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今日の輝明は絶好調だった。
試験勉強でのヤマがドンピシャで的中し、
これまで経験した事が無いくらいにスラスラと問題が解けていた。
輝明(俺ってこんなに天才だったっけ?)
今日の輝明は、図に乗ってもこけなかった。
順調なのが怖くなるくらい、全てがうまく行っていたのだ。
輝明(これなら、いい報告が出来そうだ。)
輝明は、3教科目くらいには、
もう帰った後の事を考えられるくらい余裕だった。
綾奈にも、ぜんぜん顔向けが出来る。
けれども・・・人は幸せな時ほど忘れるものだ。
幸せは、時に誰かの不幸を代償にすることもある事を。
その輝明の幸運も、あるいは例外ではなかったのかも知れない・・・
翔矢と綾奈が病院にかけつけた時、
久留美はすでに集中治療室に移され、面会謝絶の状態になっていた。
本当に、医者も想定していなかった急な容態悪化だったという。
何の前触れもなく、突然苦しみだし、そして運ばれたという事だ。
久留美の母親だけが病院に来ていて、父親は今こっちに向かっていると言う。
しかし、輝明は大切な受験の最中なので、
電話もメールも一切連絡をしていなかった。
綾奈は、必死に祈った。
綾奈(神様、どうか久留美を助けてください。助けて・・・
久留美、絶対諦めちゃ駄目だよ!)
しかし、そんな綾奈によぎるのは、
昨日見た悪夢と久留美のあの言葉だった。
「どうしたら13歳で人生満足出来るかな」
全ては、今日の暗示だったのか・・・そう思うと、絶望的にもなりかけた。
けれども綾奈は、気を持ち直し強く祈った。
綾奈(13歳でなんか人生満足出来ない。
満足したいなら生きて! 私と一緒に生きていこう!!)
それから長い時間が過ぎた。
やがて、父親も合流し、何時間も過ぎたが、
集中治療室からは、何度も医師や看護師が慌しく出入りを繰り返すだけで、
何が起きているのかも全く分からない。
ただ、それが続いている限りは、久留美は死んでいないという事。
むしろ、それが終わってしまう事の方が怖かった。
助かればいいけれど、もし、駄目だったら・・・
綾奈は、待つだけの苦しさのあまり、
それが永遠に続いていてくれればいいなんて事さえ思ってしまった。
しかし・・・
いつしか、それは終わっていた。
医師や看護師の出入りがほとんどなくなり、
久留美がいるはずの集中治療室は静かになっていた。
綾奈がふと時計を見ると、午後6時。
一般病棟では夕食の時間。そんな匂いも微かに漂っていた。
そして、久留美の担当医が、ようやく集中治療室を出てきた。
担当医「・・・峠は、越えました。」
その一言を聞いた母親は、泣いて父親に抱きつき、
綾奈は、あまりもの脱力感に腰砕けになったところを翔矢に支えられた。
当分安静が必要ではあるものの、命の危機は去ったとの事だった。
綾奈は、早速、自分の家族に
久留美の無事を連絡しようと携帯電話を取った。
すると、久留美を心配する友達からのメールがいっぱい入っていた。
それは翔矢も同じだった。
それを見た綾奈は、嬉しくて目頭が熱くなった。
綾奈(みんなのおかげだね。やっぱり死んじゃ駄目だよ。)
その時だった。ふと気付いた翔矢が言った。
翔矢「あれ? 誰か兄貴に連絡した?」
父親「そういえばしてないな。母さんは?」
母親「してない。」
翔矢「おいおい。今頃、家に帰っても誰もいないから怒ってるぞ。」
翔矢が言うと、綾奈も一緒になってみんなで大笑いした。
ところが・・・そんな安堵感に満ち溢れた久留美の両親に、
いつも見慣れた看護師さんが、息を切らしながら慌てて駆け寄ってきた。
そして、その看護師が発した言葉に誰もが愕然とした。
翔矢と綾奈はすぐに駆けていた。向かったのは病院の救急治療室。
そこにいたのは輝明だった。
今から少し前、輝明が事故に遭い病院に運ばれてきたのだという。
受験を終えて帰る途中の事だった。
そういえば、久留美を待っていた時、遠くに救急車のサイレンが聞こえていた。
しかし、病院ではそれは毎日のようにある事。
当たり前にある背景音のようなものだ。
そう思って聞き流していたが、それがまさか輝明を運ぶものだったとは。
綾奈は、気が動転しながら、とにかく輝明の無事を祈った。
けれども・・・今度は長くなかった。
輝明は、もう事故現場で心肺停止状態だったという。
救急車の中では蘇生措置が施されたが回復せず、
病院に運ばれた時には、もう絶望的な状態だったそうだ。
つまりは、即死だったらしい・・・
家族に「ご臨終」の言葉が告げられると、
父親は、輝明のベッドにの傍に呆然と立ち尽くし、
母親は、悲鳴を上げるように泣きわめいた。
翔矢は、ベッドに近付く事さえ出来なかった。
綾奈が近付くと、そこには、血まみれの輝明が横たわっていた。
それは、確かに、他の誰でもない輝明だった。
輝明は、目を閉じ、口を半開きにさせたままピクリとも動かない。
綾奈にとって、それは、わけの分からない光景だった。
けれども、ひとつだけ確かな事があった。
それは、そこで輝明が死んでいる事・・・
綾奈「何で・・・」
その言葉を口にした瞬間、綾奈の目には涙が溢れた。
そして・・・綾奈の悲痛な叫び声が病院に響き渡っていた・・・
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