"やいたもん"の文学館

大きな人生の転機がありました・・・

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第16話

綾奈は、翔矢の前で立ち上がると、
翔矢が見ている前にも関わらず、おもむろに服を脱ぎ始めた。

翔矢「な、何やってんだよ!?」

翔矢が、綾奈の腕を抑えて止めようとすると、
綾奈は、真剣な顔で翔矢に言った。

綾奈「お願い、黙って見てて・・・」
翔矢「見ててって・・・輝君との約束だから・・・」

翔矢は、それ以上綾奈を止める事が出来なかった。
そして綾奈は、ゆっくりではあったが躊躇する事なく服を脱ぎ、
やがて一糸まとわぬ姿になった。
翔矢は、思わずその綾奈の裸体に見惚れてしまった。
見ちゃいけないと思いながらも、
金縛りにあったかのように視線を逸らす事も出来なかった。
綾奈の上から下まで露になり、綾奈は、それを隠そうともしなかった。
けれども綾奈は、そんな翔矢の視線をも気にせず、
輝明の足元に立ち、輝明を見つめた。

綾奈(まだ、輝君の気持ちに応えられるよね・・・)

綾奈の心にあったのは、夏休みにした輝明との約束だった。

輝明「もし、俺が高校に合格したら・・・」

そして綾奈は、ゆっくりとひざまずくと、
そのまま輝明の亡骸に添い寝したのである。
それを見た翔矢は愕然となった。

翔矢(これが・・・約束・・・)

もう翔矢には、じっとそれを見守るしか出来なかった。
翔矢には、確かに見えたのだ。
裸になった綾奈を抱きしめる輝明の姿が・・・
そして、翔矢の目頭は熱くなった。
それは、感動でも悲しみでも怒りでもない、
悔しさ・・・いや、敗北の涙であった。
兄貴に負けた・・・翔矢はそう思った。
やっぱり忘れられなかったのだ。綾奈が好きな気持ちは。
他の人を好きになろうとして付き合っても・・・
それでも綾奈が好きだった。
だから翔矢は、もうそれ以上見ていられなかった。
次の瞬間、翔矢は、綾奈を輝明から強引に引き離していた。

翔矢「もうやめろよ!!」

そして翔矢は、生まれたままの姿の綾奈を抱きしめ、その口唇を奪っていた。

翔矢(兄貴は死んだんだ! だから、生きている俺を見てくれ!!)

翔矢は、綾奈から輝明の亡霊が消えるまで、口唇を離そうとはしなかった。
綾奈も、そんな翔矢に抵抗しようともしなかった・・・

しばらくして、口唇を離した翔矢は、綾奈に背中を向けて言った。

翔矢「もう、服着ろよ。風邪引くぞ。」

すると綾奈は、翔矢の言葉に素直に従い服を着た。
翔矢は、綾奈が服を着たのを確認すると、綾奈に向かって言った。

翔矢「なあ、綾奈。兄貴の写真撮ってやれば?」
綾奈「・・・そうだね。輝君に教えてもらったんだもんね。」

綾奈は、輝明の部屋からカメラを持ってきて、
それで輝明の写真を撮った。
そんな綾奈の姿を見つめながら、翔矢はある決意をしていた。


その翌日、輝明の通夜が行われた。
さらに翌日、告別式が行われ、輝明の亡骸は焼かれ、骨になった。
そして綾奈は、自分で持ち続けるため、輝明の骨をひとかけらもらった。

その後、高校の合格発表が行われ、輝明は高校に合格した。
輝明もまた、きちんと約束を果たしたのだった。
そして、中学校では、輝明が出席するはずだった卒業式が行われ、
輝明の友達は、皆、中学校を巣立っていった。
綾奈も、中1時代を終えて進級した。

ただ・・・

進級を前に、翔矢にはケジメをつけなければならない事があった。
それは、奈津美に対するケジメだった。

翔矢「その・・・別れたいんだ・・・」

翔矢は、怒られるかハンパなく愛想を尽かされるかの覚悟だったが、
それを聞いた奈津美は、なぜか笑っていた。

奈津美「やっぱりね。」

それは、翔矢の想定外の反応だった。
奈津美は、さばさばとしていた。

奈津美「分かってたよ。翔矢君には他に好きな人がいるんだなって。」
 翔矢「・・・・」
奈津美「でも、そんな翔矢君に興味があったから・・・」
 翔矢「本当にごめん・・・」
奈津美「謝らなくてもいいよ。結構楽しかったし。
    忘れられないくらい・・・」


