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分割した記事の第6弾で、名残惜しいですが今回が最終回です。言い訳⇒をまだ読んでない人は、先にそっちからお願いします。戦後の遺伝学の啓蒙書を古い順に紹介してるんですけど、薄々お気づきの方もいるかと思いますが、アルビノへの言及は徐々に少なくなってます。遺伝に関する本の出版は別に減ってないというか、むしろヒトゲノムのあたりから増えてすらいると思うんですけど、アルビノが出てくるのを探すのは結構大変です。
前回は1980年代の木田盈四郎の3冊の本を紹介しましたが⇒、今回は80年代の残りの1冊と、その後90年代から現在までのものです。つまるところ、80年代以降はアルビノなんてさっぱり登場しないわけでして、見落としそうなのをよくぞ見つけたと思います。 石川辰夫, 1982,『分子遺伝学入門』岩波書店.(岩波新書、1992年、第18刷、550円) タイトルのとおり、「分子遺伝学が遺伝子のなぞをどのようにしてどこまで解き明かしたか」を、「科学を専門としない方々にも読んでいただけるように、できるだけやさしく書くことを心掛けた」入門書です(「まえがき」より)。 そのような本ですので、目次は「1. 遺伝形質と遺伝子の働き」でまずはメンデルの法則の説明といくつかの代表的な遺伝形質の紹介をして、細胞と染色体の話をして、それ以降は「2. 遺伝子の本体はDNAである」「3. 遺伝子は暗号からできている」「4. 染色体上の遺伝子の配列と組換」「5. 細胞質にある遺伝子とプラスミドの働き」「6. 遺伝子作用調節のしくみ」「7. 細胞の分化・発生を支配する遺伝子作用」と、どんどんミクロな世界に深く入り込んでいきます。著者の専門は微生物遺伝学だそうですから、全般的に人間の影は薄いです。 1章「遺伝形質と遺伝子の働き」は、メンデルに始まる遺伝学史を駆け足でおさらいできる内容にもなってまして、メンデルの次に登場するのがギャロッドです。ここでまず、1902年のアルカプトン尿症についての報告のことが書いてあって、続いてシスチン尿症とポーフィリン尿症と「体の色素ができなくなる白子症」も含めてギャロッドが先天性代謝異常概念を提唱したと述べてあります(p.10)。ただ、20世紀遺伝学の主役はショウジョウバエやアカパンカビや大腸菌ですから、この先しばらくは、アルビノどころか人間の疾患の話は出てきません。 次は3章「遺伝子は暗号からできている」の6節「遺伝暗号を変えるもの」で自然突然変異のことが解説してあって、そこに「各種生物の遺伝子における自然突然変異率」の一覧表があります。この一覧表は、ファージ、大腸菌、アカパンカビ、トウモロコシ、ショウジョウバエ、マウス、人、人骨髄よりの培養細胞のそれぞれについて、2、3ずつの形質を例示しており、人における自然突然変異率では血友病と「白子」の2つがあがってます(p.98)。2か所もありました。 中村祐輔, 1996,『遺伝子で診断する』PHP研究所.(PHP新書、第1刷、680円) 著者の専門は遺伝医学で、この本が出た1996年当時は東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター長でした。「はじめに」は、まず5ページにわたって著者が外科医だった頃に遭遇した「悲惨な死の場面」の回顧があって、それをなくすために現在の「治療」を主とする医療から、21世紀の「予知・予防」を主とする医療への転換が進んでいる。この本は「遺伝子」や「ゲノム」をキーワードに、「ゲノム研究によって解き明かされる遺伝子の働きがいろいろな病気とどれだけ深い関わりをもち、遺伝子がどのようにわれわれの将来に影響を及ぼすのか紹介するために書き下ろした」そうです(「はじめに」より)。 