まずは、憲法改正 !!

コメント・TB許可制開始。荒らし・宣伝は闇の向こうへサヨウナラ !!

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八.真実(中)

「別命あるまで待機。退がりたまえ」
「管理官」
「何だ、柳沢君?」
「ホテル・グレコの客室です。引続き確保しておいてはどうでしょう?戻ってくる可能性もあります」
「……勝手にしたまえ」
 二人は退室、刑事課へ戻りはじめた。
「斎藤警部の手帳に残っていた数字を覚えているか?」
「000で始まる……何かわかったんですか?」
「三輪(みのわ)銀行東戸塚支店から通報があった。昨日午前、女性が電話で口座情報を問い合わせてきたと」
「銀行口座ですか」
「戸塚区品濃町五四X。銀行番号、店番号、普通・定期などの口座種別、そして口座番号。相手はこの番号を言い名義を尋ねてきた。銀行側は顧客情報なので回答を拒んだそうだが。そして名義は」
 柳沢は一旦言葉を切り、深呼吸した。
「本多正勝」
 中川は息を呑み、思わず立ち止まった。
「では、あのビルはアジト――」
「戸塚区品濃町五三X。ベッドタウン駅前の廃ビル……条件は最高だ」
「銀行への電話も――彼女?」
「そう名乗ったそうだ。昨日はそれきりだったが、今朝のニュースに慌てて通報してきたんだ」
 二つの警官殺しはいよいよ同一犯の可能性大、という言葉を柳沢は呑みこんだ。
「でもその後、どうやって口座を特定したんでしょう?」
「直後、少額の入金があった。名義と支店名はその時に確認したんだろう。あれが銀行口座とはよく気づいたが……」
「そう言えば昨日、預金を下ろすとか言っていました」
「じゃあ、その時にカードか何かを見て気づいたか」
「……」
「銀行は直ちに口座を閉鎖したが、少し後都内、港区高輪のコンビニにあるATMから引出し要求があった。これが鄭に間違いなければ足取りも追えるだろう」
 中川は言葉がなかった。一昨日の夜も卓上には問題の口座番号、話題は鄭と一緒にいた女。早紀はそこから状況の切迫を察知。尚子もそれを不自然と感じ、何か違うと言ったのだ。尚子に預けた結果逆に早紀を追い詰め、尚子まで死なせたとしたらあまりに皮肉だ。
 二人が戻ると刑事課にざわめきが走り、しかし言葉をかける者はいない。さっきはまるで理由がわからなかったが、事件と早紀の関わりを先に知ったのだ。着席した中川の肩を柳沢が叩いた。
「飯田君の敵はきっと討つ。管理官の様子では部屋代、経費から出そうにないが。カンパかな」
 程なく中川早紀宅への家宅捜索令状発行、強行犯係は中川を残し出動。何人かの視線に振り返った中川の前を、加藤の拒むような無表情が去っていった。

 数時間後、港北署刑事課応接室に、高松から上京した早紀の両親の姿があった。
「遠路ご足労いただき、恐縮です」
「いえ、この度はお騒がせしまして。こちらも心当りを捜したのですが……」
「そうですか……早速ですが娘さんは一年前、交通事故で入院なさっていますね?」
「?……ええ」
「それ以降のことを、できるだけ詳しく伺えますか?」
 新潟県警の事情聴取を、隣席の小田は黙って見守っていた。夫妻を山崎が駅前のホテルに案内した後、空いた席に小田が移り、署員が淹れ替えてくれたお茶をすすりながら訊ねる。
「同一人物と……思うかね?」
「十中八九。病歴も一致します。採取した生体サンプルの照合結果次第ですが、一年弱で戻ったのも不自然です。拉致被害者の多くは三十年以上経っても戻らないのですから」
「裏がある、と?心当りがあるのかね?」
「彼女ですが、学生の頃射撃クラブに入っていまして……」
「――」
「国体県予選で四位入賞。これが目的ではとの見方も当初からありました」
 小田は瞑目した。どうやら、中川にはあまりに残酷な筋書が用意されているようだ。

