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輝明は、7月の終わりに部活を引退すると、
受験生として、講習や模擬テストなどで忙しくなって、
休日などでも、なかなか綾奈との時間を作れなくなっていった。
しかしそういう時、綾奈は、決まって久留美に会いに行っていた。
久留美も、綾奈が来てくれる事が一番嬉しかった。
もちろん、家族や友達が来てくれる事も嬉しかったが、
久留美の中での綾奈の存在は、家族や親しい友達を100人以上集めても、
遠く及ばないくらいに大きなものだった。
今の久留美にとって、綾奈は、世界で一番大好きな存在だった。
そう、まだ恋人がいない久留美にとっては・・・
久留美「私も彼氏欲しいな・・・」
それは、夏休みが終わって間もない9月の日曜日の事だった。
いつものように綾奈は、久留美の世話をしに病院に来ていたが、
綾奈と2人きりになった時、久留美は、
ベッドから窓の遠くの景色を見つめて、ぼそっとそう言った。
久留美「綾奈と翔矢には相手がいるのに、私だけ・・・」
綾奈「久留美が元気になったら、すぐに彼氏なんて出来るよ。」
久留美「まぁね。私がその気になったら、
ジャニーズ系の中レベルくらいならコロコロ落とす自信はあるけどさ。」
綾奈は、苦笑いしながら、ちょっとだけ安心した。
けれども、久留美の憂鬱は、軽い冗談を言ったくらいでは晴れなかった。
久留美「でも・・・今のままじゃ、男は寄って来ないよね・・・」
綾奈「・・・・」
久留美「ねぇ、綾奈。綾奈が私の恋人になってよ。」
綾奈「へ?」
あまりの衝撃的な一言に、綾奈は、思わず声が裏返った。
綾奈「な、何言ってるの? 私女だよ?」
久留美「いいじゃない、女同士で恋人になったって。」
綾奈「でも、それってレズとかって言うんじゃないの?」
久留美「あれ? 綾奈そんな言葉知ってるんだ? どこで覚えたの?」
綾奈「・・・・」
久留美「でも、それでもいいよ。今、一番好きな人を探したら、
私は、世界で一番綾奈が好きだし。」
すると久留美はベッドに綾奈を誘った。
もっともそれはいつもの事、ベッドに綾奈と久留美が一緒に寝る事はよくある。
綾奈は、誘われるままベッドに入り、
お互い、内向きになって見つめ合った。
綾奈「でも、女の子同士で恋人って何をすればいいの?」
久留美「普通デートでしょ? 私はキホン(基本)病院を出られないけど、
病院内とか一緒に歩いたりとか・・・」
綾奈「それなら、いつもやってるじゃない。」
久留美「あと、キスとか。」
綾奈「え? 女の子同士で?」
久留美「私とキスするの嫌?」
綾奈「嫌とかそういう問題じゃなくて・・・」
ありえない。嫌じゃないけど、ありえない。
とにかく綾奈はそう思った。
けれども、久留美のためなら、出来ない事ではなかった・・・
久留美「嫌じゃないならしてみよ。」
綾奈「ど、どうすんの?」
久留美「どうするのはないでしょ?
綾奈は経験者じゃない。そしたら綾奈からするのに決まってるでしょ。」
綾奈「自分からした事なんてないよ・・・」
久留美「あ、綾奈とお兄ちゃんのキスって、そんな感じなんだ?」
久留美が、嬉しそうにいやらしく笑った。
そりゃ、ほっぺにするチュウは自分からした事あるけど、
口付けの時は・・・と、綾奈は弁解したかったが、してもしょうがない。
綾奈は、押し黙って渋い顔をした。
久留美「とにかく、綾奈が経験者なんだから。」
そう言うと、久留美は、自分と綾奈の頭に布団をかけてすっぽり隠した。
もう、なるようになるしかなかった。
意を決した綾奈は、静かに目を閉じ待っている久留美に、
軽くチュ!と口付けをした。
だが、それに久留美は拍子抜けしてしまった。
久留美「駄目だよ綾奈。それじゃなんにもわかんない!」
すると久留美は、綾奈を強引に抱き寄せ、
今度は、自分から綾奈に口付けをした。
しかも、軽く一瞬ではなく、そのまましばらく口唇を離さなかった。
綾奈は、全身が凍りつき戸惑いながらも、
目を閉じ、全てを久留美に任せた。
もう何も考えられない。頭が真っ白なままの時間が長く過ぎたような気がした。
やがて、久留美が口唇を離すと、
力を溜め込むように、ぐぅーっと体を頭から丸めて縮め、
それを一気に開放するように言った。
久留美「きっっっっもちいい〜〜〜!!!!」
確かに、綾奈も悪い気はしなかった。
むしろ・・・
久留美「これがお兄ちゃんのものかぁ。」
綾奈「なにそれ?」
久留美「今まで、お兄ちゃんの独り占めだったかと思うと、
何か、許せなくなるね。」
綾奈「・・・・」
久留美「ねぇ、綾奈! もう1回しよ!!」
綾奈「え〜〜〜!!!」
それから久留美は、布団をかぶったまま、
綾奈に何回も何回もキスをした。
久留美「やっぱり、綾奈は私の恋人になってね。
またキスしようね。」
キスを終えた後、久留美は嬉しそうにそう言った。
実際、さっきまであった久留美の憂鬱は、完全に吹き飛んでいた。
綾奈にしてみれば不思議な感覚だった。
輝明、久留美、翔矢の兄弟みんなに好かれ、
輝明と久留美とは、恋人として付き合う事になったのだ。
そして、3人とはキスもした。
みんな違うはずなのに、みんな同じにも思えるキス。
綾奈は、久留美とキスをしている時、
輝明と翔矢とのキスを思い出していた。
綾奈(私も、みんな好きなんだよね・・・)
好きな人に好かれるのは、最高に気持ちいい事。
だから、好きな人する事も全部気持ちよかった。
キスは、一方的に好きなだけではなく、好かれている事の証。
だから、3人とのキスは、そういう意味で
綾奈にとってそれぞれ気持ちいいものだった。
綾奈にとって今日は、それを確認する1日となった。
そんな事があってから、
久留美の病状は、それまで以上に快方に向かっていった。
担当医でさえ驚くほどの回復を見せ、
やがて、外泊許可まで取れるようになっていた。
そこで久留美は、ある重要な日にあわせて外泊許可を取った。
それは、11月18日。綾奈の誕生日だった。
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