"やいたもん"の文学館

大きな人生の転機がありました・・・

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第11話

11月18日、久留美は、久しぶりに病院の外に出た。
浦島太郎というのはこういう事を言うのだろう。
親の車で、久しぶりに通る病院から家までの帰り道、
あったはずの家や店が取り壊されていたり、
新しい家や店が建っていたり。
それは、最近流行のアハ体験で景色が変わったくらいのもので、
浦島太郎というには大袈裟だったかも知れないが、
この街でずっと暮らしてきた久留美にとっては、
自分のいないところで変わってしまった故郷の景色を見るのは初めてで、
ちょっとした衝撃と戸惑いを感じた。
自分がいなくても、世界は変わっていく・・・
そんなさみしさも感じた。
ただ、街からはずれ、家に近付くほど、
何も変わっていない以前のままの景色が残っていた。
そして自宅・・・病院からは、5〜6kmの距離。
この車で10分くらいの距離を帰ってくるのに、
まさか数ヶ月もかかるとは思わなかった。
しかも車椅子。歩けないわけではなかったが、
転んだりすると危ないとの事で、不本意ながら乗せられた。
久留美は、玄関の前で、自分の家を見上げた。

久留美(懐かしい。自分の家なのにね。
   私、まだ13歳だよ・・・そんな事思うの、もっと先の予定だったのに・・・)
 

そんな久留美を綾奈が大声で迎えた。

綾奈「お帰り久留美!!」

今日は、綾奈の誕生日。
それにあわせて久留美は外泊許可を取ったわけで、
今日の主役は綾奈なわけだが、
綾奈にしてみれば、そんな事どうでも良かった。
自分の誕生日なんかより、久留美の一時帰宅の方が何万倍も嬉しかった。
綾奈にしてみれば、今日の主役は久留美だった。

その夜、綾奈の家で、綾奈の家族だけでなく、
久留美の家族も全員が集まって、綾奈の誕生パーティーが行われた。
しかし、主役のはずの綾奈は、
自分の誕生会も輝明もそっちのけで久留美に付きっきり。
パーティーは、結局、形は誕生会、
中身は、久留美の一時帰宅を祝うものとなった。


楽しい時間はあっと言う間に過ぎて、
夜も遅くなると、綾奈は、
久留美と一緒に久しぶりに久留美のベッドで寝る事にした。
久留美は、これに翔矢も誘ったが、翔矢はこれを断った。
昔は、3人で寝る事など、当たり前にしていた事なのに・・・

久留美「あいつ、彼女に義理立てしてるんだよ。」

まあ、いろいろ複雑な事情がある事は確かだ。
そして2人は、部屋の明かりを消してベッドに入った。

久留美「自分のベッドなのに懐かしい・・・
    もしかしたら、もう帰って来れないと思った事もあったから、
    ちょっと感動しちゃってるよ・・・」

 綾奈「私もだよ。でも、私は帰ってくると思ってたよ。
    だって、久留美は、土壇場でいつも強かったもん。」

久留美「でも、良かった。綾奈が13歳になるのを見届けられて。
    自分が13歳まで生きられた事も不思議だったけど、
    とりあえず、今日まで生きてこれて感謝してるよ。」

 綾奈「駄目だよ、そんなんじゃ。これから長い人生が待ってるんだから。」
久留美「本当に・・・待ってるかな・・・」
 綾奈「・・・・」
久留美「私は、今日を生きるので精一杯の身分だから、
    先の人生なんて今は考えられない・・・」


こういう時、久留美を叱ってでも、励ますべきだったかも知れない。
けれども綾奈は、それをしなかった。
久留美の苦しみの全てを分かっているわけではないが、
闘病生活は間近で見てきた。
だからこそ知っていた。
ひたすら励ましたって、時に軽々しくなってしまったり、
時に苦しみに耐えろと言うばかりの無理強いになってしまって、
返って久留美を苦しめる事がある事も。
弱音を吐きたい時は、思いっきり吐かせて、
それを聞いてあげた方が良い時もある。
ただ、空気が重くなって、それを感じた久留美が言った。