内容ですが、「1. 遺伝子とゲノム」では、もう今さらメンデルの法則なんて取り上げずに、最初からゲノムの基本的な解説をしておいて、日本は遅れているという批判も盛り込んでます。「2. 病気と遺伝子」は単一遺伝子病というよりも、糖尿病や高血圧などの多因子性疾患がメインで、「3. がん遺伝子とがん抑制遺伝子」もその引き続きです。「4. 遺伝子診断の可能性」「5. 遺伝子診断は諸刃の刃か」では、遺伝子診断で何ができるかを解説し、それにともなう倫理的問題などにも言及してます。また、巻末には日本人類遺伝学会が発表した「遺伝性疾患の遺伝子診断に関するガイドライン」が参考資料としてついてます。 そのような構成ですので、2章「病気と遺伝子」にはアルビノは出てきません。わずかに言及してあるのは5章「遺伝子診断は諸刃の刃か」です。この章は、遺伝子診断を実施する基準や知る権利/知らないでいる権利のこと、遺伝カウンセリング、社会的な偏見や差別、医療費の負担など、遺伝子診断にともなう諸問題について、どちらかといえば日本では整備が遅れていると批判的な論調です。この中の「教育、カウンセリング機関の不備」というところでは、保因者はたくさんいる、誰もが何かしらもっているという定番のロジックで説明が進んでます。で、「常染色体劣性遺伝病と近親結婚」という一覧表の11の疾患の中に「全身白皮症」が入ってます(p.203)。それだけです。 清水信義, 2001,『図解 ヒトゲノム・ワールド――生命の神秘からゲノム・ビジネスまで』PHP研究所.(第1刷、1500円) これまではほとんどが新書などのお手軽な本ばかりでしたが、ちょっとお高いうえにA5サイズのこの本はそれらとは明らかに違うものです。個人で購入するというよりも公立図書館や学校図書館に置いてあって、「図解」とか「よくわかる」とかいった言葉がタイトルに入ってて、写真やイラストを豊富に使って理解を進めようという類いの入門書です。アルビノに言及してるのが少ないから苦肉の策で入れてみました。せっかく見つけたんだから、ご容赦ください。 とはいったものの、「はじめに」とか「序」がない本で、どんな読者を対象にしているのかがいまいちわかりません。「おわりに」はあるんですけど、遺伝子ビジネスを「過信しすぎてはいけない」、ヒトゲノム解読は「崇高な知的好奇心の究極テーマであることを忘れてはならない」、「生命の尊厳に関して新しい価値観をもつ努力もしなければならない」と、やたらとマストで語ってます。最後の最後に、最先端技術を「正しく育み、恩恵を享受するには、全ての人々が理解を深めることしかない」って書いてますから、読者対象は「全ての人々」なんですかねぇ(「おわりに」より)。 内容は、「1. 生命のはじまりと進化」「2. 生命観の歴史と進化論」「3. 細胞、DNA、遺伝子の世界」「4. 二重らせん構造と分子生物学」「5. 生殖の基本としくみ」「6. ヒトゲノム解読のインパクト」「7. 身近な遺伝学」「8. 遺伝病と遺伝子治療」「9. ゲノム・ビジネス」「10. 遺伝子操作と再生技術」「11. ヒトの進化と恐竜復活」となっていて、基本を押さえつつ最新の知見も紹介する感じです。巻末に付録で、ノーベル賞の医学・生理学賞と化学賞の受賞者の一覧表がなぜだかついてます。 8章の「遺伝病と遺伝子治療」の一番最初に、「数多くある中で代表的なものを表にした」という注記つきで人間の遺伝性疾患を26こ列挙した表がありまして、「白子症」も入ってます(p.137)。せっかく見つけたといっても、以上です。 賀藤一示・鈴木恵子・福田公子・村井美代, 2007,『図解入門 よくわかる最新ヒトの遺伝の基本と仕組み』秀和システム.(第1刷、1600円) 上記と同じくあまりお手軽ではない本です。図書館で借りてきました。