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アルビノをめぐっては、なぜだかみんなが信じてしまっている誤解や神話がたくさんあります。
例えば、日本のフィクションに登場するアルビノのキャラクターは、白い髪に白い肌、赤い目をしていて、魔力や超能力が使えて、虚弱・病弱で短命で、無口で無表情で感情表現に乏しく、孤独で冷淡と、だいたいこんな感じの特徴が多いです(矢吹 2010: 53)。その他、JANのホームページのFAQもご覧ください。 で、今回注目するのは、虚弱・病弱で短命だという誤解です。医学的な話は手短にすませますけど、オーソドックスな(=症候性ではない)アルビノの場合は基本的に生命の予後に問題はありません(溝口 1986: 79; 富田 2006: 2000)。また、今と違って昔は長生きできなかったかというとそうでもなくて、それなりの寿命をまっとうしてたと思いますし⇒ ⇒、みんな元気にやってました⇒。19世紀の文献からも、健康で知的で長生きしたアルビノのことはよく知られてました(Healthy, intelligent and long-lived albinos are well-known)(Knox 1958: 251)。 ちょっと個人的な話ですけど、うちの親も僕が生まれたときに産婦人科医から「この子は10年生きられない」と言われたのだそうです。医者からそんなこと言われたのは、JANのメンバーとかに聞いてもボチボチいるみたいです。専門家ですら間違ってるわけですね。 さて、海外の事情を見てみますと、英米では基本的に、誤解やステレオタイプは映画やテレビなどで描かれる偏ったアルビノのイメージが源泉になっているとメディア批判に向かいます。 イギリスの雑誌に発表された論文では、アルビノに関する神話は、知的障害(intellectual disability)があるというものから魔力(magical powers)をもっているというものまで幅広く、異人種間の性交の結果生まれたというのが比較的一般的だそうです。そして、神話やステレオタイプは本や映画やテレビなどで助長されていると批判してます(Palmer 2007: 145)。 また、両親と見た目が明らかに違っていると、「あなたは養子なのか」「母親が十分なビタミンDをとらなかった」「混血(mixed)や近親結婚(inbreeding)の結果だ」「どれくらい生きられるのか(How long will you live?)」などとやたらと聞かれます(Gold 2002: 133)。アルビノは異人種間に生まれた子どもだという下品な神話(the degrading myth)は、アフリカン・アメリカンのアルビノの人たちの居場所をなくさせるものでもあります(Edwards 2001: 109)。 NOAHが出してる本⇒では、次のようなものがあると書いてあります。まず、アルビノは必ず赤い目をしている⇒、アルビノは全盲になる⇒というのが最も一般的で、その他に精神障害(mentally impaired)がある、特別な力(special powers)をもっている、暗闇で目が光る、暗闇でもものが見えるなどと続きます。そしてこれらは、ハリウッドをはじめとした娯楽産業によって維持・再生産されていると批判しています(NOAH 2008: 35)。 さて、イギリスの障害学の雑誌Disability and Societyに掲載されたナタリー・ワンの論文でも、何よりたちが悪いのがハリウッド映画を始めとしたポピュラー・カルチャーで、もっぱら変人(oddities)や悪者(villains)、悪魔(evil)、エイリアン(alien)みたいに描いていると批判してます。ワンは、この他に各地の神話も紹介してます。パナマのサンブラス諸島のクナ社会では、アルビノの人たちは日差しが弱くなる時間帯に仕事を始めるので月の子どもと呼ばれ、そのことによって暗闇の中でもものが見えると信じられるようになった。また、アフリカの一部ではアルビノは魔術の結果(products of witchcraft)だと恐れられていたり、ジンバブエではアルビノは伝染すると誤解されているそうです(Wan 2003: 278)。 もう少しアフリカの事情を続けますと、マラウィではアルビノは結婚前に性的接触をもったことに対する神からの罰だという伝承があったり(Braathen and Ingstad 2006: 599-600)、ジンバブエや南アフリカでは呪いや魔術の犠牲となって生まれてきたと考えられています(Lund 2001: 3; Lund and Gaigher 2002: 370)。 メディアが助長している場合もあれば、その土地に根付いた伝承や宗教によるものもありますが、国や地域によって共通点もあるし相違点もあります。 で、記事のタイトルに書いてある本題からずれてると思われたら、そのとおりです。はじめからそのつもりで書いてます。「どれくらい生きられるのか」と聞かれるという例がひとつありましたが、日本以外で虚弱・病弱で短命だと信じられているところはほとんどないです。日本のアルビノの人たちだけが特別に体が弱くて長生きできない、なんてことはないでしょうから、何か日本独自の(宗教なり民俗なりメディアなど)誤解の原因があるのかもしれません。今はわかりませんけど。 参考文献 Braathen, Stine H. and Benedicte Ingstad, 2006, "Albinism in Malawi: Knowledge and Beliefs from an African Setting," Disability and Society, 21(6): 599–611. Edwards, Lee G., 2001, Too White to Be Black and Too Black to Be White: Living with Albinism, Bloomington: 1st Books Library. Gold, Moniqueka E., 2002, "The Effects of the Physical Features Associated with Albinism on the Self-Esteem of African American Youths," Journal of Visual Impairment and Blindness, 96(3): 133-42. Knox, W. Eugene, 1958, "Sir Archibald Garrod's 'Inborn Errors of Metabolism': III. Albinism," American Journal of Human Genetics, 10(3): 249-67. Lund, Patricia M., 2001, "Health and Education of Children with Albinism in Zimbabwe," Health Education Research, 16(1): 1-7. Lund, Patricia M. and Retha Gaigher, 2002, "A Health Intervention Programme for Children with Albinism at a Special School in South Africa," Health Education Research, 17(3): 365-72. 溝口昌子, 1986,「全身性白皮症」堀嘉昭編『色素異常症(皮膚科MOOK5)』金原出版, 72-80. NOAH, 2008, Raising a Child with Albinism: A Guide to the Early Years, East Hampstead: The National Organization for Albinism and Hypopigmentation. Palmer, Carolyn, 2007, "Myths, Stereotypes and Self-Perception: The Impact of Albinism on Self-Esteem," British Journal of Visual Impairment, 25(2): 144-154. 富田靖, 2006,「色素異常を呈する疾患の診断と治療――眼皮膚白皮症の分類と遺伝子診断」『日本皮膚科学会雑誌』116(13): 1998-2001. Wan, Nathalie, 2003, "'Orange in a World of Apples': The Voices of Albinism," Disability and Society, 18(3): 277-96. 矢吹康夫, 2010,「アルビノ萌えの『後ろめたさ』からの逃走」倉本智明編『手招くフリーク――文化と表現の障害学』生活書院, 44-76. 2011.08.13 Gold(2002)追加 2011.09.18 Knox(1958)追加 |
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