 同夜、港北署刑事課取調室。
 机を挟み、中川の向かい小田が座っている。机の傍らに工藤、入口脇には記録係の警官が一人。
「斎藤警部殺害現場に、別人の頭髪があった件だが」
「はい」
「ホテル・グレコから採取した頭髪もDNA鑑定に廻した。最終結果は後日だが、同一人物の可能性が高いそうだ」
「……」
「それと、片桐幸子とも同一人物の可能性が出てきた」
「まさか……」
「我々も実はまだ半信半疑だが、それで辻褄が合うのも事実だ。片桐幸子の生体サンプルは今取り寄せている」
「……」
「知り合った時期は?」
「昨年六月、金沢区の総合病院です。交通事故の後遺症で……」
「記憶喪失……だったね」
「?……はい」
「アプローチは彼女から?」
「いえ……自分からです」
「彼女の反応は?特に動揺する様子はなかったか?」
「戸惑っていました。でも、じっと自分を見つめる視線で感じたんです。彼女は自分を求めていると」
「じっと見つめた、ね?」
「は?」
「彼女からのアプローチとも解釈できるな?」
「……」
 思わず言葉を失った中川に、失言と思ったか小田は一瞬表情を緩めた。
「先月以前、彼の存在がちらついたことは?」
「自分は、全く気づきませんでした」
「異変はそれ以降か……なぜすぐ報告しなかった?」
「関連があるとは思いませんでした。本件着手後は気を配る余裕もなく、彼女もそれ以降異状はないと……」
「それは私も聞いたが、状況がこうなると全てを疑う必要がある。無言電話自体、狂言の可能性……」
「それはありません」
 工藤の割込みにむっとした中川が言い返し、小田は咳払いした。
「彼女が計画に関わっていた場合、警察の動きも漏れていた可能性があるが、心当りは?」
「……」
「……あるんだな?」
「かなり……」
「かなりじゃない。業務情報漏洩は職務規定違反だぞ。監察官も最初に、一切口外しないよう仰った筈だ」
 相変らず気に障る工藤の口調だが、正論とて中川も反論できなかった。
「話を戻そう。記憶喪失の件だが、病院に問い合わせたところ、精密検査を担当した脳外科医は火災で死亡」
「――」
「警察官だと、彼女が知った時期は?君から話したのか?」
「はい、退院祝いを兼ねた初デート時です。所属も話したのはプロポーズ時……二月十四日になります」
「彼女の反応は?すぐOKしたのか?それとも……」
「一週間後です。未明に突然電話で……」
「鄭のアパートから、女が消えた時期と一致するな」
「……」
 そこへ捜査員が現れ、廊下に一人出て行った工藤が、二、三分して小田を呼び出した。
「先月中旬、倒産した所沢の建設業者でダイナマイトが紛失していました。工場は既に人手に渡っていますが、先々月破産管財人が訪れた際は異状なかったそうです」
「一ヶ月も前じゃないか!なぜ今まで……」
 小田の表情が険しくなった。
「倒産と同時に経営者が失踪、その混乱で……」
「爆発物だろう?管理――」
 小田は思わず、工藤と顔を見合わせた。
「業者内に内通者が?」
「あり得るな。経営者の失踪も気になる。追跡調査……」
「埼玉県警が既に着手しています」
「あちらの捜査結果待ちか……CRAWを起動するぞ」
 小田の小声で、工藤の表情に緊張が走る。
「そうですか!……李芳姫も?」
「いや、そちらはまだだ。上のOKが出ていない」
「わかりました」
 小田は工藤と取調室に戻った。
「続けよう。奥さんと片桐幸子が同一人物なら、問題は帰国した目的だが、新潟県警から気になる話を聞いた」
「?」
「学生の頃射撃クラブに所属、国体県予選で入賞。新潟ではこれが拉致の目的との見方もある」
「――」
「中川巡査部長、今日はここまでにするが、別途監察の事情聴取がある筈だからそのつもりで。いいね?」

八.真実(上)

