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書庫障害児

ある先天性奇形児の記録〜学ばせてくれてありがとう
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命〜突然の知らせ

Nくんのお母さんから電話がありました。

「年賀状 出せなくてごめんね」

時々そうしたことがあるので、別に気にもとめなかったのですが。

「Nのこと 言ってたかな?」

この言葉に嫌な予感がしました。


彼女が話してくれたことは、Nくんの死でした。

亡くなって1年経つこと。 突然の心臓発作だったこと。

自宅ですでに心停止の状態だったこと。 救急車や病院での蘇生処置も効果がなかったこと。

淡々と語る彼女の乾いた言葉が、母としての深い哀しみを伝えていました。


Nくんは仕事で疲れていたと言います。

しかし20代前半の青年です。

誰が亡くなることなど予測していたでしょう。

救急隊員やドクターの精一杯の処置にもかかわらず、Nくんの心臓は二度と動くことはなかったのです。


「今でもね。 諦めきれないのよ」

「Nがね。 どこか遠い外国にいるみたいで。 まだどこかに生きてるって。。。」

当然だと思います。 急に我が子を失った悲しみを、どこにも出せないでいたのでしょうね。

ただ聞くことしかできませんでした。 聞くことしか。。。

落ち着いたら、手紙を書いてみようと思います。

手術〜はじめての入院

久しぶりにこの書庫に記事を書きます。

ここで、「彼」についてもう一度紹介したいと思います。

「彼」は私の息子。 現在20歳。 とっちゃん坊やです^^;

