「セミナーに参加したら『今日からドイツ代表のために
分析を 始めるぞ!』って。『何これ? そんなすごいところに
来ちゃったの!』って意味がわからなかったです」
浜野裕樹 (『チーム・ケルン』学生分析チーム)
留学先のケルン体育大学で、セミナーに何気なく参加したら、いつの間にかドイツ代表の分析チームの一員になっていた――。ブラジルW杯が迫った今、そんな不思議な体験をしているのが、浜野裕樹(25歳)だ。ドイツ代表をサポートする分析集団『チーム・ケルン』のひとりとして、日夜代表チームのための分析に力を注いでいる。
すべての始まりは、日本体育大学の4年生のとき、ケルン体育大学への交換留学生に選ばれたことだった。浜野は大学サッカー部はすぐに辞めてしまったが、高校までサッカーに打ち込んでおり、指導者になることに興味があった。そこで学内の勉強を頑張り、留学の権利を勝ち取る。そしてケルンで1年間過ごしたことでさらに興味が高まり、日体大を卒業後、正式にケルン体育大学に入学した。
運命の出会いは、必修科目の授業で訪れた。
浜野はこう振り返る。
「大学院に進むことも考えたんですが、外国人局の方に『ビザを考えると、大学から入った方が長くドイツにいられるよ』とアドバイスされたんです。そこでもう一度、学部から始めることにしました」
運命の出会いは、必修科目の「パソコン」の授業で訪れた。
その授業はワードやエクセルの使い方を学ぶというスポーツとはまったく関係ないものだったが、なぜか講師はドイツサッカー協会のエリート分析官、シュテファン・ノップだった(学生分析集団『チーム・ケルン』を統括する責任者。詳しくは
Number 840号の記事『レーブを支えるケルン体育大学の分析力』を参照)。
1回限りのはずのセミナーが『チーム・ケルン』への第一歩。
浜野は偶然にも交換留学のとき、ノップのサッカー指導論の授業を受けていた。そのことをノップも覚えており、授業の前後に雑談する仲になった。そんなある日、同級生のひとりがノップと話している輪に加わると、サッカーの分析をテーマにしたセミナーを行なうという。興味を持った浜野は「参加していい?」と訊くと、ノップはふたつ返事でOKしてくれた。
浜野にとって、これが『チーム・ケルン』への招待状となった。
「僕は最初、あくまで1回限りのセミナーだと思っていたんです。サッカー好きの学生が集まるのかなって感じで。でも、実際は違った。40人くらい集まったんですが『今日からドイツ代表のために分析を始めるぞ!』って。『え、何これ? そんなすごいところに来ちゃったの!』って意味がわからなかった」
「サッカーは4つのシーンに分けられる」
とはいえ、全員サッカーへの情熱で溢れているものの、分析に関してはビギナーだ。まずは目を鍛えなければならない。セミナーの第1回では、「ゲーム報告書」の書き方を徹底的に教えられた。このとき、いかに自分が分析について知らないことが多く、いかに細かく分析しなければいけないかを痛感させられる。
「急に分析しろって言われても、何をしていいかわからないですから。一歩一歩という感じでした。報告書の書き方を一通り学ぶと、次はチーム分析のやり方、個人分析のやり方にステップアップしていく。
チーム戦術がテーマのときに教えてもらったのは、『サッカーは4つのシーンに分けられる』と。自分たちがボールを持っているとき、相手が持っているとき、自分たちが奪ったとき、失ったときです。で、ボールを失ったときについても、細かく見るポイントがあって、たとえば『誰が戻るのが速い』とか。奪ったときだったら、誰がカウンターで前に行くか。ガイドラインがあるので、それに従うと自然にサッカーを見る目が養われて行きました」
テーマはピッチ外にもおよび、選手のプライベートに関する調査もあった。
「スキャンダルがテーマのときもありました。経済状況、人口、失業率を調べる回もありました。つまりチーム、監督、選手だけでなく、その国についても徹底的に調べるということです」
W杯予選における、ある選手の全プレーを分析する経験。