 戸塚区上倉田町。東海道線と並行する道路を左折、蛇行する坂道を東に登った脇に早紀のアパートはある。駐車場代わりの空き地にパトカーが停車していて、到着した中川に二人の男が近づいてきた。
「中川巡査部長だね?」
「はい」
「この部屋に任意立入り調査の指示があった。奥さんが所在不明なので、代わりに立会ってもらいたい」
「……と言っても、拒否はできないのでしょう?」
「まあ、そうです。鍵は、今お持ちですか?」
「はい……」
「開けて下さい」
 二人に倣い手袋を嵌めると、部屋に入りぐるりと見まわす。流しにユニットバス、六畳の和室にはカラーボックスが数個。しんと澱んだ初夏の気だるい空気が、人の気配のないことを示していた。
「君が最近、ここに来たことは?」
「先月十三日です。それ以降はずっと外泊です」
「そうか。その後彼女が立ち戻ったかどうかだが」
「所在不明が一昨日深夜で、戻ってきたとしたら昨日以降ですが、見た限りその形跡はないですね」
 箪笥の最上段には貴重品が入っていた筈だがめぼしい物はなく、閉めかけた中川の手が奥の、がさっという音に止まる。手を突っ込み取り出した茶色い封筒には、黄ばんだ古便箋に、早紀とほぼ同い年のカップルが写った一枚の写真。戸塚署の捜査員が後ろからのぞきこみ
「奥さん……ではないですね」
「違います」
「そうですか……おや?どこかで見たような……」
「え?」
 県警本部の捜査員も手を止めのぞきこんできた。
「そう言えば……だめだ、思い出せない。中川巡査部長、心当りは?」
「さあ。でも確かに、何か見覚えはありますね」
「有名人かな?奥さんにそういう知り合いは?」
「そういう話を聞いたことはないですね」
 首をかしげてからもう一度目を落とす。一緒に写っている男性には全く見覚えがなく、ただ何となく自分に似ているなと中川は思った。便箋には十一桁の数字。電話番号と思われたが、先頭数桁を見ると近県のものではなさそうだ。期待半分不安半分でダイヤル、しかし電話口に出たのは、案に相違して中年の男の声だった。
――はい、片桐ですが。
「突然お電話致します。私、神奈川県警の――」
――警察?
 男の声が一オクターブ跳ね上がり、三人を驚かせた。
――幸子が見つかったんですか?
「幸子――さん?」
――違うんですか?
 中川は混乱した。
「もしもし……そちらは、片桐さんと仰るんですか?」
――そうですよ。どちらにおかけですか?
 片桐と名乗った男の声は明らかに硬くなっていた。単に機嫌を損ねた風ではなかった。
「〇二五―XXX―XXXXですが、違いましたか?」
――いえ、それなら確かにうちの番号です。どういうご用件か、差し支えなければお伺いできますか?
「幸子さんというのは?ご家族ですか?」
――娘です。
 片桐は、ようやく声のトーンを戻し話し始めた。
――片桐貞夫(さだお)といいます。タクシーの営業所をやっております。勘違いしたようで申し訳ありません。
「いえ、こちらこそ突然お電話しまして……」
 中川の頭の中で何かが引っかかった。片桐幸子。どこかで聞いたような……
――それで、あの、今日お電話いただいたご用件は?
「実は……私事で恐縮なのですが、一昨日家内が失踪……」
――失踪?
 叫びに続く数秒間の沈黙。相次ぐ不可解な反応に三人は顔を見合わせた。
「もしもし?」
――ああ、失礼……どうぞ続けて下さい。
 心なしか片桐の口調が改まったように思えた。
「滞在中のホテルから姿を消しまして、今アパートを捜しましたらこの番号が見つかり、こうしてお電話したのです」
――そうでしたか。それはご心配ですね。ええと……中川さまと仰いましたね?
「はい。家内は早紀と申します。旧姓は松嶋、香川県高松市出身、現在は横浜市在住。どうでしょう、お心当りは?」
――松嶋、早紀……申し訳ないが私ではちょっと……ただ娘と同い年になりますから、お友達かもしれません。東京の短大におりましたので。
「なるほど……家内も大学以降首都圏在住なので可能性はありますね。差し支えなければ娘さんにもご確認……」
――ここには居りません。
「あ、では現在もまだ東京にお住まいで?」
――いや、そうではなく、幸子は……
「……あっ!もしかして……」
 やっと思い出した。
「あの、行方不明になった片桐幸子さん――ですか?」
――その通りです。
 あらためて手にした写真を見る。肩で切り揃えた髪、造作の小さい顔。数年前新潟で失踪した、あの女性に相違ない。意外な展開に、聴いていた二人も顔を見合わせた。
「それは……大変失礼しました。もしお心当りがありましたら、いつでもご連絡ください。番号は、O四五―XXX―〇一一〇です。港北警察署刑事課の中川と言っていただければ通じますので、よろしくお願い致します」
 挨拶して受話器を置いた中川は言いようのない疲労を覚え、その場に座り込んだ。
「奥さんがあの片桐幸子と知り合いとは……そういう話をお聞きになったことは?」
「いいえ、全く」
「変だねえ?かなり大きく報道された事件だから、奥さんに心当りがあれば普通、君や周囲に話すと思うが?」
「確かに、そう言われますと……」
 中川もそれ以上は何とも言いようがなく、ただ、ひどく胸騒ぎがした。
 部屋を出てから、近所に聞込みをかける。中川と面識のある住人もいて協力的だったが、ホテルに移って以降彼女を見たとの証言は得られなかった。

 早紀を捜しに行きたいのを我慢し署に戻った中川に、小声で喋っていた刑事課の捜査員達が黙り込んだ。不自然な反応に戸惑う間もなく柳沢が現れ、射るような加藤の視線に送られながら中川を捜査本部に引っ張っていった。
「奥さんは戻っていたか?」
「いいえ……?」
 なぜ急に、早紀の行方が問題になっているのか?尚子の死とも何か関係があるのか?渦巻く中川の思考は工藤の次のひとことで中断された。
「これ以降君は連続殺人と黄副主席警備から外れてもらう」
「!――」
「奥さんのアパートとホテル・グレコに被疑者不詳で家宅捜索を申請した。君、何か持ち帰った物は?」
 中川が震える手で取り出した便箋と写真を、柳沢は手袋を嵌めて受け取る。証拠品扱いなのだ。
「……理由を伺ってよろしいですか?」
「新潟県警から問合せがあった。行方不明の女性、片桐幸子宅にここの警察官で中川と名乗る電話があったと」
「……」
「事実なんだな?」
「彼女の部屋に、知らない電話番号があって……」
「つまり、片桐家と気づかず電話したと?」
「はい。最初は誤解されたようでしたが、事情を説明して納得してもらいました。それが何か?」
 理由もわからぬ立入り調査と任務解除に反発する中川を、工藤はじろりと睨み返した。
「昨日早朝、ホテル・グレコに現れた不審車の特徴が、昨夜目撃されたミニバンと一致した」
「……本事案に、家内が関与していると?しかし、それだけの接点では……」
 その言葉を待っていたように、工藤は一枚のモンタージュを机上に置いた。
「鄭のアパートの、以前の住人が、当時出入りしていた女性を今月三日に新港地区で目撃していたんだ。こちらに来てもらい、さっき作成したモンタージュがこれだ」
「――」
 先日のダブルデート、斎藤の死、尚子のアパートからの失踪、そして尚子の死。ここ数日の疑問の答えを眼前に突きつけられた中川は真っ白になった頭で、早紀そっくりのモンタージュを見つめた。