そして奈津美は言った。

奈津美「じゃあ、最後にお願い聞いて欲しいんだ。」
 翔矢「・・・何?」
奈津美「これさ、悪いんだけど、私がフッたことにしてくれない?
    私って、結構ええかっこしいだから。」

 翔矢「・・・ああ、分かったよ。」
奈津美「ありがと、翔矢君。」

奈津美は、翔矢から離れると、笑顔で翔矢に言った。

奈津美「じゃあ、これでバイバイね。
    でも、街で会ったら、友達として仲良くしてね。
    じゃあね、翔矢君。」


こうして2人は、こじれる事もなく別れた。
ただ、翔矢は、ものすごく罪深い事をしてしまった気がして、
それからしばらく、気持ちが晴れない日が続いた。
けれども、これも全ては、自分の気持ちに素直になるため・・・


こうして翔矢は、綾奈と一緒に中2時代を迎えたのだった。

第15話

輝明は、無言の帰宅をした。
輝明は自宅の仏間に安置され、輝明の突然の訃報を聞いた弔問客が次々と訪れた。
綾奈は、そんな輝明の傍らで正座していた。
これより前、綾奈は、
輝明よりも先に帰宅し、シャワーを浴びて着替えを済ませていた。
その時、自分でも信じられないほど綾奈は気丈だった。
家に帰る事も、シャワーを浴びる事も、着替える事も淡々と出来た。
輝明が死んだというのに・・・
自分の薄情さに綾奈は呆れてしまったが、
輝明から離れたら、輝明が死んだ事が信じられなくなってしまったのだ。
何しろ、一歩外に出たら、そこはいつもと変わらない景色なのだ。
輝明が生きていた時のままと全く変わらない。
帰りの道も、帰ってきた家も、何も変わっていない。
そんな景色を見続けていたら、
輝明が死んだ事を忘れそうになるくらい、それが信じられなくなった。
けれども・・・着替えを終えて輝明の家に行ったら、
そこには確かに輝明の亡骸があった。
でも、本当に死んでしまったのか・・・まだ信じられない。
綾奈は、弔問客になど目もくれず、
白布のかかった輝明の顔をじっと見つめ続けた。

やがて弔問客もいなくなり、時計も午後11時を回ろうとしていた。
しかし、綾奈はそこを動かなかった。
誰が綾奈を呼びに来ても、綾奈は、輝明の傍を離れようとはしなかった。
夕飯も食べず、ただ黙って、じっと輝明の顔を見つめ続けた。
そんな綾奈の姿を見て、輝明の母親も気丈さを取り戻していた。

母親「きっと、輝明がさみしがってるのよ。綾奈ちゃんに傍にいて欲しくて。」

ただ、やはり綾奈に何も食べさせないわけにもいかなかった。
綾奈は、昼も食べていない状態なのだ。
すると、輝明の母親は、
大皿にいっぱいのおにぎりを作り、それを翔矢に持たせた。
翔矢ならば・・・母親は、そう思ったのだ。
翔矢が仏間に入った。

翔矢「綾奈、飯食おうぜ。母さんがおにぎり作ってくれたから。」

しかし、綾奈は見向きもしない。
けれども翔矢は、こう言えば綾奈が振り向くような気がした。

翔矢「兄貴も腹減ってるってさ。」

その時、翔矢は、綾奈が微妙に反応したのを見逃さなかった。

翔矢「兄貴だって、晩飯食ってないんだぜ。」
綾奈「・・・そうだね。輝君もおなか空いたって言ってる。」

綾奈が久しぶりに口を開いた。
翔矢は、綾奈の傍らに大皿を置くと、そこからおにぎりをひとつ取って食べた。

翔矢「ほら、綾奈も食えよ。」
綾奈「私は、輝君が食べ終わってからでいいよ・・・」
翔矢「なに付き合い悪い事言ってんだよ。
   みんなで食べようって時に1人だけ食べない奴がいたら白けるだろうが。
   一緒に食おうぜ。兄貴だって、食えって言ってるだろうが。」

