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熊本県山鹿市 ”水辺プラザかもと”
珍しく、”詩”を書いてみました。別に”落ち”はありません。ごく普通の日常の断片を書いてみました。
”これで良い”と思った日
私は、最近、温泉に入るのが気に入っています。
近くに”町づくり”で建てた温泉施設があるので、重宝しています。
世間一般では、町の施設は、赤字の放漫経営と酷評されているようですが、
近所の施設は、話が違うようです。年間100万人の入場と宣伝しています。
大きな湯舟にゆったりと身を任すのは、気持ちが良いものです。
手足を伸ばし、肩のぬくもりを感じ、何と、幸せなことでしょう。
深めのお風呂に入って、ふと、足元を見つめると、
薄い影が、揺れていました。
私の影でした。
その影は、人が近くを通るだけで大きく揺れます。
何とも、頼りなく、底に沈んでいました。
温泉には、色々な人が入ってきます。
老若取り混ぜて入ってきます。
今日は、何気に辺りを見回していると、
私の同級生に出会いました。
私は、声はかけません。私は、そんな奴なのです。
彼は、私には気づいていないようです。
彼は、性格がとても良くて優しかったのですが、
そのおっとりした風貌からか、”いじめられっ子”でした。
無精ひげをはやして、出世しているようには見えないのですが、
おっとりした、気が優しい様子は、変わっていません。
”気が優しいと、損をすることが多いんだよなぁ”という思いが、
頭の中を横切っていきます。
”私も年齢を重ねたように、彼も年をとるのだなぁ”と当り前の事を
再確認してしまいました。
”当時、もっと、かばってやれば良かったなぁ”とも思ってしまいました。
当時、私は、意外と人気者だったのです。
”思えば、いっぱい、ああすれば良かった”という出来事が思い出されました。
”私の両親にも、もっと親切にすれば良かった”とも思った次第です。
足元の影が、頼りなく揺らいでいました。
私は、露天風呂にも入ることにしています。
露天風呂は、ドアを開ければ、用意されています。
室内の厚い湯気から解き放たれ、屋外の新鮮な空気が美味しいです。
風には、”やはり秋は忘れずに来たか”という匂いがあります。
木の枝が微かに揺れています。白い雲がゆっくりと流れています。
確かに時間は流れていますね。
お風呂から上がって、ロビーの長椅子に腰をかけ、新聞を広げて読んでいると、
先ほどの同級生も、私の前で、きっちりと姿勢良く座って、
前方のテレビを見ていました。
”やっぱり、まじめなんだな”と思ってしまいます。
30分ほど経ったでしょうか、ふと、顔を上げると、
彼は、まだ、そこにいました。
”何だ、年老いた母親でも待っているのかな”と思いながら、
別の新聞と取替えに前方に歩みよった時に、
ピンクの洋服を着た女の子が、私の横を通り抜けました。
”んっ、可愛いな”と思って振り返れば、
その子は、彼の正面に立ち、笑顔で話しかけていました。
気が付けば、ふくよかで優しそうな女性も、横に立っていました。
”何だ、彼が待っていたのは母親ではなく、奥さんと子供だったのか”と
思った次第です。それは、良い家族に写りました。
”そうか、優しい彼が、良い家族に恵まれたか。”
”そうか、それで良い。それで良い。”と思った次第です。
”何だか、この世も捨てたものではない。”と思った次第です。
私は、取り上げた新聞を棚に戻し、そのまま、帰ることにしました。
もちろん、あの頼りないけど、愛着のある”影”と一緒にです。
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