七.暗転(下)

 五月十五日午前四時前後、神奈川県逗子市葉山町。
 国道一三四号線から乗用車が転落、炎上。相模湾岸にせり出したカーブに停止中で、気づかなかった後続車が追突したのだ。逗子警察署は当初単純な事故と考えたが、その後転落した車が港北署で手配中の盗難車と判明、大騒ぎとなった。
 現場はトンネルを出た直後の急カーブで見通し最悪の事故多発地点。警察もミラー設置など対策を講じていたが、後続車の運転手は追突された車の全照明が消えていたと供述した。そして、車内にも周辺にも遺体や負傷者は見当たらず、不審者の目撃情報もなし。単なる事故ではもはや済まなくなってきた。
 約一キロ東にはJR逗子駅と京浜急行新逗子駅があり、警察は運転手が車を捨てた後、どちらかから乗車したと推測。捜査員が両駅へ急行したが、目ぼしい目撃情報は一向に得られなかった。

 朝の会議で、鶴見川から発見された銃弾の鑑定結果報告。ベルギー製ブローニング自動拳銃。表面に、微量の血液反応が残留。血液型はB型、下流に死体が挙がった稲生課長補佐の物と同一だ。これで彼が鄭に殺害された可能性が一層強まったことになる。
 新川崎で爆死した男の身許は、朝鮮人・柳慶国と確定。渡米していた政府高官の護衛で、どうやらその高官が例のサロメとの窓口だった模様。そのサロメの消息は依然不明。要点は謎ばかりのまま、中川達現場捜査員にとって、事態は不本意な方向に向かいつつあった。
「奥さんの行方はまだわからないのか?」
 会議終了後、柳沢がついでという感じで訊いてきた。
「はい。ホテルにも戻っておらず、連絡もありません」
「心当りは全部当たったのか?」
「こちらの知人も、それぞれの実家も全て当たりました。高松の彼女の実家からは、お父さんが今日上京されるそうです」
「例の無言電話との関連はないのかな?」
「自分もそう思ったのですが、ホテルにはなかったと……」
「あったのかもな」
「えっ?」
「わからんか?心配させまいとして黙っていたのかもしれないぞ」
「……言ってくれればよかったのに……」
「捜索は後回しとして、各自身辺には気をつけてくれ。斎藤警部に続き飯田君までこうなると……」
 柳沢はそう言い、一輪挿しが中央に置かれた机をちらりと見た。
「情報が漏れていると――」
 それまで話を聞いているのかいないのか、押し黙っていた加藤がうめくように言った。
「私も考えたくはないが、調査も始まっているかもしれん。とにかく今言えるのは斎藤警部と飯田君の殺害犯が、それは鄭の可能性が高いが未だ逃走中ということだ。それも多分、斎藤警部の拳銃を所持したままな」
「奴は今、どこにいるんでしょう?例の不審車、監視カメラの映像からナンバーを読み取って照会した結果、一週間前に八王子で盗まれた物だったとか?」
「うむ。横浜へは国道一六号か、川崎街道から四〇九号のどちらかと見て聞込みを開始している。あとは昨夜、東戸塚からの足取りだ。どちらも当面は各管轄の報告待ちだが、実は磯貝警部から気になる話を聞いてな」
「さっきの会議に出なかった話ですか?何でしょう?」
「発見現場は海岸線まで岩が突き出た磯で、問題の車はその岩の一つの上に落下した状態で発見されたんだが、その助手席ドアの把手から硝煙反応が出たそうだ」
「助手席?ではその車に乗っていたのは複数名……」
「その可能性が高い。運転席には指紋も残っていたから、運転席の硝煙反応の一部を拭き忘れたわけではないようだ」
「そうですか」
「あと、飯田君の通夜と告別式は鎌倉の実家だそうだ。全員、用意しておけ」

