"やいたもん"の文学館

大きな人生の転機がありました・・・

十三時代〜とさみち〜(完結)

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第7話

夏休みに入り、7月最後の週末には、地元で夏祭りが予定されていた。
花火に神輿に盆踊り、一通り揃った地元では最大の祭りだ。
そして祭りは、親の縛りが強い少年少女たちにとっては、
堂々と夜歩きが出来るイベントでもある。
そんな少年少女たちは、友達や彼氏彼女と約束をして
夜の街へと繰り出していくそんな日。
そんな少年少女の中に、輝明と綾奈の姿もあった。

綾奈は、夏を前に浴衣を新調していた。
それも久留美と一緒に。
久留美は外出出来なかったが、
久留美のいる病室からは、
祭りの最大のイベントである打ち上げ花火がよく見えた。
そこで綾奈は、夕方くらいから輝明と一緒に祭りの夜店を歩き、
祭りといえばこれ!!・・・ってな食料や雑貨を仕入れて、
輝明と一緒に久留美の病室に行き、3人で花火を見る事にしていた。
ただ、今日の最大のイベントはそれだけではなかった。
実は今夜、綾奈の両親と輝明たちの両親が、
近くの温泉地に一泊二日で外泊していたのである。
お隣同士で仲の良い神戸家と松下家では、時々そういう事があったが、
お互いの両親の都合の良い日が今日だったのだ。
だから、輝明は言った。

輝明「今日は、俺んちに泊まりに来いよ。」

綾奈が輝明の家に泊まるのは、昔からよくあった事。
けれども、2人が付き合い始めてからは、これが初めてだった・・・


綾奈が、新調した浴衣姿で初めて輝明の前に現れた時、
輝明は、思わず絶句してしまった。
以前から、綾奈には和装が似合うとは言っていたが、
想像していた以上に、綺麗で可愛らしく見えた。
もちろん、綾奈自身が中学生になって綺麗になったという事もあったが、
綾奈が、恋人として、自分(輝明)に見てもらえるように意識して綺麗にしてきたかと思うと、
ものすごく愛らしく思えたのだ。

輝明「可愛いよ・・・」

輝明が、本気でテレながら言うと、
綾奈は「うん」と言って、はにかんで見せた。
その笑顔がまた、すごく可愛かった。

それから2人は、夕暮れの内から
神輿も盆踊りも始まっていない
歩行者天国と化した街の通りを歩きながら夜店を見て回った。
まだ人通りもまばらで、祭りはこれからという雰囲気。
輝明は、綾奈と手をつないで、祭りの前の雰囲気を楽しみたかったが、
久留美を待たせたくなかった綾奈は、
手をつなぎながらも、その手で輝明を引っ張るようにしてお好み焼きや綿飴などを買い、
そのまま病院に直行した。

病室では、久留美が浴衣に着替えて2人を迎えた。
綾奈は、買ってきたものを広げ、久留美と椅子を並べて窓際に陣取り、
部屋を真っ暗にして、夜空に光の花が咲くその瞬間を待った。
綾奈と久留美を前にしては、輝明もおまけみたいなものだ。
綾奈も花火が始まるまでは、輝明にいろいろ気を使っていたが、
花火が始まると、久留美と一緒に盛り上がって輝明はほとんどそっちのけ。
花火を楽しむ2人の間に、輝明が入り込む余地はほとんど無かった。
ただ、輝明は、こうなる事は分かっていた。
だから、カメラを持参していた。
今は、綾奈と久留美の2人の思い出を撮るために・・・

 輝明「おい、綾奈、久留美。こっち。」
久留美「イェ〜イ!」

パシャ! 満面の笑みを並べる2人。
すると綾奈が言った。

 綾奈「じゃあ、今度は私が輝君と久留美を撮ってあげるよ。」
久留美「何言ってんの? 今度は、綾奈とお兄ちゃんを私が撮る番だよ。」
 綾奈「ううん。今度は、輝君と久留美だよ。
    どうせ、そういうツーショットを滅多に撮ろうとしないんだから。」

久留美「・・・・」

そして今度は、輝明と久留美を並べて、綾奈が写真を撮った。
確かに、この2人で写真を撮るのは珍しい。
だから、輝明と久留美は、一緒に並んでカメラを構えられて
かなり気恥ずかしかった。
ただ、お互いが抱えていた思いは複雑だった。

久留美(お兄ちゃんとこんな風に写真を撮るの・・・これが最期になるかもね・・・) 

久留美は、いつだって自分の命の終わりを意識していた。
いつ死んでもおかしくない。もしかしたら今夜かも知れない。
もし、自分が死んだら、今日撮った写真を見て、輝明はどう思うだろうか?

久留美(お兄ちゃんも泣くのかな・・・想像出来ないけど・・・)

写真を撮られながら、久留美はそんな事まで考えていた。
ただ、輝明だって、兄として妹を思う不安をいつも抱えていた。

輝明(来年もこうやって花火が見られるかな・・・)

久留美が生まれた時から、当たり前のように傍にいた妹。
時に、うざったくなる時もあったくらい当たり前の存在だった久留美。
その久留美が、いつか消えてしまうかも知れないと思うと信じられなかった。
けれども、そういう未来があってもおかしくない現在(いま)。
そして、そうなった時、自分がどうなってしまうのか想像出来なかった。

輝明(泣くかな・・・格好悪いと思って泣けない薄情な兄貴になるのかな・・・)

でも、久留美の笑顔を見ると、心に余裕も出来るのだった。
どうせ考えてもしょうがないか・・・と。

そして、綾奈からカメラを受け取った輝明は、
再び、ファインダー越しに綾奈の笑顔を見た。
その瞬間、輝明のもうひとつの人格が現れ、
今夜の事を強く意識した。
綾奈と2人きりの夜。
段取りみたいなものは考えていた。
付き合い始めてまだ3ヶ月程度。そして、2人はまだ中学生。
恋人と言っても、相応に過ごそうとは思っていた。
けれども・・・
成り行き次第では、どうなるか分からない。
キスはしたい。一緒のベッドで寝るくらいの事はしたい。
だけど、そこまで行ってしまったら・・・
でも、そんな事をすれば綾奈が・・・
しかし・・・

輝明は、期待と不安の葛藤に駆られながら、
今夜、自分がどうなってしまうのか・・・全く自信を持てずにいた。

やがて花火が終わり、9時の病院の消灯時間を迎えて、
輝明と綾奈は、その帰り道がどんな未来の暗示となるかも分からないまま
そのすぐやってくる未来に向かって、一緒に帰途についたのだった。


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