浜野が最も大変だったと記憶しているのがセットプレーの分析だ。CKとFKで誰がどこに蹴ったかを記録していく。
「流れは見なくていいから、セットプレーだけを見ろと。ワードとエクセルを使って、詳細を書き込んでいきます。さらに守備のとき、ポストに何人立って、マイボールにしたらどう攻めるかとか。なぜ記憶に残っているかというと、最も時間がかかる作業だったからです(笑)。小さなディテールがとても大切。セットプレーは試合を決定付ける要因のひとつになりえるので、相手の形を見分けなければなりません」
訓練が進むと、いよいよ課題がW杯予選でドイツと対戦するチームになった(それまでも自然な形で対戦国の分析が課題に繰り込まれていたが、よりそれが明確になった)。浜野はスウェーデン代表のDFが割り当てられ、今回のW杯予選における当該選手の全プレーを分析した。
「誰にパスしたかはもちろん、どちらの足でトラップしたか、どちらの足でジャンプしたかまで記録する。イブラヒモビッチが割り当てられた学生は、プレーの回数が多いので大変そうでした(笑)」
ちなみにこの作業はすべて無報酬で、完全なボランティアだ。だが、学生にとって、ドイツ代表をサポートできるのは最高の名誉。何より作業そのものが職業訓練になっており、将来の就職活動にもつながっている。
「本当にウィン・ウィンの関係ですよね。学生にとっては最高の経験になります」
代表のポロシャツに、レーブ監督からのメッセージ。
12月中旬、ブラジルW杯の抽選結果を受け、『チーム・ケルン』の決起集会がケルンの高級ホテルで行なわれた。学生分析チームを束ねるシュテファン・ノップとユルゲン・ブシュマン教授はもちろん、ドイツ代表のアシスタントコーチのハンズィ・フリックとスカウト主任のウァ・ジンゲンタラーも駆けつけ、1人ひとりにドイツ代表のエンブレムが入ったポロシャツが手渡された。レーブ監督からのビデオメッセージも流され、学生から大歓声が沸き上がった。
そして、この日のメインイベントは、分析のグループ分けだ。学生をグループに分け、それぞれに出場国が割り当てられた。浜野はこれからグループの仲間とともに、全力で分析に取り組んで行くことになる。
「こういうタスクに関わることができ、本当に光栄です。留学するタイミングが本当に良かった。将来は指導者を目指しているので、この経験を生かせるように頑張りたいです」
情報戦の重要性はどの国も理解しているだろうが、これほど大掛かりに分析している国はドイツ以外にないだろう。残り約5カ月、浜野にとって、これまでで最もハードで、最も幸せな時間になるに違いない。
NUMBERweb
▼ この記事は今年の一月31日に掲載されたものだ。
サッカーのWCで勝利するということは、国の威信を懸けている事がよく分かる。
そしてドイツがサッカーに関してどういう分析をやっているか良くわかる。
サッカーは4つのシーンに分けられる
自分たちがボールを持っているとき、
相手が持っているとき、
自分たちが奪ったとき、
失ったとき
ボールを失ったときについても
細かく見るポイントがあって、
たとえば『誰が戻るのが速い』とか。
奪ったときだったら、誰がカウンターで前に行くか。
ガイドラインがあるので、それに従うと自然にサッカーを見る目が養われて行きました」
▼ つまり、そういう細かいことまでスカウティングしているわけで、日本チームが左から攻撃する場合、香川から本田に出す場合、本田は右でトラップすると大きく球が跳ねるのでそこを狙うとボールを奪えるとかだな。
日本チームは左からしか攻撃しないので、香川がボールを持ってもそのまま行かず、本田に預けワンツーを狙うか、長友が上がってサイドからセンタを上げる、その時点ではワントップの大迫しか来ていない。それぞれに癖があり能力的限界やプレー嗜好性がある。それを分析し試合に生かす。
ドイツはこのWCに対してキャンプ地の開発設置までしたという、コンデションを万全にして勝つためだ。
こういうことがWCだと思う、国の威信を懸けて戦う、そういう意味では日本の面子はぶっ壊れたんだな。