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分割した記事の第4弾です。たびたびですけど、先に言い訳⇒を読んでください。戦後の遺伝学の啓蒙書を古い順に紹介してて、1970年代のつもりだったんですが、1冊しか見つけられませんでした。60年代まではたくさんあったのに、です。
そこで今回は趣向を変えてみます。1964年が初版で、1976年に改訂版が出た本がどんなふうに改訂されてるのか比べてみたいと思います。 田島弥太郎・松永英, 1964,『人間の遺伝』日本放送出版協会.(NHKブックス、1964年、第2刷、270円) NHK教育の「日曜大学」で連続放送された「人間の遺伝」という番組を書籍化したものです。書籍化に際しては、「遺伝のことは興味があるのだが、どうも難しくてわかりにくい」という視聴者から寄せられた意見や、「遺伝学は特殊な遺伝病だけを扱う学問で、われわれの日常生活にはあまり関係がないものだという考え」や、「遺伝というと何か決定的なもので、これを人間の力ではどうにもすることができないという先入観」などを考慮に入れて、「遺伝のことをわかりやすく解説し、だれにも身近な問題として、正しく認識してもらおうと努力した」そうです(「まえがき」より)。 なお、「まえがき」にも謝辞があるんですが、この本のカバーには(帯ではない)遺伝学者の駒井卓の推薦文が書いてあります。「日本では伝統的に遺伝や家系を重んずる風習があるにもかかわらず、その正しい科学的知識はあまり普及していない」。その意味で本書は「この欠陥を補うのに役立つ」だけでなく、「一般向であるが、学習の参考書としても適当」だとのことです。 目次は、「はじめに」で遺伝とは何かを簡単に述べ、「1. 私たちの体と細胞」「2. 男女はどのようにして決まるのか」「3. 遺伝の法則」「4. 遺伝子の正体」の4つの章で生殖細胞や常/性染色体、遺伝法則などの説明があり、「5. 身近な遺伝」「6. 血液型」「7. 病気と遺伝」「8. 病気と遺伝(つづき)」の4つの章で身近なものから遺伝性疾患へと具体的な遺伝形質をあげ、「9. 遺伝病の予防と治療」「10. 突然変異」「11. 才能と性格」「12. 文明社会の遺伝的影響」「13. 優生と優境」の残りの5つの章で化学物質や放射線にも言及しつつ、さらに公衆衛生や人口政策、家族計画にまで踏み込んで、遺伝性疾患に限らない先天異常の予防策を示しており、生物学的な解説から社会的な話題に広げていく構成です。なお、結構たくさん数式や図表を使ってます。 アルビノが出てくるのは、まぁだいたい予想がつくと思いますが、7章「病気の遺伝」です。順番は、先に1節「染色体の異常」があって、次に2節「遺伝子の異常」ときて、その中でまず「常染色体性の優性遺伝病」で、続いて「常染色体性の劣性遺伝病」です。ここでも「白子を例にとると」から始まっており、単にアルビノがどんなものかを説明するだけでなく、劣性の遺伝性疾患一般の遺伝法則を解説するために引き合いに出されてます。というより、アルビノを具体例にして全部説明しており、他の疾患は一覧表にまとめられてるだけで本文中には登場しません。内容は、「正常なホモ接合体AA」「保因者Aa」「患者aa」のいろんな組み合わせで、それぞれにどんな遺伝子型/表現型をもった子どもが生まれるか、家系図も示しながらの解説です(p.124-5)。 続けて「白子の患者は約2万人に1人の割で見つかり、ひじょうに珍しいが、保因者は100人に1人くらいの割であり、珍しいものではない」とどこにでもいるという話をして、「共通の祖先の1人に劣性遺伝病の保因者がいるかも知れないから」血族結婚は避けたほうがよいという話があって、その後に「厳密に言えば、何らかの有害遺伝子の保因者でない者は、恐らく1人もいない」というフォローがあります(p.125-6)。だいたいの議論の進め方のパターンがわかってきましたね。なお、次のページの「主な常染色体性の劣性遺伝病」の一覧表にももちろん「白子」が載ってます(p.127)。 次もだいたい予想がつくと思いますが、9章「遺伝病の予防と治療」の1節「近親結婚の危険」です。たたこの節は、家系図と数式を使ってひたすら確率の話をしているので、本文中にわずかに「白子は約2万人に1人の率で出現し、その遺伝子頻度は約0.005と推定されている」とあるだけです(p.161)。 