 鄭は一人、小田急江ノ島線を北上する普通列車に乗っていた。幸子は数本後の列車で追って来る筈だ。
 事の起こりは三輪銀行の口座閉鎖。銀行に確認すると、警察を名乗る女性から不審な電話があったと言う。異変を直感し東戸塚のアジトに戻った鄭を、保土ヶ谷から山を越えてきた幸子が待っていた。その口から、警察が口座番号に関心を持ったと知った鄭は、翌々早朝のアジト放棄を決めたが、その支度中携帯電話が鳴り……
「本多です」
――鄭少佐ですね?
 聞きおぼえのある相手の朝鮮語に、鄭は心臓をえぐられる思いがした。
「許――貞恵(ホジョンヘ)か?……今、日本だな?」
――お察しの通りです。あれから、もう十年になります。
「……それでお前は、私の支援に来たのか?それとも……」
――残念ながら、阻止するためです。
「お前にできるのか?私はお前の教官でもあったのだぞ?」
――そう指令を受けています。
「そうか……ふ、是が非でも粛清しようということか」
――今なら間に合います。
「どういう意味……そうか、中止しろと?」
――そうです。ご承知下されば指令は無効……そういう条件でこの任務を引き受けました。
「本当に無効になると思うか?」
――……
「……お前もわかっている筈だ。黙って、国に帰れ。優秀な人材のお前を無為に死……」
――そんなにあの女のほうがいいのですか?
「何だと?」
――あの女は日本人です。少佐はその女のために……
「違う。彼女はあくまで……」
――手段ですか?
「……彼女も承知の上だ」
――そうですね。彼女が今も少佐に従っているのは人質……
「何が言いたい?」
――何も。我々もやっていたことですから。
「……」
――南鮮も日本も察知しています。少佐もお気づきの筈です。私が失敗しても誰かが指令を実行するでしょう。この意味はわかりますね?
「……」
――お願いです、私と一緒に祖国に戻って下さい。私は……
 飯田と言う女刑事が踏み込んできたのはその時だった。幸子の機転で切り抜けたが、危険を察知した鄭は直ちにアジトを放棄。決行直前になって、次々と障害が立ち塞がってくる……

 同日午前、合同警備陣に合流した、鄭と瓜二つの韓国陸軍士官に日本側メンバーはまたも驚かされた。
 崔泰映(チェテヨン)少領(少佐)。数日前朴課長が話していた鄭の、他ならぬ脱北した双子の弟。姓が違うのは韓国の親類からもらったのか。女性の軍人が同行していた。李相美(イサンミ)大尉。副官と紹介されていたがそれだけの筈はなく、恐らく監視も兼ねているのだろう。
 午前、北朝鮮政府は外交ルートを通じ、金正一総書記の訪日中止を日本政府に通告。但し政府訪日団は予定通り派遣、そのトップは黄沢究・副主席兼最高人民会議議長(国会議長)となることも併せて伝えられた。日本当局はこれに半ば当惑、半ば安心。前者は、日本がまた軽視されたという悪印象、そして後者は、狙撃計画の自然消滅への観測。名代が黄沢究というのも、日本側を失望させなかった理由の一つだった。
 金正一の同母妹の夫、つまり金正一の義弟で、金の叔父が引退した後は金一族のナンバー二。外交・財政にも明るく、国外の評価はむしろ金正一以上。王長耀亡命で空いた最高人民会議議長職を兼ねた今は政府のナンバー二でもある。そういうわけで外務省を始め日本政府には、当初以上の期待が広がっていた。翌日発見される暗号文が、そのような甘い期待を吹き飛ばすとは露知らず。

 中川が尚子に替わって赴いた鶴見署も、二転三転する事態に慌ただしい動きをみせていた。程なくここもまた、公然と警備本部と連携行動をとることになろう。黄副主席の到着をいよいよ明日に控え、全警備関係者の緊張は最高潮に達しつつあった。
 そういう時中川に、港北署から呼出しがかかった。出頭先は、早紀のアパートとのことだった。

七.暗転(中)

