飛ぶ。血が散る。そして石渡さんの顔色はさらに蒼白になっていく。

 蒼白な顔のまま固まっている彼女に声をかける。

「石渡さん、大丈夫ですか?」

「……あ、いや、なに、大丈夫だよ。ちょっと目の前で血が飛んだのに驚いただけだ。おかしいな。普段の仕事でも生き物が食べられるシーンなんてよく見てるのに。はは。いや、気にしないでくれ。大丈夫だから」

 自分以外の生き物が何かの命を奪う光景というものには、それほど大きな衝撃は受けない。しかし、自分が何か生き物の命を奪う光景というのは恐ろしいものだ。それは感覚的にわかる。
 今回は間接的にとはいえ、自分が先ほどまで生きていた動物にかじりついて食い殺すという光景を追体験することになったのだ。それはショックの大きいことだろう。

「別に強がらなくてもいいんですよ。スチュワートの食事の間だけでも目をつむっていても」

「いや、いい。大丈夫だから」

 彼女はそういうと彼の食事風景を蒼白な顔のまま見続ける。まるで刻みつけるように。

「なんだか、たぶん、生きるってこういうことなんだろうな」

 彼女のつぶやきの意図はボクにはわからない。
 目の前に見える映像ではただ淡々とスチュワートの食事が続いていく。

小人の国 35

 曇天のもと開けた視界のなか、シアター状に映し出された映像は少しずつ前へと歩みを進めていく。どうやらスチュワートが歩きだしたようだ。画像を変換したことによるラグや違和感もないし、どうやらスチュワートの見てきた記憶をうまくたどることができそうだ。
彼の進んでいく先は西の林の方。小動物が多く、彼はよくそこで狩りをしているようだった。今も恐らく狩りに向かっているのだろう。

 順調に歩みを進めていた彼だったが、不意にその歩みが止まる。映像だけではわからないが、どうやら彼の耳は獲物をとらえたようだ。彼の上体はグッと下にさがって藪の中に隠れこみ、相手に見つからないようにスリ足になる。じりじりと近づいて行き、藪の隙間からのぞきこんで、ようやく獲物の姿を視界でとらえる。どうやらどこにでもいる普通の小鳥のようだ。

 小鳥を視界に収めてから、彼の視線はわずかも動くことなく相手を見据えている。映像からでも彼の緊張感が伝わってくるようで手に汗握る。

 止まったような時間。動かない視界。しかし、決着は一瞬。

 停止していた視界が一気に加速し、上下に振れる。人間用に加工していない状態で今のシーンを見たなら、激しすぎる動きで気分が悪くなってしまったかもしれない。

 飛び出した彼は瞬時に小鳥に爪を立てる。彼に気が付き飛び立とうとした鳥は、反応のわずかな遅れによって彼の爪によって羽を引き裂かれる。
 そのまま彼の両手はしっかりと小鳥を地面に取り押さえ、そのまま首筋にかみついた。
ビクッビクッと痙攣していた小鳥は、わずかに血を流すと動かなくなった。

 彼にとっては普通の光景。命を奪って糧とする、ごく普通の光景。
 しかし、この映像を見た小人の彼女は真っ青な顔色をしていた。

 生態系から外れて生き、僕ら旧人類から供給される食べ物を食べて生きる彼らには、生き物が目の前で死ぬという光景そのものが異常だったのだ。

小人の国 34

 スチュワートがネコとして記録した映像媒体を、人間用へと変換し終えた。直接脳内へ情報を入れてもいいかもしれないが、それだと石渡さんと同時に映像を確認することができない。そこで、一度ネットワークにお互いの意識を再びリンクしてから、映像を主観視点映し出すという手段をとることにする。
 僕は先にプライベートモードの空間にアクセスする。その空間はまだスチュワートの世界にはなっておらず、先ほど石渡さんと向かい合った席が残ったままだった。

「ふむ、なんか時間がかかっているみたいだね」

 僕に遅れてネットワークのプライベート空間に現れた石渡さんは、怪訝そうな顔でそう言う。

「はい。猫の映像を人間用に変換したうえに、それを主観視点に変換して、さらにその視点の中に2人の意識を違和感なく紛れ込ませるなんていう、むちゃくちゃ高度なことを要求しているので、流石にこのコンピュータも悲鳴をあげているみたいです」

「ふむ、それはそうだろうね。ネットワークアクセスとは違って、現実にあるものを主観的に違和感なく2人分融合して再構築し直すというんだから、普通に考えて尋常じゃない情報処理量だな」

