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翔矢と綾奈は、その翌日から気まずい空気になって、
何の用もないのに気軽に話し掛けるといった
昨日まで簡単に出来ていた事が出来なくなっていた。
お互い、そんな風になるつもりはなかったが、
顔を見ると、昨日の事を意識してしまって、
思考回路がショートしてしまうのだ。
けれども、綾奈は、何とか寄りを取り戻したいと思っていた。
なぜならば、5月には大きなイベントがあるからだ。
5月12日、その日は、翔矢と久留美の13歳の誕生日であった。
綾奈は、その日までには何とかしたかった。
ゴールデンウィーク前、久留美の病室を訪れた綾奈は、
輝明に告白され、付き合う事になった事を久留美に報告した。
それを聞いた久留美は、大笑いしていた。
久留美「お兄ちゃんが綾奈に? アッハッハッハ!!」
近日稀に見る大笑いだったが、
なぜ笑いわれたのか、綾奈には分からなかった。
それを久留美に聞いても、
久留美「私も分からないけど、なぁ〜んかおかしくて!」
・・・と、腹が痛い痛いと騒ぎながらしばらく笑い続けた。
久留美「でも、お兄ちゃんなんかでいいの?
綾奈なら、もっと良い男捕まえられるのに。」
綾奈「輝君カッコ悪いかな?」
久留美「ブ男じゃないけど、いい男だと思う?」
綾奈「・・・・」
確かに・・・特別秀でた要素はないけれど・・・
綾奈は、結局、何も答えられなかった。
久留美「でも、綾奈がお兄ちゃんと結婚でもしたら、
綾奈は、私のお義姉ちゃんになるね。
そういう意味では歓迎するよ。」
綾奈「そんな先の事まで考えてないよ・・・」
ただ、綾奈は、翔矢に告白された事だけは言わなかった。
言えなかったと言ったほうが正しいかも知れない。
久留美をあまり心配させたくなかったし、
翔矢の名誉とか、いろいろ考えても言えなかった。
綾奈「ところで、今度の誕生日の事だけど・・・」
久留美あ、それはもう親と先生に話通してある。
ここで3人だけで集まって、泊り込みで誕生会が出来るようにね。」
3人・・・とは、もちろん、綾奈、久留美、翔矢の事だ。
綾奈は、この時、翔矢との寄りを戻すべく完全に決意した。
ゴールデンウィークに入って、
綾奈は、久しぶりに翔矢の携帯に電話した。
非通知にされたり、番号見て無視されたらどうしようかと心配したが、
翔矢は、意外と早く電話に出た。
綾奈「あ、翔君?」
翔矢「何だよ?」
そっけない返事だったが、それはいつもの感じであり、
それを聞いた綾奈は、ちょっとだけほっとした。
綾奈「話があるんだけど・・・今度の誕生日の事だけど・・・」
翔矢「誕生日って俺の? ああ、その話だけど・・・」
すると、翔矢から思いがけない答えが返ってきた。
翔矢「今年は、俺、久留美のところには行かないから。
何か、友達が盛大に祝ってくれるんで。
だから、久留美の事は綾奈に頼むよ。」
綾奈「え? ちょ、ちょっと・・・」
翔矢「とにかく俺は友達とやるから。じゃ〜ね。」
そう言って、翔矢は、一方的に電話を切った。
綾奈は、慌てて今度はメールを打ったが、
返って来た答えは、今の翔矢の言葉を確認するものだった。
綾奈(私のせいだ・・・私が翔君を傷付けたから・・・)
綾奈は、自分を責めた。
今まで、必ず3人一緒に誕生日を祝ってきたのに、
今年になってそれが出来なくなったのは、自分のせいだ。
綾奈はそう思った。
翔矢を責める事は全く思わなかった。
そして、久留美になんて言えばいいか・・・
それを思うと、綾奈は、悲しくて涙が止まらなかった。
でも、伝えなければならない。
誕生日の前日の11日、綾奈は、電話で久留美に翔矢が当日来ないことを伝えた。
久留美なら、「あいつ勝手な事ばっかり言って・・・」と怒るかと思っていたが、
久留美「そう・・・」
・・・と力なく返事をして黙り込んでしまった。
がっかりさせたのも自分のせい・・・綾奈は、この時も自分を責めた。
そして、誕生日当日。
久留美の病室を小学校時代の同級生が大勢訪れ、
誕生会を始める前から、久留美の病室は、
お祝いの花とプレゼントでいっぱいになっていた。
けれども、久留美の心は晴れなかった。
みんなの前ではいっぱいの笑顔を見せていたが、
その夜、綾奈と2人きりになると、顔を曇らせ無口になった。
久留美「初めてだね。翔矢がいない誕生日って・・・」
綾奈は、一応、翔矢の分もプレゼントを用意した。
メールも改めて打った。
もしかしたら気が変わって来てくれるかも知れないからだ。
けれども、翔矢はやっぱり来なかった。
久留美「うらやましいな、友達と誕生会なんて。
私も元気だったら、友達を家に泊まらせて、
みんなに誕生日祝ってもらえるのに・・・」
そう言うと、気丈な久留美が綾奈の前で涙を見せた。
久留美「ごめんね、綾奈。泣くつもりはないんだけど・・・
でも、何か止まらなくて・・・」
綾奈も泣いた。自分のせいでこんな事になって、
それを久留美に言えなくて・・・
とにかく、久留美に申し訳なくて泣いた。
その時だった。誰かが、久留美の病室をノックした。
久留美が、涙を拭いて返事をすると、入ってきたのは輝明だった。
輝明「あれ? 何で2人して泣いてるの?」
誕生日だから大騒ぎしてるだろうと思いきや、
お通夜みたいに泣いている2人を見て、輝明はきょとんとしてしまった。
久留美「な、何でお兄ちゃんが・・・」
輝明「妹の誕生日を祝いに来たんじゃん。何か問題でも?」
久留美「問題はないけど・・・」
そして輝明は、泣いている綾奈に近づくと、
まるで父親みたいに、その頭を抱いて頭を撫でて笑った。
輝明「何で泣いてんだよ。誕生日なんだから笑えよ。」
でも、輝明の腕に抱かれて、綾奈の涙は益々止まらなくなった。
それを見た久留美は、何だか2人が微笑ましく見えて、
涙も枯れてしまっていた。
久留美(綾奈が幸せそうでうらやましい・・・)
結局、誕生会は、久留美を祝うというより、
綾奈と輝明の仲の良さを見せ付けるような場になってしまった。
でも、久留美はそれで良かった。
いや、それが何よりのプレゼントになった。
綾奈の幸せそうな顔が、久留美の心を癒したのだ。
輝明「ところで、何で泣いてたの?」
久留美「私の誕生日だからに決まってるでしょ。
綾奈は優しいから。」
輝明「・・・そっか。綾奈は優しいんだな。」
久留美「そこにお兄ちゃんは惚れたんでしょぉ〜?」
輝明「・・・・」
その翌日、輝明と久留美に元気をもらった綾奈は、
本人のいない翔矢の部屋にプレゼントとバースデイカードを置いた。
バースデイカードには、シンプルにこう書いた。
1日遅れだけど・・・
かけがえのない翔君、お誕生日おめでとう
それが、綾奈の偽らざる本心だった。
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