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雨が降る

雨が降る。いいことだ。木立は潤い、草は甦る。
先日村の長老が亡くなり、葬儀も終え、初七日を迎えるころ、同じ隣組の老夫人がポツリと言った。
「牛蒡の爺さまが来るのですよ。」長老の氏は牛蒡(ごぼう)という。
「先日も午前三時ごろですか、お見えになりまして、おやまぁ、あなた様はもう亡くなっていらっしゃいますのよ。と言いましてもお聞きになりません。いやいやなんの、とおっしゃるばかりで、まぁ、まるで聞き分けのない子供のようでした。そのうちお帰りになりましたけれど、いったい何処に帰ったのかしら?」
老夫人は名前を半崎といい、近所では霊感が強いと噂だった。
ある時妻が半崎夫人に「霊感が強いのは羨ましい」と言ったことがあった。次の日曜日の午後、夫人は黄色い袱紗に切断した自分の左手の小指を包んで持ってきた。
「これをお食べなさい。きっと霊感が強くなりましょう。」
「あらぁ、奥様、ご丁寧に。ありがとうございます。」
俺は思わず口をはさんだ。
「もしもし、あなたがた、これ尋常な事態ではないと思うんだけど、なんでそんなに普通に対処しているんです?」
「あら御主人、お気にすることはありませんのよ。私は山椒魚の娘なんですよ。叔父などはいまだに大山椒魚やってますし。」
俺は理解できなかった。「あの、それがなにか?」
半崎夫人はやさしく微笑みながら言った。
「再生するんですのよ。小指だなんて、あなた、ほんの二週間で生えてきますわ。」
「あっ、だからハンザキさんと云うのですか。」老夫人は包帯を巻いた左手を可愛く振った。
妻はその日の夕食に小指のソテーを作ってくれた。
「霊感を強くしたいのは、君だろ。どうぞ。」
「なにいってるの。みんなで強くなるのよ。家族でしょ。」
というわけで、二人で食べ、犬にもやった。
何日か経ち、小指の思い出のことは忘れていたが、家の前の小道の曲がり角に父親が立っていた。父は三十年前に亡くなっているので今となっては、俺とほぼ同年代だ。あまりに久しぶりだったので、なんと挨拶していいのかわからなかった。
「元気でしたか?」と俺は間抜けなことを言った。
家に招き入れようとすると、連れがいると言う。見ると、祖父だった。俺は祖父に会ったことはなかったが、どことなく親近感を感じる顔立ちだったので、すぐに分かった。祖父は俺達親子よりさらに若かた。
「この調子で続くのかな?」俺は不安になった。
二人を家に案内すると、居間に妻と妻の亡くなった両親がいた。「ああ、やっぱり。」
さらに似たような感じの犬が3頭とアザラシが1頭いた。俺は犬に聞いた。
「おまえ、アザラシと血縁関係があるのか?」

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