綾奈「うん・・・でも、お腹空いてないから・・・」

梨のつぶての綾奈を見て、翔矢は、ちょっとだけキレた。
やれやれと大きくため息をつくと、翔矢は言った。

翔矢「お前、死にたいのか?」
綾奈「・・・・」
翔矢「そういう顔してるよ。何かどうでもいいって感じのさ。
   だけどお前、久留美が危篤の時、どう思ってた?
   生きろって思わなかったか? 久留美に頑張れって思わなかったか?」

綾奈「・・・・」
翔矢「そのお前が何だよ、その顔はよ。他人に生きろって言っておいて、
   兄貴が死んだくらいで、死にそうです、死にたいですって顔は!?」


兄貴が死んだくらい・・・その言葉に、綾奈が声を荒げた。

綾奈「何その言い方? 輝君が死んだんだよ! それくらいって何よ!?」
翔矢「そうだ、兄貴は死んだよ。綾奈が悲しいのだって分かるよ。
   だけどな、俺にとっては兄貴は全てじゃないし、
   綾奈にとっても、兄貴は全てじゃないだろうが!!」

綾奈「ち、違・・・」

綾奈は、言葉に詰まった。その時、頭によぎったものが詰まらせたのだ。
頭によぎったもの・・・それは、翔矢と久留美だった。
翔矢の言うとおりだった。自分にとって輝明は全てではなかった。
それを認めたくない自分もいた。
恋人とは、お互いが相手に全てを依存する関係・・・
そう思っていた綾奈にとって、輝明が全てではないと認める事は、
輝明との恋人関係の否定、つまり嘘だったと認める事になる。
けれども、久留美や翔矢の事を思うと、
輝明を思うのと同じ時くらい胸が熱くなるのだった。
認めたくないのに・・・綾奈は、それを認めざるを得なかった。

翔矢「綾奈には、まだ久留美がいるし・・・俺もいるだろうが・・・」

その言葉が、綾奈の心に強く響いた。

翔矢「あ、そうだ。綾奈が兄貴に渡した弁当箱、すっごく綺麗に食べられてたぜ。
   米粒ひとつ残ってなかった。よほどうまい弁当だったんだろうな。」


綾奈は、穏やかな顔でまた輝明の顔を見ていた。
すると翔矢は、輝明の顔にかかっていた白布を取った。
真っ白な顔で安らかに眠る輝明の顔が見えた。

翔矢「そんな布越しに見てないで、直接見ればいいじゃん。」
綾奈「・・・・」
翔矢「俺だって信じられないさ。兄貴が死んだなんてさ。
   だから泣く事も出来ない。泣いたら兄貴に馬鹿にされそうだからな。
   でも、兄貴は薄情な奴だって怒ってるだろうな。」

綾奈「ねぇ、翔君・・・」
翔矢「ん?」
綾奈「だったら、一緒に泣こうか?」
翔矢「そんな事言われても急には泣けねぇよ・・・」
綾奈「じゃあ、私が泣くから抱きしめてくれる?」

綾奈は、小首を傾げて翔矢に言った。
不意の綾奈の言葉に、翔矢はきょとんとした。

綾奈「輝君の顔見てたら、ちょっと辛くなってきちゃった。」
翔矢「・・・・」
綾奈「ねぇ、いい?」
翔矢「あ、ああ、いいよ・・・」

すると綾奈は、翔矢の胸の中に顔を埋め静かに泣き始めた。
今まで堪えていたものを少しずつ少しずつ開放するように、
綾奈は、長い時間、静かに泣き続けた。
翔矢は、そんな綾奈の体を優しく抱きしめ、それからしばらくの時間が過ぎた・・・

やがて、綾奈の涙も枯れ果てようとしていた。
綾奈は、輝明と同じぬくもりと匂いのする翔矢の胸の中で、
輝明との思い出を懐古していた。
そして綾奈は、あの約束を思い出した。
それは、夏休みに輝明とした約束・・・
綾奈は、心の中で輝明に語りかけていた。

綾奈(約束を果たせば、15歳の人生でも満足出来る?)

そして綾奈は、翔矢の胸の中から離れた。

第14話

今日の輝明は絶好調だった。
試験勉強でのヤマがドンピシャで的中し、
これまで経験した事が無いくらいにスラスラと問題が解けていた。

輝明(俺ってこんなに天才だったっけ?)