 中川達が現場に急行すると、既に鎮火したビルは外壁が半ば焦げ、末期の虫歯のような情けない姿を月夜に晒していた。爆発と火災に驚いた住民が、初動捜査班の張り巡らしたロープの外側から不安げに廃墟を見上げている。最も損傷が激しい五階フロアーが爆発現場と思われた。
 遺体は四階から五階への階段で発見、その前に加藤が立ち尽くしていた。被せられたシートを中川がめくった下に、尚子は一番見たくない姿で横たわっていた。
「建替え……プレートには一九九四年十月竣工とあったが、十年余りでか?」
 柳沢が初動捜査班の警官に事情を聴いているところに、戸塚署の捜査員が割り込んできて補足を始めた。
「実はこのビル、竣工と同時に二階から四階に入った居酒屋チェーン店が周辺住民とトラブル頻発、そして昨年末、酔った客が向かいのマンション住民を刺殺。それで終わればまだよかったのですが……」
「と言うと?」
「放火です」
「え?」
「殺された住民の遺族が、居酒屋に放火したんです」
「――」
「一月中旬、客や従業員計十名が死亡、放火犯は直後自殺。居酒屋は修繕・営業再開したものの三月に閉店、店長の自殺を経てチェーンは放火犯の遺族と和解、他のテナントも気味悪がり立退き。一応建替えと言っていますが資金繰りは全くついておらず、ビルが建つ前の駐車場に戻るとの噂です」
「確かにそんな事件があったな。チェーンは倒産、社長は自殺未遂で植物人間……」
「そうです。当事者の殆どが悲惨な末路をたどっていて、以来このビルは呪われていると言われています」
「銃声を聞いたという情報は?」
「聞込みを始めていますが、今のところそういう供述は出てきていないですね。この通りビル自体もぬけの空で、周囲は住宅地と言っても深夜ですし、目撃者も今は爆発と火災で失念している可能性があります」
「サイレンサー(消音器)付きの銃だったかな?だとすると銃声での死亡時刻推定は……」
「難しいですね。爆発の傷に生活反応はないので、それ以前だと思いますが」
 会話を背中で聞きながら死体を見下ろす。至近距離からの銃撃。尚子は何の目的でここを訪れたれたのか?最後に洩らした確認したいことと関係があるのか?まだ連絡が取れない早紀のことが一瞬脳裏をかすめ、中川はそれを慌てて振り払った。
 覆面パトカーの目撃時刻は午後七時前後。彼女は県警本部から真直ぐ乗りつけ、数時間頑張っていたのだ。付近の住人からは、十時過ぎに銃声らしい音を聞いたとの証言。近辺で深夜若者が鳴らす爆竹とその時は思ったようだが同時刻そういう騒ぎはなく、これが殺害時刻と推定された。
 爆発の発生は十時半。その約十分前、現場付近から走り去るナンバー不明の黒っぽいミニバンが目撃されていた。戸塚警察署に設置された捜査本部はこのミニバンに注目、緊急配備を発令した。
 焼け焦げたフロアーの窓は全て紙とガムテープで目張りされていたが、隣接マンションの住人が夜間、室内から漏れる光を目撃。目撃時期は以前入居していた歯医者が立ち退き数ヶ月後の今年初め。そして翌日事情聴取を受けた歯医者は、そんな目張りはしていないと供述した。
 フロアー隅からは半分焼け残ったビニールの断片が見つかり、捜査員達は色めきたった。外部には微量の乾いた泥が付着。斎藤が殺されたグラウンドの土と成分が一致すれば、同一犯の可能性が強まることになる。凶器の銃は見当たらず、犯人が回収し逃走したものと思われた。
 港北署へ戻ったのは午前二時過ぎ。能面のような無表情と化した加藤を、柳沢の意を受けた中川はホテル・グレコに誘った。一抹の期待も空しく依然無人の客室で、男二人缶ビールを空ける。普段なら饒舌になる加藤が一言も発しないので一向に酔えないまま、三十分後早々にベッドに潜り込んだ加藤がひとこと言った。
「ぶっ殺す」
「え?」
「政治的配慮なんて糞食らえ」
 加藤は毛布を頭から被ると、手だけ伸ばして灯りを消した。
 目を覚ますと、カーテンの外は白み始めていた。寝息を立てる加藤の枕に、涎でない染みがついていた。
 早紀はどこへ行ったのか?いや、生きているのだろうか?ふと喉の渇きを覚え、サイドボードのコップに手を伸ばした中川の目が備付けのメモ帳に止まった。昨日は全く手付かずだった筈の用紙が、数枚なくなっている。
(破り取られた?まさか……)
 中川は暫時、残されたメモ用紙を呆然と見つめた。