「『遺伝子』や『DNA』という用語は今やすっかり市民権を得て世の中に浸透」している現代において「遺伝子や遺伝の基礎知識は、教養として不可欠」であるにもかかわらず、「一般の人が学ぶ場は用意されていません」。例えば高校生物の教科書でも「ヒトの遺伝の内容は乏しく」必修科目でもない。そうした現状を危惧して作ったのが「教養のための遺伝学の入門書」である本書だそうです(「はじめに」より)。 内容は「1. ヒトの遺伝を考える(入門編)」では、入り口としてとっつきやすい血液型や性別のこと、ヒトとチンパンジーのゲノムの違いなんかのトピックを紹介し、「2. DNAのはたらき(基礎編1)」で機能やら構造やらの説明をして、「3. 遺伝する仕組み(基礎編2)」でメンデルの法則なんかが出てきて、「4. 奥の深い遺伝の仕組み(発展編)」では代謝や進化や集団遺伝学などの紹介があって、「5. 突然変異はどのようにして生じるの?」「6. 変異遺伝子がなくならない理由」は見出しそのままで、「7. ヒトの遺伝と病気」で具体例があり、最後に「8. 遺伝子に関する技術いろいろ」ではDNA鑑定や出生前診断のことを紹介してます。 巻末の索引にないから危うく見落とすところでしたが、わずかに登場します。2章「DNAのはたらき(基礎編1)」の中に「形態発現と形態形成」という節があって、ここで一遺伝子一酵素説の説明をしてます。あるひとつの遺伝子はひとつの酵素に対応しているというあれです。最初に出てくるのがフェニルアラニン→チロシンへの代謝ができないフェニルケトン尿症で、次にチロシン→メラニンへの代謝ができずに「毛や皮膚が白く、眼が赤くなる白子症」と続きます。その後はクレチン症とアルカプトン尿症が出てきます(p.61-2)。 7章「ヒトの遺伝と病気」の劣性遺伝のところにはあがってないんですが、「ヒトはみな病気の『遺伝子』を持っている?」という節の中の「ヒトの発生関連遺伝子の変異による病気」の一覧表に「限局性白皮症」があります(p.253)。その次の節で「血族結婚と遺伝的隔離」の話をしてますが、ここには出てきません。 栃内新, 2009,『進化から見た病気――「ダーウィン医学」のすすめ』講談社.(講談社ブルーバックス、第1刷、820円) 病気をこれまでとは違う視点からとらえ直す「進化医学/ダーウィン医学」という学問の紹介を主目的にした本です。病気の症状のなかには体を守るための防御反応もあれば、人間が作り出した「人災」もあるし、「さらには病気を起こすと考えられていた遺伝子が、じつは我々の祖先が生き延びるために有益」だった例もある。進化医学は、治療すべきものとしてだけ病気に対するのではなく、進化との関連で見ていこうとするものらしいです。で、この本は「病気に関わるすべての人が予備知識なしで読めるよう」に、進化医学の考え方を紹介してます(「はじめに」より)。 内容は「1. 『ダーウィン医学』とは何か」「2. 風邪をひいてから治るまで」「3. ヒトは病気とどうつきあってきたか」「4. 感染症」「5. 生活の変化が引き起こした『文明病』」「6. 遺伝病」「7. トレードオフ進化」「8. 先端医療はヒトの進化を妨げるか」「9. 老化と進化」で、トピックのひとつにはなってますが、遺伝学の本ではないです。 アルビノは、6章の「遺伝病」でわずかに言及してあるだけです。劣性遺伝には、「新生児に対してスクリーニングが行われているフェニルケトン尿症や、メラニンを作れないため全身の皮膚が白く、髪は金髪もしくは白髪、虹彩が赤くなる白皮症(アルビノ)、遺伝子治療が試みられていることで有名になったADA欠損症など、ほかにも多く知られている」と、他の疾患と併記して1行程度ふれてあるだけです(p.120-1)。本当にそれだけです。 |
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