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年が明ければ、菊は数えで13歳になる。
13歳になった時、菊は、山田筑後守家と山田八郎家の両家の取り決めに従い
38歳も年上の辰業に正室として嫁ぐ事になる。
そして辰業も、このしきたりのために51歳になるまで正室を持たなかった。
世継ぎを設けるために側室が置かれた事はあったが、
子に恵まれる事はなく、その側室も他界した。
だから、菊には過分な期待が持たれた。
1日も早く辰業の世継ぎとなる男子を産んでくれる事を。
菊は、山田の人々の希望だったのである。
菊も、幼い時から、辰業の夫となるよう育てられてきたため、
早く辰業の良き妻になって、世継ぎとなる男子を産みたいと願っていた。
だが、生まれた時から菊を知っている辰業にとっては、
そんな菊の姿が痛々しくて仕方なかった。
また、辰業には、1人の愛する女性がいた。
名を由美という。
由美は、城に仕える女で年は25。
山田出身の者ではなく、辰業が連れて来て城に仕えるようになった。
その外貌は美しく、いつしか辰業の妾となっていたが、
あの美しさなら当然と誰もが納得していた。
だが、それは表向きの話。
妾になっていた事は事実だが、
由美は、ただの女中ではなく、辰業子飼いの忍びだったのである。
それは、辰業と新左以外、誰も知らない事だった。
菊との婚礼の日が近付くほど、
辰業が由美を夜床に呼ぶ日が増えていった。
そして辰業は、やりきれない思いのはけ口を由美に頼り、
その体で、自らの心と体を慰めるのだった。
そんな辰業は、口癖のように由美に言うのだった。
辰業「お前との子が欲しい・・・」
由美は、どこの者とも分からない身分。
妾には出来ても側室には出来ない。
しかし、子供が出来れば、身分に関係なく側室にする事が出来る。
そうすれば、ずっと傍に置いておく事が出来る。
辰業は、それほどに由美を愛していた。
由美「辰業様のお子は、菊様が生んでくださります。」
辰業「やめてくれ。」
由美「なぜです?」
辰業「わしは、生まれた時からの菊を知っている。
しかも、新左の娘じゃ。孫子のようには愛せても、
女としては見れぬのだ。」
由美「美しい姫様ではありませんか。」
辰業「娘のように思う娘を女として抱けと言うのか?
そんなもの、実の娘を女として抱くのとも変わらぬ。
そのような事、出来ようはずがない。
もし、出来たとしても・・・
そんな事が出来るようになってしまう自分が、
自分で恐ろしくなる。」
辰業は、ワナワナと体を震わせ、由美の体を抱きしめた。
その肌のぬくもりで、その心を落ち着かせるのだった。
辰業「お前の事は、菊には話すつもりだ。
だが、今のままでは、お前を側室には出来ない。
だから、子が欲しいのだ。
側室となって、わしの傍にずっといて欲しい。」
由美は、忍びとして城の外に出ている時以外の夜は、
女として、その体で、辰業の心を慰め続けた。
それから間もなく、年が明けた。
天正6年(1578年)、菊は、数えで13歳になり、
正月最初の評定にて、辰業との婚礼の日取りが決められたのである。
※写真
北東方向より山田城を望む。
奥に最も高い主郭があり、そこに辰業が暮らす館があった。
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