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輝明の死が久留美に伝えられたのは、
輝明の葬儀の後、だいぶ経ってからだった。
久留美の容態が完全に落ち着くまで、心労になるような事を避けたのだ。
そんな久留美に輝明の死を伝えたのは、綾奈と翔矢だった。
久留美は最初、2人がからかっているのだと思って信じなかったが、
真実だと分かると、久留美は、しばらく言葉を失った後、こうつぶやいた。
久留美「私・・・お兄ちゃんに助けられたんだ・・・」
今にして思えば、本当にそうだったのかも知れない。
久留美の命を守るために輝明が・・・
綾奈が、あの夜撮った輝明の死に顔の写真を久留美に見せると、
しばらく写真を見つめた後、少し口元を緩ませた。
久留美「最後の晴れ舞台なのに、最後まで冴えないな・・・」
久留美らしい毒舌だった。
けれどもその時、久留美は、自分の死に顔を想像して輝明の顔に重ねていた。
そして久留美は、翔矢にこう言ったのだった。
久留美「今度は、翔矢が綾奈を守ってあげる番だよ。」
翔矢「いきなりなんだよ、それ・・・」
久留美「翔矢も分かってるんでしょ?」
意味深に笑う久留美に、翔矢は何も言えなかった。
新学期が始まって、綾奈は、翔矢が奈津美と別れた事を知った。
何で・・・と聞きたかったが、綾奈は、それを翔矢に聞けなかった。
その話を聞いた時、綾奈は、なぜかホッとしてしまったからだ。
他人の不幸を喜ぶなんて・・・と思いながら、
正直な気持ちを言えば・・・嬉しかった。
翔矢が自分のところに戻ってきてくれたような気がした。
本当に勝手だけれど、また、昔の幼馴染みに戻れるような気がした。
それは、翔矢も同じだった。
そのために、ケジメをつけたのだから・・・
綾奈は放課後、毎日のように輝明の墓に寄り道をしていた。
輝明の墓は、綾奈が輝明から告白を受けた城山の北側にある
お寺の後ろの山肌の高いところにあった。
そこは、見晴らしのいい場所で、
城山と同じように、綾奈たちが住む町を見下ろす事が出来た。
そして、もちろん久留美の見舞いも欠かさなかった。
時間があれば、綾奈は、出来るだけ久留美のところに通い続けた。
けれども、綾奈だけではなかった。
翔矢も、時間がある時は、そんな綾奈に付き添った。
そんな生活になって1ヶ月。
翔矢と久留美は、14歳の誕生日を迎えた。
今年は、久留美の病室で、久留美、綾奈、翔矢の3人の誕生日だった。
久留美「まさか、14歳になれるとは思わなかった・・・」
翔矢「生きてれば、年を取るのは当たり前。」
久留美「そうだね・・・よく生きられたなぁ、私も。」
翔矢「来年も同じセリフ言えよ。」
久留美「どうかな・・・」
その久留美の声は、少し弱々しかった。
久留美は、あの危篤以来、徐々に覇気を失いつつあった。
回復しているはずなのに、食欲は次第に落ち、
体も以前よりかなり痩せてしまっていた。
本当に終わりが近付いているかも知れない・・・
それは、久留美だけでなく、綾奈や翔矢も思う事があった。
そんな最近の久留美の口癖が・・・
久留美「何か、疲れちゃった・・・」
翔矢「また言ったぁ。それは言っちゃダメって言ってるでしょう。」
久留美「・・・ねぇ、綾奈。もし、私がリタイヤしたら・・・
リタイヤしたら、綾奈は許してくれる?」
綾奈「なに・・・それ・・・」
久留美「本当に疲れちゃった・・・あっちにはお兄ちゃんも待ってるし・・・」
綾奈「ダメ!! 何でそういう事言うの? 今日は誕生日だよ。
なのに、そんな事言うなんて・・・」
綾奈は、次第に涙声になっていた。
そんな綾奈を見て、久留美は優しく微笑んだ。
久留美「だから大好きだよ。綾奈は、私のために本気で泣いてくれる。
世界で一番大好きだよ、綾奈。」
綾奈「私もだよ。だから行かないで・・・」
久留美「私はどこにも行かないよ。もし死んじゃってもずっと綾奈の傍にいる。
だから、綾奈も、ずっと私の傍にいてね。」
綾奈は、久留美に寄り添った。
すると久留美は、そんな綾奈をうながして、久しぶりに口唇でキスをした。
久留美「私と綾奈って、こういう関係なんだ。」
翔矢「・・・あっ、そ・・・」
久留美「翔矢にもキスしてあげようか?」
翔矢「アホか・・・」
ただ翔矢は、その時久留美が見せたおどけた笑顔が、妙に印象に残った。
その誕生会が終わった翌日、綾奈と翔矢が病室で一泊して帰る時、
久留美は、2人を呼び止めて言った。
久留美「綾奈、翔矢の事お願いね。
翔矢も、ちゃんと綾奈を守ってあげてね。」
綾奈「久留美・・・」
2人は、ちゃんと返事をせず、
綾奈が「じゃあね」とだけ言って病室を後にした。
それが、2人が久留美の元気な姿を見る最後だった。
その2日後。容態が急変し、再び危篤状態に陥った久留美は、
綾奈と翔矢が病院に駆けつけるのを待たずに、そのまま息を引き取った。
享年14歳。
他人から見れば、僅か14年の一生だったかも知れない。
けれども久留美は、最後の最後で、満面の笑みを浮かべて旅立った。
それが、14年の人生に対する久留美の答えだった。
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