次は同じ章の4節「遺伝病の治療」で、冒頭の「治療の施しようのないもの」のひとつに「白子」があげられており、「今日でもまだ有効な治療法がなく、医学でできることは」わずかしかないと書いてます(p.174)。もちろんこの節は治療できるものの解説がメインですから、「しかしその反面において」以降は登場しません。最後は、13章「優生と優境」で優生保護法の解説をするにあたって、対象疾患の別表をそのまま掲載しており、その中に「白子」が入ってます(p.256)。 田島弥太郎・松永英, 1976,『人間の遺伝(改訂版)』日本放送出版協会.(NHKブックス、1981年、改訂版第14刷、700円) 改訂版です。「まえがき」に駒井卓への謝辞が残ったままですが、駒井の推薦文が見当たりません。僕の手元にあるブックオフで105円で買った改訂版には帯がないんですけど、推薦文は帯にあるんでしょうか。まぁ、些末なことです。 「改訂版刊行にあたって」では、初版以降の「関係科学の進歩」をどう盛り込むかを考慮して、「全体の構成は一応そのままとし、随所に新しい事実をおりこみ、また必要な部分は書き改め」たとあります。特に大きく改訂したのは4章「遺伝子の正体」と10章「突然変異」で、後者の見出しは「突然変異と環境」に変わってます。 アルビノに言及してる箇所ではこれといった改訂はされてません。細かいことをあげれば「子供」が「子ども」になってる程度です。期待はずれですいません。 アルビノとは直接に関係ない部分であれば、全体をパラパラめくってていくつか気づいたことがあります。8章「病気と遺伝(つづき)」には「先天性奇形」という節に写真が2点あったのですが(初版p.137-8)、改訂版8章の「病気と遺伝(2)」からは写真がなくなってます。 また9章「遺伝病の予防と治療」の「遺伝病の出生前診断」の節の内容はほぼ全面改訂されています。これはおそらく新しい技術が開発されたからだと思いますが、初版とは明らかに論調も違います。例えば初版では、冒頭から「もし遺伝病の子供が、生まれてくる以前に、すなわち母親の胎内にいる間に診断できたならば、優生学的な人工妊娠中絶の対象になるので、その出生を防止することができる」となってます(初版p.171)。また、その方法をひとつ説明した後に続くのが「この方法を優生学的に利用した実例をあげよう」です(初版p.173)。改訂版では、上記の文章はどちらも削除で、少なくともこの節からは「優生」という言葉が消え去り、どのような方法で何が診断できるのかを解説してるだけになってます。 また12章「文明社会の遺伝的影響」の中で初版「人口の過剰と家族計画の普及」から改訂版「人口動向と家族計画の普及」に見出しが改められた節は、挿入してある図表がもれなく差し替えになってます。初版では、夫の職業別と夫婦の就学年数別の「避妊の現在実行率の移り変わり」や、「夫の職業別に見た1夫婦あたりの児数」「夫婦の教育期間別に見た出生児数の比較」「婦人の産児数の平均値と分散値」なのに対し(初版p.238-40)、改訂版だと「母の年齢別の出生分布の年次変化」「出生順位別の出生分布の年次変化」「出生1,000当たりの自然死産率」「有配偶女子の産児数の分布の変化」になってます(改訂版p.210-3)。 それから最後の13章「優生と優境」は、思ったほど変わってない印象です。優生手術の件数の表が昭和24〜37年だったのが、新しく昭和30〜42年のを使ってます。ただ、その内訳の説明でちょっと小細工がしてあって、初版では「遺伝性疾患の防止を理由とするのは、当事者の同意によるもの(4,333)と、医師の申請によるもの(10,777)を合わせて、15,110件(3.38パーセント)に過ぎず」だったのが(初版p.257)、改訂版では「遺伝性疾患の防止を理由とするのは、当事者の同意によるものと、医師の申請によるものを合わせて、12,725件(3パーセント)に過ぎず」になってます(改訂版p.227)。表を見ればもちろん、当事者の同意による件数と医師の申請による件数がそれぞれいくらかわかるのですが、本文からはその数字が消えてます。 |
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