今日の輝明は、図に乗ってもこけなかった。
順調なのが怖くなるくらい、全てがうまく行っていたのだ。

輝明(これなら、いい報告が出来そうだ。)

輝明は、3教科目くらいには、
もう帰った後の事を考えられるくらい余裕だった。
綾奈にも、ぜんぜん顔向けが出来る。
けれども・・・人は幸せな時ほど忘れるものだ。
幸せは、時に誰かの不幸を代償にすることもある事を。
その輝明の幸運も、あるいは例外ではなかったのかも知れない・・・


翔矢と綾奈が病院にかけつけた時、
久留美はすでに集中治療室に移され、面会謝絶の状態になっていた。
本当に、医者も想定していなかった急な容態悪化だったという。
何の前触れもなく、突然苦しみだし、そして運ばれたという事だ。
久留美の母親だけが病院に来ていて、父親は今こっちに向かっていると言う。
しかし、輝明は大切な受験の最中なので、
電話もメールも一切連絡をしていなかった。
綾奈は、必死に祈った。

綾奈(神様、どうか久留美を助けてください。助けて・・・
  久留美、絶対諦めちゃ駄目だよ!)


しかし、そんな綾奈によぎるのは、
昨日見た悪夢と久留美のあの言葉だった。

「どうしたら13歳で人生満足出来るかな」

全ては、今日の暗示だったのか・・・そう思うと、絶望的にもなりかけた。
けれども綾奈は、気を持ち直し強く祈った。

綾奈(13歳でなんか人生満足出来ない。
  満足したいなら生きて! 私と一緒に生きていこう!!)


それから長い時間が過ぎた。
やがて、父親も合流し、何時間も過ぎたが、
集中治療室からは、何度も医師や看護師が慌しく出入りを繰り返すだけで、
何が起きているのかも全く分からない。
ただ、それが続いている限りは、久留美は死んでいないという事。
むしろ、それが終わってしまう事の方が怖かった。
助かればいいけれど、もし、駄目だったら・・・
綾奈は、待つだけの苦しさのあまり、
それが永遠に続いていてくれればいいなんて事さえ思ってしまった。

しかし・・・

いつしか、それは終わっていた。
医師や看護師の出入りがほとんどなくなり、
久留美がいるはずの集中治療室は静かになっていた。
綾奈がふと時計を見ると、午後6時。
一般病棟では夕食の時間。そんな匂いも微かに漂っていた。
そして、久留美の担当医が、ようやく集中治療室を出てきた。

担当医「・・・峠は、越えました。」

その一言を聞いた母親は、泣いて父親に抱きつき、
綾奈は、あまりもの脱力感に腰砕けになったところを翔矢に支えられた。
当分安静が必要ではあるものの、命の危機は去ったとの事だった。
綾奈は、早速、自分の家族に
久留美の無事を連絡しようと携帯電話を取った。
すると、久留美を心配する友達からのメールがいっぱい入っていた。
それは翔矢も同じだった。
それを見た綾奈は、嬉しくて目頭が熱くなった。

綾奈(みんなのおかげだね。やっぱり死んじゃ駄目だよ。)

その時だった。ふと気付いた翔矢が言った。

翔矢「あれ? 誰か兄貴に連絡した?」
父親「そういえばしてないな。母さんは?」
母親「してない。」
翔矢「おいおい。今頃、家に帰っても誰もいないから怒ってるぞ。」

翔矢が言うと、綾奈も一緒になってみんなで大笑いした。
ところが・・・そんな安堵感に満ち溢れた久留美の両親に、
いつも見慣れた看護師さんが、息を切らしながら慌てて駆け寄ってきた。
そして、その看護師が発した言葉に誰もが愕然とした。

翔矢と綾奈はすぐに駆けていた。向かったのは病院の救急治療室。
そこにいたのは輝明だった。
今から少し前、輝明が事故に遭い病院に運ばれてきたのだという。
受験を終えて帰る途中の事だった。
そういえば、久留美を待っていた時、遠くに救急車のサイレンが聞こえていた。
しかし、病院ではそれは毎日のようにある事。
当たり前にある背景音のようなものだ。
そう思って聞き流していたが、それがまさか輝明を運ぶものだったとは。
綾奈は、気が動転しながら、とにかく輝明の無事を祈った。

