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相も変わらず分割した記事の第5弾です。何度もすいませんけど、まだの人は先に言い訳⇒を読んでください。戦後の遺伝学の啓蒙書を古い順に紹介してて、今回は1980年代に立て続けに出た木田盈四郎の本を3冊です。
木田盈四郎, 1982,『先天異常の医学――遺伝病・胎児異常の理解のために』中央公論社.(中公新書、1989年、第7刷、560円) 著者は、サリドマイド事件にも認定委員や研究者として関わっていた小児科医・遺伝学者で、薬害・公害なども含めた先天異常への理解を深めるための本です。これまでに紹介してきた本も、遺伝について理解するために遺伝ではないものも取り上げるという構成でしたが、この本は遺伝も含めてより広い意味での先天異常が主題です。 この本は、1:消費者団体や看護・保育の養成過程にいる学生、文系の大学生など、年齢層を問わず「先天異常の知識を欲している」人たち、2:学校の先生や保育士、看護士など、医療以外の「他の専門職を持っているが、そのために、先天異常の基礎的理解が必要な」人たち、3:「先天異常の問題を直接かかえている」当事者や家族を読者として想定しており、医学部学生にとっては物足りないだろうと言ってます。ついでに「啓蒙書を書くことがこんなに大変だ」とは「途中まで気がつきませんでした」とも書いてます(「はしがき」より)。 目次では、「1. 遺伝と人間」「2. 細胞・染色体・DNAの基礎知識」でまず基本的なことを解説し、「3. 染色体異常で起る病気」「4. 遺伝子の病気」「5. 胎児に起る病気」で幅広く個別の疾患を紹介し、「6. サリドマイド事件」「7. 四肢障害をもつ子どもたち」ではそれぞれの患者会の活動にもふれており、最後の「8. 先天異常と人類の未来」では、遺伝毒性の恐怖を描いた小説や厚生省・文部省の政策、ナチスによるホロコースト、神聖な義務論争などなどさらに幅広いトピックを紹介し、そのうえで予防や治療について日本での対策の遅れを批判し、政策提言するという流れです。 アルビノが出てくるのは、まず4章「遺伝子の病気」です。この章も先に「目立ちたがりやの遺伝子――優性遺伝病」があって、次に「引っ込み思案の遺伝子――劣性遺伝病」と続きます。しばらくは個別の疾患は登場せずに、保因者のことや遺伝の法則を説明してます。後半は、酵素欠損や蛋白の異常など、劣性遺伝に多いとされている先天性代謝異常についての解説で、フェニルケトン尿症を代表例に治療法や新生児スクリーニングの話をしています(p.86-92)。そんなわけなので、「主な常染色体性劣性遺伝病の形態的特徴」の一覧表に「白皮症」が載ってるだけです(p.89)。 次は8章「先天異常と人類の未来」で、「主な先天異常疾患の発生頻度」の一覧表に、劣性遺伝のところに「白皮症」、X連鎖遺伝のところにも「白皮症」が載ってます(p.175)。後者は眼白皮症のことをさしてるんだと思ってたら、どうやらそうではないことが次の本でわかります。 木田盈四郎, 1983,『若い女性のための遺伝学――親から子に何が伝わるのか?』PHP研究所.(PHPライフカレント、第1刷、680円) 「どういう人と結婚したら女性は一番幸福か」は簡単に答えられる質問ではないが、夫婦間の選択としての結婚ではなく、子どもの問題を視野に入れて、「親から子に伝わる遺伝の原則について充分とはいえぬまでも、かなりの紙数をとって」解説した本です(「プロローグ――子供は親に似ているもの」より)。また「あとがき」によれば、タイトルが「若い女性のため」となってるけど「誰にでも読んでもらいたいと思って」書いたそうです。それだけでなく、上記の『先天異常の医学』が「一般には、どうも〈とっつき難い〉という評価」だったこともあり、「内容の量を減らし、もっとわかりやすく」書いたとも言ってます。 さて、「あとがき」には著者の問題意識も書いてあって、それは「物わかりのよさ」と「人情の厚さ」が無理解や差別につながっているというものです。前者は「先天異常の原因が一つわかると、それが全ての先天異常の原因であると考える傾向」のことで、「物わかりのよさ」とは要するに短絡的な思考のことだと思います。後者は「遺伝病や奇形の患者さんは、すべて例外なく、『本質的に不幸であり、その不幸に耐えられないはず』という考えが、『同情心が厚い、人情深い考え』とされていること」だそうです。