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北野武って、本当に「世界の巨匠」だったんだ。
っていうのが、映画全体についての率直な感想。

風景も、人の表情も、仕草も、
時にはしみじみと、時にははっとさせられて、
私の記憶に確かな足跡を残している。



しいて、一押しのシーンをと言うなら、
全てを幸せにする柔らかなラストも捨てがたいけれど、
やはり、赤い部屋のシーン。

かつて、
「トリコロール」のジュリエット・ビノシュを見たとき、
「心からの悲哀は、青を帯びるものなのだ。」
って思ったのだけれど、
この映画の中で、
赤の悲哀を見せ付けられて、
瞬きするのも忘れて、静かな畏れを感じた。



*****



この映画の劇場予告を見ると、
「売れない画家で、苦労もあるけれど、
 すぐ近くに良き理解者がいてくれて、
 それはそれで最高の人生だ。」
ってメーッセージの映画にも思える。

偶然から生まれたという、
ラストの缶を蹴飛ばす完璧なシーンは、
この映画に明るい解釈の可能性を広げている。



でも、本当だろうか。

北野監督は、いつだって、
専門の批評家には高い評価を得つつも、
興行的に成功しないこと=鑑賞者が少ないこと、
を独特のブラックユーモアと共に嘆いている。

真知寿が、さんざん駄目だしされながらも、
画商のアドバイスに正面から取り組み続けたのも、
彼の酷評だけが、
真知寿の絵の存在を確かなものにしてくれるからではないかと思う。



何かを表現し続けるためには、、
良き理解者は、必要条件ではあっても、
十分条件ではない。

たとえ酷い悪口であったとしても、
存在しないものとして扱われるよりはまし。

表現者が救われるためには、
表現された対象から、
何らかの世界の差異を感じてくれる人が、
絶対に必要だ。

「嫌い」
「気持ち悪い」
「意味わかんない」
そんな酷評でもいいから、
何かを感じて欲しい。

その表現の存在する世界と、
存在しない世界との間に、
何らかの差異があって欲しい、
そう、願っているのではないだろうか。

その差異が、否定的なものではなく、
何らかの意味で肯定的であれば、
さらに充たされるのだろうけれど。


*****


この映画を、誰に勧めればいいのかわからない。



表現者の生活って、
世間で思われているよりも、
気楽で華やかなものではない。

かといって、
世間で思われているよりも、
陰湿で苦しいわけでもない。



本気で表現しようとしている人と、
それを傍で支えている人に、
「苦労はあっても、ステキですね。」
って、心から思ってはいても、
なかなか口にするわけにはいかない。

安定した給与所得者の夫のおかげで、
のんびり主婦をやっていられる私には、
そんな言葉を口にする資格が無いと思う。

だから、そんなことを口にしそうな人には、
勧めたくない。



今まさに表現の現場にある人たちが、
この映画を見て、どう感じるのかもわからない。

励まされるのか、
先の無さを感じるのか、
ただ前に進もうと思うのか、
自分には無関係だと思うのか。

だから、頑張っている人にも、
勧めて良いのかわからない。



わからないけど、
でもやっぱり、
みんなに見てもらいたい。

公式ホームページは、かなり充実です。
http://www.office-kitano.co.jp/akiresu/

閉じる コメント(6)

この日記、ずしりときたので旦那さんと読ませていただきました。

私の場合、絵描きではあるけれど当時それで生計をたてているわけではなかった彼と結婚するときに、将来への不安がかなりありました。
いわゆる普通のサラリーマンの父親の家庭で育った私には、その時点で「何がなんでも彼を支えていく!」なんて決心もなかった気がします。

だけどなんだか変な自信、とゆうか安心感もあって、ギリギリながらもここまでやってこれたのかなぁなんて……。
たしかに華やかな生活ではないし、でもかといって自分たちを卑下してしまうほど思い詰めた生活でもない。
彼にとっての生活の一部に「絵を描くこと」が含まれていること以外は、きっと他の家庭と何も変わらないでしょう。

アインシュタインの奥さんの言葉で「私は彼の理論は理解できないけど、彼のことは一番に理解できるわ」というのがあるんですが、私も彼が死ぬ間際くらいにそんなこと言えたらなー、なんて思ってます☆

映画館に行くのはしばらく無理かもしれないから、レンタルででたらチェックしてみます!

2008/10/19(日) 午後 8:42 [ あき ]

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自分だけが存在すると自分が把握できない。
他者と自分の間にあるもの。
それが芸術ってやつなんでしょうか・・・?

2008/10/19(日) 午後 11:25 たかきたかあき

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あき様☆

身近な人たちを思いながら書いた日記なので、
読んでいただけて、本当に嬉しいです。

あきさんが映画を観て何を感じるのか興味津々◎
いつか、聞かせてくださいね。

アインシュタインの奥さん、かっこいいですねぇ〜♪

「死ぬ間際」なんて遠い話ではなく、
旦那様にばばぁ〜んと有名になってもらって、画集出して、
盛大な出版パーティーでそのセリフ言っちゃいましょう!
いつも応援しています!

2008/10/19(日) 午後 11:42 [ 泣き虫姫 ]

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たかあき様☆
たかあきさんの芸術論ですね。
20歳の頃から、私の考察のキーワードはいつも「他者」です!

2008/10/19(日) 午後 11:52 [ 泣き虫姫 ]

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この映画、私の夫もゲージツめざしてめんどーなこともおこったりしてるもんで、なんだがうまく噛み砕けなくていました。泣き虫姫さんのこの記事読んでちょっとは整理できた気がします。赤の部屋のシーン、そうですね、赤の悲哀って青より鮮烈で痛くって、いいかも。

2008/10/22(水) 午前 0:26 [ senangxsedih ]

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senangxsedihさま◎
はじめまして。コメントありがとうございます。

旦那様がゲージツ系の方でしたか。色々ありそうですね。。。
赤の悲哀についての「鮮烈で痛い」って表現、しっくりきました。

2008/10/22(水) 午後 3:11 [ 泣き虫姫 ]


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