けれども・・・今度は長くなかった。

輝明は、もう事故現場で心肺停止状態だったという。
救急車の中では蘇生措置が施されたが回復せず、
病院に運ばれた時には、もう絶望的な状態だったそうだ。
つまりは、即死だったらしい・・・
家族に「ご臨終」の言葉が告げられると、
父親は、輝明のベッドにの傍に呆然と立ち尽くし、
母親は、悲鳴を上げるように泣きわめいた。
翔矢は、ベッドに近付く事さえ出来なかった。
綾奈が近付くと、そこには、血まみれの輝明が横たわっていた。
それは、確かに、他の誰でもない輝明だった。
輝明は、目を閉じ、口を半開きにさせたままピクリとも動かない。
綾奈にとって、それは、わけの分からない光景だった。
けれども、ひとつだけ確かな事があった。
それは、そこで輝明が死んでいる事・・・

綾奈「何で・・・」

その言葉を口にした瞬間、綾奈の目には涙が溢れた。
そして・・・綾奈の悲痛な叫び声が病院に響き渡っていた・・・

第13話

年が明けて元旦。
新しい年を迎えて、綾奈は、輝明と一緒に初詣に出掛けた。
晴れ着の振袖を着て髪も結ってもらった綾奈。
もちろん、意識するのは輝明。
どんな反応をするか、綾奈は不安だったが、
綾奈の晴れ姿を見た輝明は、照れ笑いして俯いてしまった。
まぶしくて直視出来なかったと言った方がいい。
輝明にしてみれば、純粋にど真ん中であった。

綾奈「ねぇ、何とか言ってよ。」

綾奈が催促すると、輝明はテレながら答えた。

輝明「ものすごくかわいいよ。」

でも、輝明は笑っていた。
綾奈は、からかわれているのだと思った。

綾奈「馬子にも衣装とか思ってるでしょ?」
輝明「そんな事ないよ。だって、俺以前から言ってたじゃん。
   綾奈は和装が似合うって。」

綾奈「本当に?」
輝明「ホントだって。」
綾奈「ありがと。」

そんな事があってから、地元で一番大きな神社にやってくると、
輝明と綾奈は、二度目の初詣の参拝を済ませた。
もちろん、一度目は家族とのものだ。

輝明「何お願いした?」
綾奈「輝君の合格祈願に久留美の全快祈願。それと家族の健康。」
輝明「自分の事は?」
綾奈「あ、忘れてた・・・」
輝明「健気な奴。」
綾奈「でも、輝君は、私の事お願いしてくれたんでしょ?」
輝明「まぁな。」
綾奈「何お願いしてくれたの?」
輝明「言ったら御利益が無くなるから言わね。」
綾奈「ずるい、私には言わせたくせに!」

それから2人はおみくじを引いた。
これは今日初めてだ。
輝明は中吉、綾奈は大吉だった。悪くない。
輝明は、一番気になる学業の欄を見て笑った。

輝明「努力は報われます・・・だってさ。激しく無難だな。」
綾奈「微妙だね・・・」

そして綾奈は、久留美の分も引いておこうと、もう1枚おみくじを引いた。
しかし、そのおみくじを見て綾奈はゾッとした。
それは、凶だった。
すぐに健康面のところを見ると、
「大病を患う虞(わずらうおそれ)あり」と書かれていた。

綾奈(本人じゃないのに引いたから・・・
  これは久留美じゃなくて、私に対する天罰だよね・・・)


綾奈は、そう思う事にして、よぎった不安をかき消した。
それから綾奈は、輝明のために合格祈願・学業成就の御守り、 
久留美のために病気平癒・無病息災の御守りを買った。
そして2人は、久留美の病室を訪ねた。
けれども、綾奈は、久留美に対して後ろめたくて
あんまり久留美の顔を見れなかった。
あの凶のおみくじが、ずっと頭を離れなかったのだ。
余計な事をしてしまった・・・綾奈は、本当に後悔していた。


