"やいたもん"の文学館

大きな人生の転機がありました・・・

十三時代〜とさみち〜(完結)

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第15話

輝明は、無言の帰宅をした。
輝明は自宅の仏間に安置され、輝明の突然の訃報を聞いた弔問客が次々と訪れた。
綾奈は、そんな輝明の傍らで正座していた。
これより前、綾奈は、
輝明よりも先に帰宅し、シャワーを浴びて着替えを済ませていた。
その時、自分でも信じられないほど綾奈は気丈だった。
家に帰る事も、シャワーを浴びる事も、着替える事も淡々と出来た。
輝明が死んだというのに・・・
自分の薄情さに綾奈は呆れてしまったが、
輝明から離れたら、輝明が死んだ事が信じられなくなってしまったのだ。
何しろ、一歩外に出たら、そこはいつもと変わらない景色なのだ。
輝明が生きていた時のままと全く変わらない。
帰りの道も、帰ってきた家も、何も変わっていない。
そんな景色を見続けていたら、
輝明が死んだ事を忘れそうになるくらい、それが信じられなくなった。
けれども・・・着替えを終えて輝明の家に行ったら、
そこには確かに輝明の亡骸があった。
でも、本当に死んでしまったのか・・・まだ信じられない。
綾奈は、弔問客になど目もくれず、
白布のかかった輝明の顔をじっと見つめ続けた。

やがて弔問客もいなくなり、時計も午後11時を回ろうとしていた。
しかし、綾奈はそこを動かなかった。
誰が綾奈を呼びに来ても、綾奈は、輝明の傍を離れようとはしなかった。
夕飯も食べず、ただ黙って、じっと輝明の顔を見つめ続けた。
そんな綾奈の姿を見て、輝明の母親も気丈さを取り戻していた。

母親「きっと、輝明がさみしがってるのよ。綾奈ちゃんに傍にいて欲しくて。」

ただ、やはり綾奈に何も食べさせないわけにもいかなかった。
綾奈は、昼も食べていない状態なのだ。
すると、輝明の母親は、
大皿にいっぱいのおにぎりを作り、それを翔矢に持たせた。
翔矢ならば・・・母親は、そう思ったのだ。
翔矢が仏間に入った。

翔矢「綾奈、飯食おうぜ。母さんがおにぎり作ってくれたから。」

しかし、綾奈は見向きもしない。
けれども翔矢は、こう言えば綾奈が振り向くような気がした。

翔矢「兄貴も腹減ってるってさ。」

その時、翔矢は、綾奈が微妙に反応したのを見逃さなかった。

翔矢「兄貴だって、晩飯食ってないんだぜ。」
綾奈「・・・そうだね。輝君もおなか空いたって言ってる。」

綾奈が久しぶりに口を開いた。
翔矢は、綾奈の傍らに大皿を置くと、そこからおにぎりをひとつ取って食べた。

翔矢「ほら、綾奈も食えよ。」
綾奈「私は、輝君が食べ終わってからでいいよ・・・」
翔矢「なに付き合い悪い事言ってんだよ。
   みんなで食べようって時に1人だけ食べない奴がいたら白けるだろうが。
   一緒に食おうぜ。兄貴だって、食えって言ってるだろうが。」

綾奈「うん・・・でも、お腹空いてないから・・・」

梨のつぶての綾奈を見て、翔矢は、ちょっとだけキレた。
やれやれと大きくため息をつくと、翔矢は言った。

翔矢「お前、死にたいのか?」
綾奈「・・・・」
翔矢「そういう顔してるよ。何かどうでもいいって感じのさ。
   だけどお前、久留美が危篤の時、どう思ってた?
   生きろって思わなかったか? 久留美に頑張れって思わなかったか?」

綾奈「・・・・」
翔矢「そのお前が何だよ、その顔はよ。他人に生きろって言っておいて、
   兄貴が死んだくらいで、死にそうです、死にたいですって顔は!?」


兄貴が死んだくらい・・・その言葉に、綾奈が声を荒げた。

綾奈「何その言い方? 輝君が死んだんだよ! それくらいって何よ!?」
翔矢「そうだ、兄貴は死んだよ。綾奈が悲しいのだって分かるよ。
   だけどな、俺にとっては兄貴は全てじゃないし、
   綾奈にとっても、兄貴は全てじゃないだろうが!!」

綾奈「ち、違・・・」

綾奈は、言葉に詰まった。その時、頭によぎったものが詰まらせたのだ。
頭によぎったもの・・・それは、翔矢と久留美だった。
翔矢の言うとおりだった。自分にとって輝明は全てではなかった。
それを認めたくない自分もいた。
恋人とは、お互いが相手に全てを依存する関係・・・
そう思っていた綾奈にとって、輝明が全てではないと認める事は、
輝明との恋人関係の否定、つまり嘘だったと認める事になる。
けれども、久留美や翔矢の事を思うと、
輝明を思うのと同じ時くらい胸が熱くなるのだった。
認めたくないのに・・・綾奈は、それを認めざるを得なかった。

翔矢「綾奈には、まだ久留美がいるし・・・俺もいるだろうが・・・」

その言葉が、綾奈の心に強く響いた。

翔矢「あ、そうだ。綾奈が兄貴に渡した弁当箱、すっごく綺麗に食べられてたぜ。
   米粒ひとつ残ってなかった。よほどうまい弁当だったんだろうな。」


綾奈は、穏やかな顔でまた輝明の顔を見ていた。
すると翔矢は、輝明の顔にかかっていた白布を取った。
真っ白な顔で安らかに眠る輝明の顔が見えた。

翔矢「そんな布越しに見てないで、直接見ればいいじゃん。」
綾奈「・・・・」
翔矢「俺だって信じられないさ。兄貴が死んだなんてさ。
   だから泣く事も出来ない。泣いたら兄貴に馬鹿にされそうだからな。
   でも、兄貴は薄情な奴だって怒ってるだろうな。」

綾奈「ねぇ、翔君・・・」
翔矢「ん?」
綾奈「だったら、一緒に泣こうか?」
翔矢「そんな事言われても急には泣けねぇよ・・・」
綾奈「じゃあ、私が泣くから抱きしめてくれる?」

綾奈は、小首を傾げて翔矢に言った。
不意の綾奈の言葉に、翔矢はきょとんとした。

綾奈「輝君の顔見てたら、ちょっと辛くなってきちゃった。」
翔矢「・・・・」
綾奈「ねぇ、いい?」
翔矢「あ、ああ、いいよ・・・」

すると綾奈は、翔矢の胸の中に顔を埋め静かに泣き始めた。
今まで堪えていたものを少しずつ少しずつ開放するように、
綾奈は、長い時間、静かに泣き続けた。
翔矢は、そんな綾奈の体を優しく抱きしめ、それからしばらくの時間が過ぎた・・・

やがて、綾奈の涙も枯れ果てようとしていた。
綾奈は、輝明と同じぬくもりと匂いのする翔矢の胸の中で、
輝明との思い出を懐古していた。
そして綾奈は、あの約束を思い出した。
それは、夏休みに輝明とした約束・・・
綾奈は、心の中で輝明に語りかけていた。

綾奈(約束を果たせば、15歳の人生でも満足出来る?)

そして綾奈は、翔矢の胸の中から離れた。


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