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大きな人生の転機がありました・・・

泉物語(完結)

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第5話 皆川広照

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【写真】皆川城下(上)と皆川城址(下)



かつて、正親と同じように下野を追放された武将がいた。
その名は、大田原資清(おおたわら すけきよ)
彼は、那須家臣団の有力者であったが、
同じく重臣の大関氏と福原氏の陰謀により、
永正16年(1519年)、那須の地を追われる事になった。
しかし資清は、那須を離れて後、
遠く越前(現・福井県)の朝倉氏に仕えて那須復帰の機会を虎視眈々と待ち続けた。
そして、23年と言う気の遠くなるような雌伏の年月を経て、
天文11年(1542年)、那須の地に帰り、
大関氏や福原氏を屈服させて那須家臣団に復帰した。
しかも、それだけではなく資清は、
嫡男と次男をそれぞれ大関氏と福原氏に養子に入れ、
両家を乗っ取ってしまったのである。
正親は、この資清に倣おうとしていた。

そんな正親が向かったのは、皆川の地であった。
正親は、その領主である皆川家から仕官の誘いを受けていたのだ。
皆川は、北の塩谷とは反対に下野の南にあり、対北条氏の最前線の土地であった。
北条氏は、関東最大の戦国大名。
北条氏の勢力は、関東南部を中心に6ヶ国に及び、
石高は150万石、正規の兵力は3万8000騎に及んだ。
下野最大の宇都宮氏の勢力が18万石4500騎、
ライバルである那須氏がその約半分であり、
北条氏の勢力が、それを圧倒していた。
その北条氏は、天正10年(1582年)6月、
戦国の世を統一しようとしていた織田信長が謀反に倒れると、
関東統一の野望を果たすべく、下野に対して本格的に侵攻を始めた。
そして、宇都宮氏と北条氏の最前線の地にあったのが、
皆川広照(みながわ ひろてる)が支配する皆川であった。
正親一行は、その皆川氏に300石と言う新規召抱えとしてはかなりの厚遇で迎えられた。
それは、松ヶ嶺城時代から比べれば1/10以下ではあったが、
正親や清四郎の家族や従者が暮らすには充分な禄高であり、
そうした厚遇で迎えられたのも、
岡本家の武勇が下野に知れ渡っていたからこそであった。
岡本氏は、代々の当主が主君のために討死していた。
正親の父正重もまた討死しており、
初代富高も、壮絶な討死を遂げていた。
こうした、主君のために命を惜しまず、
さらに数々の武勲を挙げてきた岡本家は、下野諸将の間では名門として有名だった。
他方、正親が新しく仕えた広照も知勇兼備の将として知られていた。
それは、昔、関東管領の上杉謙信が一目置いたほどで、
のちには、徳川家康の6男忠輝の養育係となるほどだった。
広照もまた、兄と家督相続争いをして家督を継いでいるが、
同じ境遇でも義綱とは雲泥ほどに違う名将だった。

その広照が、ある日、正親に与えた館を訪ねてきた。
正親は突然の来訪に驚き、
家族総出で広照を迎えてもてなした。

広照「急に讃岐殿の顔を見たくなってのう。
   すまぬな、慌しくさせてしまって。」


広照は、36歳とは思えないほど若々しく、
笑うと、まるで10代後半の少年のようにさえ見えた。
しかし広照も、ただ遊びに来たわけではなかった。
広照は、もてなしを快く受ける一方で、
何気なく正親から北下野の情勢を聞き出していた。
正親も、それが分かっていたが、
話せる範囲で言葉を選んで答えていた。
そして、答えながら、改めて常に国事を忘れない広照に感心していた。
そんな中、広照が、ふと清四郎と清九郎の名である親富と正富の由来について聞いてきた。
正親がそれに答えると、正親は、ふとある事を思いつき広照に申し出た。

正親「御館様、お願いがござりまする。
   御館様の名を一字、清四郎に頂けぬでしょうか?」

広照「我が名をか?」
正親「はい。まこと恐れ多い事ですが、
   御館様の知勇にあやかりたく思いまする。」


正親の老練な「おだて」であった。
知勇にあやかりたいと言うのは半分本当だったが、
半分は、広照の覚えを良くするためのゴマすりであった。
ただ、これを姑息と見るのは浅はかな事で、
戦国の世を生き抜くためには、時にこういう事も必要だった。
広照も、正親にそう言われて悪い気はしていなかった。
おだてと言う事は分かっていたが、
正親が言うと嫌味が無く、素直に聞く事が出来た。
広照は、苦笑いしながら答えた。

広照「我が名にそのような徳があるとは思えぬが、
   我が名で良ければ与えようぞ。」

正親「ありがたき幸せ。」

そして清四郎は、広照から一字をもらい、
親富を改め照富(てるとみ)と名乗った。
それから広照は、上機嫌で城へと帰っていった。

それは、嵐の前の穏やかな一時の出来事であった・・・


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