"やいたもん"の文学館

大きな人生の転機がありました・・・

十三時代〜とさみち〜(完結)

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第4話

その翌日の事だった。
結局綾奈は、満足に眠る事が出来ず、朝から寝不足でぼうっとしたまま登校したが、
その日の中休み、翔矢が綾奈のところに来て言った。

翔矢「今日の放課後空いてる?」
綾奈「どうして?」
翔矢「いや、一緒に帰ろうかと思って。」
綾奈「部活休みなの?」

翔矢は、小学校の時と同じサッカー部に所属していた。
しかも、県内では実力校として知られる名門サッカー部だったため、
朝練があり、放課後も遅くまで練習があって、
登下校の時間は、綾奈や輝明とは完全にずれていた。

翔矢「いや、今日もみっちり練習あるよ。」
綾奈「あるんだったら帰り遅いじゃない。」
翔矢「だから、練習終わるまで待っててよ。」
綾奈「えっー! 嫌だよ・・・」
翔矢「たまにはいいじゃん。練習する俺の写真でも撮ってくれよ。」
綾奈「試合だったら撮ってあげてもいいけど・・・」
翔矢「練習でもいいじゃん。別に撮りたくなきゃ撮らないで構わないけど、
   とにかく、終わるまで待っててくれよ。」


翔矢は、長年の付き合いで、
綾奈が、とことん頼まれると断れない性格である事を知っていた。
綾奈も、今日は輝明との約束もなく、特に用事はなかったので、
結局、翔矢の部活を最後まで見ていく事にした。

放課後、綾奈は、一旦家に帰ってから、
体操着ではない自前のジャージに着替えて、カメラを持って学校に戻ってきた。
すでにサッカー部の練習は始まっていて、
先輩たちがシュートやドリブルの練習をする周りを
翔矢たち1年生は、何周も走らされていた。

綾奈は、そのグラウンドの隅、芝生のあるところに腰を下ろし、
しばらくぼうっとその光景を眺めていた。

綾奈「そういえば寝不足だった・・・」

今日は、優しい風もあって涼しく、
芝生の上で、心地良い睡魔に襲われそうになった。

綾奈(うちに帰って寝たいな・・・)

やがて、翔矢もシュートやドリブル練習に参加した。
小学校では、バリバリのレギュラーだった事もあって、
その姿は、素人の綾奈が見てもはっきりと分かると、
他の1年生たちと比べて様になっていた。

綾奈(こうして見ると、翔君も結構カッコいいんだよね・・・)

綾奈は、ちょっとだけカメラを構えた。
そして、綾奈は気付かなかったが、そんな姿がサッカー部の先輩の目に留まった。

先輩「あれ、神戸の兄貴の彼女じゃねぇの?」

先輩が翔矢に言った。
昨日の事を知らない翔矢は言った。

翔矢「彼女じゃないっすよ。」
先輩「でも、お前とは幼馴染だよな? 結構可愛いじゃん。」
翔矢「そうっすか? まあ、ブサイクではないとは思いますけど。」

だが、そう言った翔矢の顔は、まんざらでもなかった。
翔矢からも、時々、カメラを構える綾奈の姿が見えた。
撮られていることを意識した翔矢は、今日の練習をいつも以上に張り切っていた。

練習が終わったのは、午後6時だった。
学校には照明設備もあり、昔はもっと遅くまで練習していたらしいが、
最近は、物騒な事件が多いせいか、
学校の方針で、どんなに遅くても6時には終えるように決められていたのだ。
綾奈は、部活が終えたのを確認すると、
校門の方に移動して、そこで翔矢が来るのを待った。
だが、後片付けは翔矢たち1年生の仕事。
先輩たちが先に帰った後、翔矢たちが出てきたのは、
部活が終わってから30分くらい経ってからだった。

翔矢「よ! 綾奈。」
綾奈「遅いよ〜」

すると、翔矢の周りにいたサッカー部の仲間が、
翔矢と綾奈の事を冷やかした。

仲間「あれ、松下(綾奈)って、翔矢の兄貴の彼女だと思ってたけど、
   翔矢と出来てたの?」

綾奈「ち、違うよぉ。私と翔君は、そんな関係じゃないもん。」
仲間「あれれぇ、図星だったかな? じゃ、俺たちは邪魔みたいだから。」
綾奈「違うってば!」

誤解がとけてからかわれたのか、誤解がとけなかったのか、
分からないまま、友達は帰っていった。

翔矢「なあ、綾奈。真っ直ぐ帰るのもつまらないから、ちょっと寄り道していこうぜ。」
綾奈「えーっ、もう7時近くだよ。遅くなったら、お父さんに怒られる・・・」
翔矢「大丈夫だよ、部活だって言えば。寄り道するって言っても、いつもの公園だから。」
綾奈「もー、勝手なんだから・・・」