しかし、「毎日、悲しんでいたり、苦しんでいたり、うらみを持っていられる程、当事者の日常は甘いものでもないし、また逆に不幸なものでもない」。「社会一般のこうした感情と、患者さんとの現実の間には、大きなギャップがあり、それが、この問題の本質を明らかにすることを妨げている」と著者は痛感してるわけです(「あとがき」より)。これまで紹介した本とはスタンスが違う感じですね。 さて、目次では「1. 生命の不思議――遺伝を知るための基礎知識」でメンデルの法則やら細胞や染色体など基本的なことを説明して、「2. 遺伝と先天異常――正しい知識とその対策」で個別の疾患について紹介し、この章の最後に「若い女性へのアドバイス」をしてます。続いて「3. 遺伝のしくみ――もう少し詳しく知りたい人へ」で1章よりも詳しい話をして、最後に「エピローグ――先天異常に対する社会的防衛」で、人類遺伝学の普及と「先天異常発生増加監視計画」の具体的な対策を提案して締めくくってます。 遺伝の法則を説明するところでは、個別疾患の具体例はほとんど出てこなくて、アルビノが登場するのは2章「遺伝と先天異常」の3節「遺伝障害にはどんな病気があるか」です。ここで具体例をザッと一覧にしてまして、「主な劣性遺伝病」の表に「白皮症」が載ってます(p.93)。劣性遺伝について、本文では前書と同様に先天性代謝異常が主です。 問題はその次の「X連鎖遺伝病」でして、「X連鎖遺伝病について表6でみますと、症状として目立つのは白皮症です。これは一般に白子といいますが、皮膚に色素沈着がなく、髪の毛の色も白いのです」って書いてます(p.94)。どうやら眼白皮症のことではなかった模様です。 木田盈四郎, 1984,『遺伝を考えた人間の話――人類遺伝学入門』講談社.(講談社ブルーバックス、第1刷、580円) カバー折り返しの著者紹介によれば、専門は「小児科学、人類遺伝学、臨床奇形学だが、専門分野の狭いワクにとらわれず、社会的視野から問題をとらえる姿勢を堅持し、積極的に発言・行動する学者として知られている」人です。上記2冊でも患者会の連絡先を掲載してますし、これまでに紹介した本の著者たちとは、問題意識というか身を置いてる現場がちょっと違うのでしょう。 さて、ちょうどこの頃は、「優生保護法改正の動き」をめぐって議論が紛糾していた時期で、冒頭でもそのことにふれています。それに続けて、歴史上「優生学的に好ましくない」人びとによって人類の文化は発展してきたと述べ(要するに病気や障害をもっていた科学者や芸術家の逸話)、正常/異常は恣意的な線引きであると優生思想を批判し、遺伝的に「欠陥」のある人たちが子どもを作らないようになれば「人類の文化はかなりの打撃を受けるだろう」と続けます(「はじめに」より)。ただ、「はじめに」では、著者の考えはわかるんですけど、どんな本かはわかりません。 目次は、「1. 人間は『社会的動物』である」で人間とは何かという問いを議論し、「2. 遺伝子は人間の設計図である」「3. 人間は細胞の塊である」でメンデルの法則や細胞、染色体、DNAとかの説明をして、「4. 人間は遺伝的に不完全である」でひととおりの遺伝要因・環境要因の先天異常を紹介し、まとめに「誰でも遺伝病を隠しもっている」という話をして、「5. 人間の未来は悲観的である」では最新の遺伝子診断のことやベトナム戦争のことにもふれつつ、日本では遺伝学の知識の普及が遅れていると批判してます。これまでの2冊と同じく、最終的には文化的・経済的な問題にもっていく構成になってます。 アルビノが出てくるのは、4章「人間は遺伝的に不完全である」の1節「遺伝形質の変化」です。相も変わらず「劣性遺伝病には代謝異常が多い」の中の一覧表に「白皮症」が載ってます(p.132)。というか、『先天異常の医学』で使ってる表とまったく同じものです。また、この本も本文は、フェニールケトン尿症を例に代謝異常のメカニズムや新生児スクリーニングの話をしてます。 そんでまぁ、5章「人間の未来は悲観的である」という危機意識を喚起する章の「先天異常患者発生頻度」の中で「主な患者とその発生頻度」の一覧表に、劣性遺伝のところに「白皮症」、X連鎖遺伝のところにも「白皮症」が載ってます(p.215)。これも『先天異常の医学』とレイアウトが違うだけの同じ表を使ってます。 |
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