 数時間前。
 鄭が運転するミニバンは環状二号線から打越交差点を右折、横浜伊勢原線に入った。
「さっきは、よくやった。お蔭で助かった」
 車内の沈黙を破ったのは鄭だった。早紀は返答しない。
「口座番号から足がついたか……間一髪だったが」
「……」
「その銃は処分する。予備を手配しておいてよかった……」
「――」
「やはり、今のうちに殺(や)るしかないか」
「――あたしが殺る」
「お前には無理だ」
「……」
「大体、お前があの刑事を始末した時証拠を消し忘れたのが原因だろう?いいか、この作戦に……」
「失敗は許されない。わかってるわよ」
「なら、なぜこうなったんだ?これが朝鮮人だったら、最悪の場合処分……」
「……」
「もういい。終わったことだ……予定より早いが、夜が明けたら別行動だ。合流場所と日時はわかっているな?」
「あたしを殺して」
 鄭が思わずぎょっとして見ると、早紀の目には涙が浮かんでいた。
「……」
「いっそ処分したらどう?もう、人を殺すのはいや」
「……それは言うなと言った筈だ」
「……」
「やはり最初の指令通り……」
 早紀が鄭をきっと睨んだ。
「もしあなたが彼を殺したら――」
「……そうだな。お前の腕なら私も殺られるかもしれない。だがその時はお前も、いやそれだけでなく新潟――」
「やめて!」
 早紀は泣いていた。鄭は苦悩に顔を歪めた。
「お前は黙って任務を実行していればいいんだ。それで犠牲も最小限ですむ」
「あの約束はやっぱり嘘だったのね?」
「何?」
「両親に会わせてくれるって」
 鄭の視線が動揺に泳いだ。
「……嘘ではない」
「これじゃ意味がない。やっと日本に帰ってきたのに……」
「……」
「……もういいわ。その代わり約束して。彼を殺さないと」
「……いいか、忘れるな。あの男はお前の正体を……」
「わかってるわ。でも……」
「何だ?」
「あの人は、本当にあたしのことを愛してくれた」
「それは、松嶋(まつしま)早紀としてのお前をだろう?」
「――約束してくれるの?どうなの?」
「しなければ?」
「世界中にばらすわよ。あなたがしようとしていること全部」
「やめろ、本当に殺し合うことになるぞ」
 鄭の言葉が脅迫半分告白半分と気づいたか、早紀は黙り込んだ。
「あの女刑事のように、いずれあの男とも対決することになる……お前はその手で殺せるか?」
「……」
「無理だろう?だから脅されようが私がやるしかないんだ。お前のためにもな」
「選択の余地はないんでしょう?」
 鄭のほうがぞっとするくらい冷ややかな早紀の言葉を最後に、車内を再び沈黙が支配した。
 国道一六号から金沢逗子線を経て金沢区を抜け逗子市に近づいた頃、鄭に押しつけられた紙片を早紀が開くと、アルファベットで始まる二行の文字列が書き連ねてあった。
「?」
「当日事前に潜入、入場する同志からこの席のチケットを受け取る。北スタンド席の、座面裏の空洞に拳銃を隠してある」
「……」
「もうすぐ下車地点だ。用意しろ」

七.暗転(上)

 三人が上階の捜査本部に行くと、斉木が戻っていた。鄭と思われる人物が競技場に現れていたと言う。
「やはり!いつの試合だ?」
「試合じゃありません。見学ツアーです」
「見学……何ですって?」
 磯貝が目をぱちくりさせた。
「見学ツアー。普段立入りが出来ない施設の一部を、専属スタッフの案内で見学できるんです。休日を中心に月数日、一日数回の実施で、四月の担当スタッフが、似た見学者を見たそうです」
「似ているだけじゃねえ……裏付けは?申込みの記録とか」
「記録はないそうです」
「はあ?」
「前売券は販売していますが、申込みは不要なんです。東ゲート前の売店がツアーの出発点と受付を兼ねていて、見学者はスタッフの案内でVIP席や正面玄関……」
 黙って聞いていた工藤が、急に険しい顔で割り込んできた。
「ちょっと待て……どこの誰ともわからない人間に、そんな所まで見せているのか?」
「は、はい」
 工藤の剣幕に斉木は萎縮、とりなすように磯貝が話を戻す。
「四月と言ったわね?正確な日付は?」
「十三日の日曜、十三時の回を担当したスタッフの証言です」
「丁度一ヶ月前ね。正確な見学ルートは?」
「東ゲートから入場、南スタンドを通り西スタンドのVIP席・記者席・選手控室・正面玄関、そしてグラウンドから北側コンコース経由で東ゲートに戻る。特に事情のない限りこのコースだそうです」
「しかし、一ヶ月も前だろう?その担当者の記憶は確かなのかな?」
「それが実は三日前、全く同じ聞込みをした警官がいたそうです。しかも鄭の写真を持って」
「三日前?私はそんな指示……」
 工藤は首をかしげ、そして声を上げた。
「あっ、斎藤警部か?」
「そう名乗ったそうです。いつ勘付いたかは不明ですが」
「下見かな……その人物が途中で姿を消したり、ということはなかったんだな?」
「最初に人数をチェックの上、スタッフが前後に付くので異状があればすぐわかるそうです。それに当日は業者の出入りなどもあり、そういう隙があったとは思えません」
「わかった。念のため、その見学ルートも再チェックの重点個所に加えておく。栄署に報告は?」
「はい、今とりあえず電話を入れ、これから戻るところです」
「よろしい……で、お前達は何だ?」
 工藤はそこでやっと、まともに柳沢達のほうを見た。
「斎藤警部ですが、中川の夫人とホテルから外出していたことがわかりました」
「……殺しとの関連は?」
 つまらなそうだった、工藤の表情が変わっている。
「不明です。事件当夜のアリバイはあります」
「いや……そもそも奥さんが何で同じホテルにいたんだ?」
 柳沢は、無言電話の件から全て話す羽目になった。
「……わかった。保土ヶ谷署に所在確認を手配しておく」
 中川が刑事課に戻ると、加藤や山崎達も川浚いから戻っていた。
「栄署の事件も、やっぱりあの男が絡んでたって?」
「ああ。そっちは?」
「見つかったよ、一発」
「銃弾か?」
「実は川の中じゃなくて、橋桁に落ちてたんだ。前回はそこまで思いつかず見逃していたわけだが」
 加藤はそう言いながら、ブランド物のズボンに付着した草を取り除いている。管理職らしく土手で叱咤激励にとどまらず、自ら草地に入り捜索に加わっていたようだ。
「そんな所に証拠を残すとは、らしくないが……」
「土やゴミが溜まっていて、音がしないので気づかなかったんだろうな。それと今朝現れたミニバンだが、実は先月十九日の夕方、亀の甲橋付近で似た不審車が目撃されていた」
「本当か?」
「ああ。二人程で大きい荷物を運び出していたそうだ。午後五時頃だから死体が挙がる約半日前。銃弾のほうは早ければ今夜中に鑑定結果が出るそうだ。殺害現場も決まりだろう」
「そうか……」
「どうした?もっと喜べよ……あ、カミさんのことか」
「いや、それは保土ヶ谷署に捜してもらうことになった」
「そうか。尚子も安心するだろう……もう鶴見署に戻ってる筈だな。知らせてやろう」
 加藤がそう言い受話器を取ったが、数分後困惑顔で電話を切り
「あいつ、一時間半前に、県警本部からこちらへ向かったらしい」
「午後六時頃……帰宅ラッシュに捕まったとしても遅過ぎますね?横羽線から第三京浜にしろ、一般道にしろ」
「それだが実は、県警本部を出る時、確認したいことがあって寄り道すると言っていたそうだ」
「確認したいこと?」
「詳しくは言わなかったそうだ。ただ昼間ATMに寄った後しきりに考え込んだり、電話をかけていたらしい」
「ATM……何かしら?」
 山崎達が首をかしげる中、中川は急に胸騒ぎをおぼえた。早紀に続き、尚子までどこかに消えたような……