 そんな風に話していると、白い壁で覆われていたプライベート空間の上部から光が差し込んできた。
 上を見上げると卵の殻が割れるように、空間の上部からヒビが入り、曇天が見えてくる。上から広がったヒビは一気に部屋全体に広がり、次の瞬間には全てはじけ部屋の外の世界になっていた。

「なかなかステキな演出だったね」

 そもそもそんな演出を設定した覚えのない僕は、彼女の感心したような様子に苦笑いで答えた。

「勝手にステキな演出してくれたみたいです。いまの演出がなかったら、もっと早く処理できてたんじゃないかな」

「でも、私は楽しかったよ。確かにホビーは早く見つけたいけど、楽しませてもらえるのは悪い気分じゃないさ」

「そう言ってもらえると、うれしいですね」

 笑顔を浮かべた彼女に、僕はそう答えた。

小人の国 33

『ネット監視エリア内に、2つの端末が検出されました。端末はネットワークに対するアクセスを要求していますが、許可しますか?』

 ユニの店内で石渡さんの試着を見ていると、アクセス許可申請が聞こえてくる。
 僕はアクセス要求をしてきた相手を念のため確認する。千絵さんとスチュワートで間違いない。

(許可します。どうぞ)

 僕が心の中で念じると、千絵さんの声が脳内に響く。

『芹沢さん。スチュワートさんの洗浄が完了いたしました』

『了解。ありがとう。一旦ネットワークからログアウトするから、そのまま待機していて』

『わかりました』

 千絵さんとのやり取りを端的に済ませて、僕は石渡さんに声をかける。

「石渡さん。スチュワートを洗い終わったみたいです。一旦ネットワークからログアウトしましょう」

「む。そうかい? それじゃあまとめてログアウトしてしまってくれ」

「はい。それじゃあ、接続を遮断していきますね」

 僕はネットワークからの遮断を脳内で指示し、段階的に感覚をネットワークの世界から切り離していく。この感覚の切り離し作業は何度やっても慣れない。自分の五感が少しずつ奪われていくようで、どことなく所在ない気持ちになるのだ。

 目の前から小人の街が消え、喧騒も遠ざかっていく。この瞬間を見ると、あの世界はやはり幻だったのかなという気分になってくるから不思議だ。

『切断が完了しました。生体の感覚復元を開始します』

 脳内でのアナウンスから、五感が戻ってくるのを感じる。
 少しくすんだ木の臭いと、少し湿った空気の質感。それらはやはりリアルで、元の世界に戻ってきたなという感覚がある。

 ゆっくりと目を開くと、目の前にはちょっと間の抜けた猫の顔。

「うわっ!」

 猫の姿をしたスチュワートが僕の顔をのぞきこんでいたようだ。僕の声に驚いたのか、スチュワートは僕の体から飛び退き離れる。

「びっくりしたなあ、もう……」

 そんな様子を見て、くつくつというお決まりの笑い声。
 
「戻ってきて早々に愉快な声をあげているな。芹沢君」

「目の前に猫の顔があったらびっくりもしますって……」

 間抜けな悲鳴を聞かれたかと思うと、少し決まりが悪い。

「まあ、ともかくこれでようやく、そこのアンドロイドの記憶を探ることができるわけだな。やれやれだね。早く始めようか。私も早く自分のホビーを探したい」

「そうですね。千絵さん。大仕事ありがとう。しばらく休んでいてもらっていいよ」

「はい。芹沢さんのお役に立てて良かったです」

 そう言って千絵さんは部屋の外へ出ていく。

 僕はスチュワートを抱きかかえ、頭をなでる。

「スチュワートの視覚映像にダイレクトリンクすると、激しい上下の揺れとかがあって気分が悪くなる可能性があるから、一旦画像ファイルに加工してから見ることにしましょう」

「加工なんて、必要なのか?」

「はい。以前スチュワートがものをかくした事件のときにも、スチュワートの記憶を探ったって言う話をしたと思うんですが、その時は動画の再処理の手間をはしょるために視覚をダイレクトリンクしたんです。そしたら、走りまわるせいで上下に揺れる視界と、生物種の違いのせいでおこる違和感で、めちゃくちゃに酔ってしまって、何分も映像を見ていられなかったんですよ」

「へぇ……。そんなに違うもんか」

「ええ、結構堪えるんですよ。だから今回はその教訓を生かして、一度記憶情報を取り出してから、僕らが読み取りやすい形に加工しようと思います」

 そこまで言うと、僕は頭をなでられて大人しくなったスチュワートの首に映像記憶を抽出するための電子端末を取り付ける。
 スチュワートが持っていた今日の分の記憶を抽出し、コピーしていく。容量は想定したほど大きくなく、変換にもそれほど時間はかからなそうだ。僕は黙々と作業を進めていく。

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