いつもの公園とは、綾奈たちの家のすぐ近くにある、
ブランコやジャングルジムなどの遊具設備を揃えた、どこにでもある公園だった。
ただ、幼い頃は、よく遊んでいた公園で、
綾奈には、輝明、久留美、翔矢との思い出がたくさんある公園だった。

翔矢「少し遊んでいこう。」
綾奈「あれだけ激しい練習したのに疲れてないの?」
翔矢「疲れってけど、遊びの体力はまた別だ。」

ただ、ジャングルジムや滑り台は、
もう翔矢や綾奈にとっては、小さいものになっていた。
幼い頃は、綾奈は、ジャングルジムが高くて怖かったのに・・・

綾奈「懐かしいけど、もう昔みたいには遊べないね。」
翔矢「そうだな。遊べるのは、ブランコくらいかな?」

2人は、ブランコに乗っていた。
綾奈は、最初はゆっくり揺れていたが、
翔矢が立ち漕ぎを始めると、それを見て綾奈もブランコに立った。

翔矢「昔は、よく遊んだな。」
綾奈「そうだね、私と翔君と久留美の3人で。今は2人だけど・・・」
翔矢「早く久留美も退院出来るといいな。」
綾奈「翔君がそんな事言うの珍しいね。」
翔矢「綾奈がさみしそうに言うから、言っただけだよ。」
綾奈「・・・・」

やがて、翔矢がブランコを降りた。
帰るのかと思い、綾奈もブランコを降りた。
しかし、それは突然やってきた。
綾奈がブランコを降りると、いきなり翔矢がその背中を抱きしめてきた。
突然の事に、綾奈は昨日と全く同じに頭が真っ白になったが、
綾奈が抵抗しようとすると、翔矢は、さらに強く抱きしめて言った。

翔矢「俺、綾奈が好きなんだ。」
綾奈「え・・・」
翔矢「今日、そのつもりでここに来た。」

綾奈は、まさかと思った。
翔矢に告白された事自体もそうだが、
昨日、輝明に告白されたばかりなのに、
今日は、弟の翔矢に告白されたのだ。
ありえない・・・それが綾奈の素直な気持ちだった。
けれども、翔矢の気持ちには応えられなかった。
だって、昨日輝明と付き合う事を決めたばかりなのだ。
応えられるわけがない。
しかし、どうそれを伝えればいいか、
綾奈には、全く分からなかった。

ただ・・・

それとは別に綾奈は、妙な感覚に襲われていた。
部活を終えたばかりの翔矢の汗臭い体。
けれども、ぜんぜん嫌な感じはしなかった。
翔矢が一生懸命練習して出た汗だと知っていたからだ。
そして・・・

綾奈(兄弟だからかな・・・輝君と同じ感じがする・・・)

綾奈は、いつしか翔矢と輝明をだぶらせて、
輝明に抱きしめられているような感覚になっていたのだ。
さらに綾奈は、翔矢の体が鍛えられてたくましくなっている事に気付いた。

綾奈(少し前までは背の高さも同じだったのに、いつの間にか大きくなって、
  久留美が入院するまでは、喧嘩も久留美の方が強かったのに・・・
  やっぱり男の子だなぁ。本気になったら、元気な久留美でも勝てないだろうな・・・)


そう思うと、今告白された事も忘れて、綾奈は、何だか嬉しい気持ちにもなっていた。
けれども、やっぱり正直に言わなければならない。
綾奈は、背中を翔矢に抱きしめられたまま言った。

綾奈「駄目だよ・・・私、好きな人がいる。」
翔矢「知ってる。兄貴だろう? 
   だから告白したんだ。綾奈が兄貴に告白する前に。」

綾奈「・・・もう遅いよ。」
翔矢「え?」
綾奈「昨日、輝君に告白された。」
翔矢「うそ?」

その瞬間、綾奈を抱きしめる力が緩んだ。
それを感じて、綾奈は翔矢の腕をおもむろにほどこうとしたが、
翔矢は、再び強く抱きしめて言った。

翔矢「だったら、俺は兄貴に勝ってやる!」

すると翔矢は、強引に綾奈を振り向かせ、いきなり、その口唇を奪った。
その瞬間、綾奈の全身を電気が貫き、
全身から力が抜け、腰砕けになるように、綾奈はブランコにへたり込んだ。
そして翔矢は、口唇を離した後、
何も言わずに綾奈の前を去っていった。

綾奈「そんなの・・・勝手だよ・・・」

綾奈の目には、自分でも正体の分からない涙が溢れ、
しばらく、そこを動く事が出来なかった・・・


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