正月が終わると、輝明はいよいよ受験本番である。
まずは、私立の受験。しかしそれは滑り止め。
本命は、地元の県立高校。
そして輝明は、滑り止めに私立を2校受けたが、
どちらも合格し、とりあえず中学浪人は避けられた。
また、久留美も、大きな回復を見せる事こそ無かったが、
容態が悪化する事もなく、平穏に過ごす事が出来ていた。
綾奈も、あの凶のおみくじの事を忘れられるようになっていた。

ところが・・・

それは、輝明の県立高校受験が、いよいよ明日という日だった。
輝明にお弁当を作る約束をしていた綾奈は、
早起きするためにその夜は、かなり早めにベッドに入った。
緊張する事もなくすぐに眠れたが、嫌な夢を見てしまったのである。
それは、久留美が、綾奈にお別れをいう夢だった。

久留美「綾奈、今までありがとう。私、神様になるから・・・」
 綾奈「な、何言ってんの?」
久留美「今度は、私が綾奈を守ってあげるね。」

久留美がどんどん遠のいていく。
手を伸ばして呼びかけても届かない。
久留美は笑顔のまま・・・

綾奈は、目覚まし時計よりも早く目を覚ましてしまった。
背中には、汗をびっしょりかいていた。

綾奈(まさか・・・)

嫌な予感をひきずりながらも、
綾奈は、少し早いけれども起きて、輝明の弁当の支度をした。
約束の時間になると、綾奈は、弁当を輝明の家に届けた。

綾奈「試験、頑張ってね。」
輝明「ああ、まかせとけって。」

すると輝明は、周囲に誰もいないことを確認すると、
玄関で綾奈を抱き寄せ、その口唇にキスをした。

綾奈「ちょ・・・」
輝明「おしっ、気合入った!」
綾奈「もう!」

そして輝明は、綾奈と母親に見送られて、受験へと出掛けていった。
その日の天気は快晴。空気は2月だけあって冷たかったけれど澄んでいた。


輝明を見送ってから、綾奈も登校し、いつものように授業を受けていた。
ところが・・・それは2時限目が終わった中休みの時だった。
翔矢は、校内放送で職員室に呼び出され、告げられたのである。

担任「妹さんが危篤らしい。」

翔矢は、すぐに綾奈の下に走っていた。
そして、綾奈と一緒にすぐさま病院に向かったのだった。

第12話

クリスマスを前にして、輝明と綾奈の交際がお互いの両親の知るところになった。
きっかけは綾奈。ある日、母親にそれとなく聞かれ、白状するところになった。
白状すると言っても、別に隠していたわけではなかったが・・・
親たちも、うすうすは感付いていたようだ。
あとで聞いたら、輝明も親に聞かれていたが、
輝明は、その時否定したそうだ。
それを聞いて、綾奈は口が軽かった自分を責めたが、
親たちは、交際に反対していたわけではなかった。
むしろ、歓迎していた。
お互いの家の両親が昔から仲が良かった事もあるだろう。
輝明も綾奈も、互いの両親から信頼され、
「うちの子お願いね」みたいな感じで、交際は、親公認のものとなった。
輝明も綾奈も、全く気にして無かった呪縛だったが、
一応存在したそれが解き放たれた事で、何か自由になれた気がして嬉しかったが、
それ以上に、親に知られている事が気恥ずかしくて仕方なかった。


そして迎えたイブの夜。
輝明と綾奈は、久留美の病室にいた。ここで3人で明かす事にしていた。
それは、交際が親公認になる前から綾奈が決めていた事だ。
ただ、綾奈はこの日、少し疲れ気味だった。
時間も、まだ9時。
病院では消灯の時間でも、盛り上がるのはこれからという時にも関わらず、
久留美の隣でベッドに横になっていた綾奈は、眠りこんでしまっていた。

久留美「あれ、綾奈もう寝ちゃってる。」
 輝明「最近、いろいろ忙しかったみたいだからな。」
久留美「お兄ちゃんがわがまま言ったんじゃないの?」
 輝明「・・・まあ、否定はしない。」

綾奈の愛らしい寝顔を見つめて、輝明は、ちょっとした感謝を感じていた。
綾奈は最近、輝明の弁当を作ってくれたり、
輝明がデートが出来る日時にあわせるようにして、
自分の都合をつけるようにしてくれていた。
結構大変だったろう。
そう思うと、輝明は、綾奈が無性にいとおしくなるのだった。