携帯も持たない古風なヤツで、イマドキの若者ではありません。


そんな「彼」には先天性奇形がありました。

はっきり言って大変でした。 きれい事だけではないですからね。

でも、そのお陰でたくさんのことを学ぶことができました。 「彼」も私も。

「彼」の奇形は機能的にも支障があります。

しかし、現在の医療ではその回復は望めません。

見た目の奇形を、手術によってそれなりに見せるしか方法がないのです。

命に別状はないし、たいしたことないって言えばそうなんですけど。。

欠損している部分を手術によって完成させます。

無を有にするわけですから、手術も数回にわけて行います。


「彼」が幼稚園在園中、大学病院で初めての手術がありました。

手術時間は半日ぐらいかかったでしょうか。

患部に使用する軟骨や皮膚を移植するため、何ヶ所か同時に手術するからです。

術前の緊張感は子どもにも伝わるはずですが、「彼」は平然と手術室に消えていきました。
 
術後しばらくの間はかなりの痛みが残ると言います。
 
「彼」は耐えました。 小さいながらよく頑張ったと思います。


「彼」の病室には同じような先天性奇形のお子さんがいました。

「彼」より年下ですがしっかり者のYくん。

小学生ですでに数回手術を受けていたNくん。

入院期間は2〜3週間におよびますので、Nくんはいつも勉強していました。

そんなNくんを見習って、病室は小さい子どもたちも含めて院内学級のようでした。


NくんもYくんも「彼」より先に退院していきました。

そして、今でもNくんのお母さんからは年に数回電話が来ます。

今年も年明け早々に電話がありました。

試行錯誤〜子離れ

「彼」の変化がもうひとつありました。

子供は眠くなるとグズリますが、「彼」は寝起きも火がついたように泣くのです。

その泣き方の激しさは、入院前まで見たことのない姿でした。

その頃は実母も元気で、機嫌直しに「彼」を外まで連れ出してくれました。


どうしてこのようになったのか。。

私が何の前触れもなく、突然姿を消したからです。

幼い子供にとって、突然庇護者がいなくなる不安は計り知れません。

今になってこそ、「彼」にわかるような言葉で、入院を伝えれば良かったと悔やまれますが、

当時はそんな余裕もなく、親子で傷付く結果を招いてしまいました。


では、どうすればいいのか。。

まもなく様々な理由から夫と離婚に至ります。

そのため、実父・実母・私・「彼」という家族構成になりました。

私は、一家庭に母親がふたりも必要ないことを、受け入れざるを得ませんでした。

働ける身体になるまで治療に専念し、私は母親業を捨てました。子離れしたのです。

社会復帰後は、社会を伝える父親の役目と、姉貴分として「彼」をバックアップしました。

実母の強い性格に傷付けられた経験から、無意識に「彼」を守ろうとしたのです。


しかし、それには犠牲も伴いました。

必要に迫られた措置でしたが、私にとって母親業を捨てることは、かなりの負担があったようです。

後に、その時の経緯や感情の記憶が、欠落していたことがわかりました。


当初は試行錯誤の連続でしたが、意外にこの方法が効果的な役割を果たしました。

私のポジションが、柔軟に対処できたからです。

「彼」の年齢によって、役割の比重を対応させたのです。

「彼」が幼い頃は遊び仲間となり、成長とともに父親の役割が増えました。

また一定の距離をおくことにより、「彼」を所有することなく、人として尊重することができました。

私が受けたプレッシャーから守るため、実母の過剰介入をけん制し、「彼」を自由にさせることができたのです。

母親役は実母が担ってくれたため、私は温かく見守ることができました。

コケたからすぐに助け起こすのでなく、そばに行って視線を同じまで下げ、手を差し伸べることができました。

「彼」と三人称で呼んでいる経緯はここにあるのです。


今でも「彼」の中に父性の少なさは否めませんが、それぞれの役割で最善を尽くせたと思います。

再会〜喪失感

病院から電話がかかりました。

「空きベッドができましたから、○月○日に入院して下さい」

病気への悲壮感はありません。

でも、実母に託すとはいえ「彼」をおいていくことは、後ろ髪をひかれる思いです。

まだ幼い「彼」に、どのように伝えれば良いのか。。

正直、かける言葉を失っていました。

感染等の防止のため、子供の面会は病院で禁じられていました。

子供がかわいい盛りに空白期間を作るのは、罪の意識さえ生じます。

詳しく明かされない病状と、100%生還の保証がないことが、私の言葉を奪っていました。


その後。。

約40日間の入院期間を経て、家へと帰れる日が来ました。

養生のため、実家へ帰るのです。

そこには、預けてある「彼」もいます。

1ヶ月以上も顔を見なかった、「彼」に会えるのです。

再び会える喜びと、拒否される怖さが交錯します。


どのような感情を抱いて、「彼」と対面したのか。。

残念ながら記憶がないのです。

それほど私の体力は弱っていたのです。

否、喜びを思い出せないほどのショックが、私を襲ったからかもしれません。

1ヶ月以上の月日は、「彼」の生活パターンを全て変えていました。

実母の傍らで眠る「彼」を見て、呆然としました。

私と一緒でしか眠らなかった「彼」が、もういないのです。

遊んでもらおうと「彼」が歩み寄って来ても、実母から制止されます。

私にとっても、傷の痛みに耐えて「彼」と遊んでやることは、不可能です。

もう母親としての私の役割は、どこにもありませんでした。

濃密な時間〜別れ

そのような日々の中で、私は身体に異変を感じました。

育児に追われる毎日と、20代という年齢が、私を無知にさせていたのです。

不吉なものを感じましたが、病院に行く時間もなく、真実を知ることも怖かったのです。

実母も私の疲労感を知って、何かにおいて協力してくれました。

私の身体がどんなことになっていても、「とにかく半年待とう」と心に決めて。。


それまでの半年間は、「彼」と濃密な時間を過ごしました。

「半年」と時間を区切ったことで、少しは動けるようになったのです。

疲れて動けなくなると、「彼」の背中を掻いて、私も一緒に眠ります。

しかし半年という時間は、あっという間にやってきました。

かわいい盛りの「彼」を見て病院に行くのは、やはりためらわれましたが、

素人の私でも危機感を感じる症状が出ています。思い切って検査に行きました。


そして結果が出ました。

約1ヶ月、「彼」と離れなくてはなりません。

自分のことはともかく、「彼」を実母に預ける準備、「彼」の今後から将来のこと。。

不安は尽きませんが、呼び出しがあればすぐに「彼」と離れる時がきます。

とにかく時間がありません。「彼」と私のそれぞれの準備に追われました。


しかし病気を告げられたことで、私の心は楽になっていました。

1ヶ月間は、今の生活から離れることが約束されるのです。

呼び出しがくる日まで、弾む気持ちを隠して「良き嫁」を演じていました。


後に知る、「病は恵み」を体感していたのです。

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