 尚子の運転する覆面パトカーは、日の落ちた横浜新道を南下していた。県警本部からは、港北署と逆方角だ。
 川上ランプから蛇行する細道を通って東海道線の高架をくぐり東戸塚駅東口。元々人家もなかったこの地も駅に続き大型商業施設が開業、高層マンションも次々新築中だ。車を駅付近の路肩に停め数時間後、或るものを見つけた尚子は、駅前ロータリー北側に面した武南銀行脇の路地に入っていった。
 路地の向かいには荒れ果てたビル。吹晒しの階段を登っていくと、家財道具を運び出しがらんとしたフロアーはプールの底のようにしんと静まり返り、床の一部が窓からの月明かりに照らされ、蒼白い多角形となって夜闇にぼうっと浮かんでいた。
 五階フロアー扉に足音を忍ばせ近づくと、室内からかすかに男の話し声。一旦六階との間まで上がると、拾ったコンクリート片を投げ落とす。乾いた音に話し声が止み、人の気配が近づいてきた。ドアが勢いよく開いてから二呼吸おいて尚子は拳銃を真直ぐ室内に構え、銃口の先でやはり拳銃を構えた男と、暫時そのまま睨みあった。
「鄭栄秀ね?」
 尚子は訊ねたが、常時携帯の写真と照合するまでもなく、鄭栄秀はなぜここが突き止められたのかという風に目を見開き、やがて獲物を狙う獣の目になった。
「……そうか、銀行に妙な電話をかけたのはお前か?」
「鶴見川の死体もあなたの仕業ね?総書記狙撃計画も?」
「……」
「初めから全部計画だったの?彼女の結婚も?」
「お前には関係ない」
「ならいいわ、直接訊くから。ここにいるんでしょう?」
 その時背後に音もなく立った人影が尚子の後頭部に硬い物を押し当て、唇の端を吊り上げた鄭が、眉間に狙いを定め近寄る。その一瞬の隙を突いた尚子が失神したように膝から崩れ落ち、次の瞬間鄭と人影の銃口は、あろうことか互いの眉間を向いていた。そして尚子は人影の背後からその側頭部に銃口を押し当て――
「やっぱり早紀さんね?」
「……」
「どうしてあなたがここにいるの?」
 返事はなかったが、早紀の手にある斎藤の拳銃が何より答えになっていた。一転守勢に立った鄭の顔から笑いが消えた次の瞬間、早紀は室内に身を投げ、尚子は咄嗟に覆い被さる。体を離さなければ撃たれない、その判断は正しかったが次の一撃は予想外の所から放たれた。早紀が肩越しに発射した銃弾は尚子の顔を三分の一吹き飛ばし、余勢で階段の踊り場まで転げ落ちた尚子は、手すりに後頭部を思い切り打ちつけて止まった。
 階段を降りた鄭が、尚子の絶命を確認して戻ってきた。そして、まとめてあった荷物をつかみあげると、茫然と床にうずくまっていた早紀を引っ張って階段を降り、近くの路肩に停めたミニバンで走り去った。その約十分後、ビルは轟音と共に火を噴いた。


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