久留美「でも、私も人の事言えないけどね。
    綾奈には苦労かけっぱなしだし・・・」


身の回りの事だけでなく心の事も・・・

 輝明「まあ、寝かせてやれよ。イブだから惜しい気もするけど。」
久留美「本当は、私の事、邪魔だと思ってるんでしょう?」
 輝明「別に・・・」
久留美「でも、本当に邪魔してるんだよ。」
 輝明「ん?」
久留美「綾奈は、お兄ちゃんだけでなく、私の恋人でもあるんだから。」
 輝明「なにそれ?」
久留美「デートしたりキスしたり。」
 輝明「キスって?」
久留美「もちろん、口と口。」
 輝明「お前ら、そんな事やってんの?」
久留美「悪い?」
 輝明「・・・・」

良い悪いの問題じゃない。
輝明は、綾奈と久留美がキスをしていたと知っても、
ちょっとは驚いたが、別に構わないとは思っていた。
けれども・・・よく考えれば、久留美と兄妹で間接キスしている事になる。
それを思うと・・・何とも複雑な思いだった。

輝明(それは問題だよな・・・でも、俺は別に構わないけど・・・
  いや、構わないって事は無いけど、でも、久留美も嫌だろう・・・ 
  でも、ぜんぜん嫌じゃないみたいだし・・・)


輝明は、自分と間接キスしている事に対する気持ちを久留美に聞きたかったが、
聞くと、なんか変な感じになる気がして聞けなかった。
「そんな変な事意識しないでよ」と返されるのも格好悪かった。

久留美「それにしても、お兄ちゃんとこんな風に話すの久しぶりだね。」
 輝明「そういえば、サシで話すのは、しばらく無かったな。」
久留美「しかも、イブの夜。イブの夜に兄妹仲良くって・・・
    押さない子供ならともかく、自分らが中学生と思うと、軽く惨めだね。」


久留美はそう言って笑った。
でも、間に綾奈がいる。
綾奈が、みんなを幸せな気持ちにしてくれる。

久留美(綾奈の家の隣に生まれてよかった・・・)

綾奈の寝顔を見つめて、久留美は心の底からそう思った。
こうして、兄と親しく話せるのも綾奈のおかげ。
でも・・・そんな幸せな時でも考えてしまう自分の命の期限。
こうして輝明と話せるのも、今夜が最期になるかも知れない。
そう思うと、少し切なくなった。

久留美(でも、思い出はあの世に持っていけるよね。)

けれども、生きていなければ言えない事もある。
そう思った時、久留美は、どうしても輝明に言っておきたい事があった。

久留美「お兄ちゃん、綾奈の事だけど・・・」
 輝明「なんだよ?」
久留美「絶対にお嫁さんにしてあげてね。」
 輝明「え? そ、そんなのまだ考えてねぇよ。」
久留美「じゃあ、考えて。綾奈の事、絶対大切にするって約束して。」

久留美の目は真剣だった。
その目を見た輝明も真剣になった。

久留美「私、綾奈の家族になりたい。そしたら、ずっと綾奈の傍にいられる。
    でも、私のためじゃなくて・・・
    お兄ちゃん、綾奈が好きだから恋人になったんでしょう?
    だから、絶対に大切にして、お嫁さんにしてあげて。
    他の人を好きにならないで・・・」


輝明は、綾奈の寝顔を見つめた。
結婚・・・それは輝明も考えてはいた事だった。
まだ早いと思っても、このままずっと綾奈を好きでいて、
そのまま結婚出来たらいい・・・そんな事を思ったりする事もある。
それくらい綾奈か好きだ。それは間違いなかった。
だからそれは、久留美に言われるまでもなかった。

輝明「ああ、分かったよ・・・」

輝明は、ぼそっとそう返した。

久留美「私は、死んでも綾奈の傍にいるからね。」
 輝明「幽霊じゃ見えないから、
    文句があるなら、生きてて言え。」


それを聞いた久留美は、クスっと笑って言った。

久留美「じゃあ、お言葉に甘えて、文句をもうひとつ!」
 輝明「えぇ〜〜〜?」

久留美は、久しぶりに兄をおもちゃにして遊ぶのだった。
イブの夜は、そんな感じで過ぎていった。

まさかこの時に、すでに運命の時がすぐ間近まで迫っていようとは、誰も知る由もなく・・・


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