久留美「ごめんね、変な空気にしちゃって。」
 綾奈「ううん、大丈夫だよ・・・」
久留美「でもさ・・・綾奈だから言っちゃうけど、
    最近考えるんだ・・・どうしたら13年の人生で満足出来るかなって。」

 綾奈「・・・どういう意味?」
久留美「私、いつ死んじゃうか分からないから・・・
    どうせ死んじゃうなら、人生に満足して死にたいと思って。
    でも、どうしたら13歳で人生満足出来るかなって・・・」

 綾奈「13歳でなんか・・・人生満足出来ないよ・・・」
久留美「分かってる・・・でも、無理にでも自分を納得させて死にたい。
    死ぬ時泣くのは嫌だから・・・」

 綾奈「ねぇ、久留美・・・もうそんな事言わないでよ・・・」

そう言って、久留美を抱きしめた綾奈は泣き出してしまった。
その瞬間、久留美の目頭も熱くなった。
親友の綾奈にこんな事言っている自分が情けなくて悔しくて・・・
今更ながら、自分の運命を久留美は恨んだ。
だけど、これが現実・・・
久留美は、意を決して言った。

久留美「ねぇ、綾奈。私、綾奈にお願いがあるの・・・」

涙を拭きながら綾奈が「なに?」と聞き返すと、
久留美は、とんでもない事を口にした。

久留美「私とセックスしよ・・・」

綾奈は絶句した。
そして、その言葉を聞いた瞬間、
綾奈の脳裏に、輝明と見たあのビデオの光景がよみがえった。

 綾奈「な、何言ってんの?」
久留美「私がもし生きてたら、もうすぐ経験する事でしょう?
    とりあえず、綾奈に恋人感覚とキスは教えてもらったから、
    あとは、セックスすれば、13歳でも人生満足出来るかなって。」

 綾奈「わ、私たち、女の子同士だよ!?」
久留美「あれ? 綾奈は、やり方知ってるんだ?」
 綾奈「え?」
久留美「誰に教えてもらったのかな? お兄ちゃんかな?」

図星だけに綾奈は何も言えなかった。
久留美は、そんな綾奈を見ていやらしく笑っていたが、
でも、内心は、綾奈が本気でうらやましかった。

久留美(私だって、生きていたい・・・
   でも、死んじゃっても後悔したくない。)


そして久留美は言った。

久留美「ごめんね綾奈。でも、綾奈の裸で、私の裸を抱きしめてくれるだけでいいんだ。
    自分の裸を、好きな人の裸で抱きしめられたら、
    どんなに気持ちいいのかなって、それが知りたいだけだから・・・」

 綾奈「・・・・」
久留美「セックスなんて言っておどかして悪かったけど・・・
    本当にそれだけだから。」


綾奈は、少し押し黙った後、こう言った。

 綾奈「じゃあ、ひとつだけ約束して。」
久留美「なに?」
 綾奈「生きるって約束して。死ぬ前の思い出にするつもりでこういう事したくない。
    私は、久留美に生きて欲しいし、そう信じてるから。
    だから、生きるために・・・久留美が頑張れるなら、する。
    だから、必ず生きるって約束して!」

久留美「・・・うん、分かった。約束する。」

すると綾奈は、ベッドから出て、着ていたパジャマを脱ぎだした。
それを見た久留美も、ベッドの上で上半身だけ起こして、
着ているパジャマを脱ぎだした。
そして、お互い一糸まとわぬ姿になると、
綾奈は、おもむろにベッドに戻り、
布団の中、自分の裸で、久留美の裸を優しく抱きしめた。

久留美「綾奈の肌気持ちいい・・・」
 綾奈「久留美、大丈夫? 寒くない?」
久留美「うん、ぜんぜん。綾奈があっためてくれるし。」
 綾奈「そう。でも、寒かったら言わないと駄目だよ。
    体に障るんだから。」

久留美「綾奈のおっぱい、結構おっきいね。」
 綾奈「もう、そういう事言うなら、もうしないよ。」

そう言いながらも、綾奈は、いとおしくいとおしく
久留美の闘病で傷つき、やせ細った体を抱きしめた。
そして願った。
私の命の半分を久留美にあげてください・・・と。

久留美「私、今日のこの感触、ずっと忘れないからね・・・」

そして2人は、しばらくそのままお互いの体を温めあったのだった。

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