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西暦202▲年 5月中旬
私が担当するK谷村に通ずる街道の途中に、数日前からケモノの渡りがあって、
そのケモノを断定するために1課と鑑識課が調査するから、警備をやれと命じられた。
K谷街道へ行ってみると、既に1課と鑑識課が到着して、
シシだシカだと議論を交わしている。
ここ数日いい天気で足跡は鮮明でないので、判別が難しいのだろう....
この世界に入ってまだ2ヶ月も経たない私には、もちろんさっぱり判らないが....
警備を始めていると、山側とは道路を挟んだ反対の川側から、
白衣をまとった女性が上がってきた。
その横顔には見覚えがある。
所轄にいた頃、一緒に仕事をしたこともある。
京都府警所属の彼女が一時期、警視庁に出向していた時のことだ。
沢口靖子似のその顔は、若い頃は大変美人だったが、
歳をとっても、色気はますます増して、まさに 『美熟女』
やや...こんなド田舎にも、科捜研(科学捜査研究所)がやってくるんだ....
たしか、マリコと呼ばれていたような....
しかし.....いい女だなぁ.....
出来れば今夜、居酒屋で、一緒に一杯やりたいなあ....
などと妄想していると、彼女と目が合い、笑顔でこちらへやってきて、
あら、やまさん、お久しぶり.....
などと声を掛けてきた。
その瞬間、1課のヤツらの嫉妬の目が、私を鋭く突き刺した事はいうまでもない。
彼女は今得たデータをノートパソコンに入力しながら、
足跡はシカの可能性が高いという。
1課と鑑識課は、いまだシシだシカだとやっている....
鑑識もついには石膏を取り出して、足の型に流し始めた。
そんなところへヨボヨボで腰の曲がったじいさんが、自転車を押しながら、
っていうか、自転車につかまりながらやってきた。
やあ、1課のダンナ達....なにやってんの?
1課のひとりが振り返り
やあ、六サン、元気?
この渡りがシシかシカかが判らなくて.....
などとじいさんにつぶやいた。
六サンと呼ばれるじいさんはすかさず、
シカやで......
と答えると、一課が
ありがとさん.....
そしてみんなに振り返り
おーい.....シカだってさー
と大声でさけんだ。
1課のヤツらも鑑識も、ワイワイガヤガヤやったあげく、
鑑識を止めて仕舞いかけた。
マリコは1課にじいさんの身元の確認をしていた。
なんでも地元の古猟師だったとのこと。
マリコは走って彼を追いかけたので、私も反射的に彼女を追いかけた。
じいさんに追いついたマリコは挨拶もせずいきなり、
どうしてシカだと判ったの....?
パッと見ただけで、足跡も見ていないし、....
急に話しかけられてビックリした六サンも、
相手が美熟女だと判ってすぐに笑顔になって、
シカだと教えられたから....
と、ボソッと言った。
マリコは意味がわからず更に問いただし、
どうすれば簡単に識別出来るのか教えを請うたが、
六サンは
先輩について何十年も一緒に歩いて覚えたんだ、
そんなに簡単に説明はできねえ....
と、ボソッと言ったきり、再び自転車を押して歩いていった。
マリコがシカ道まで戻って1課のヤツらに、何も教えてもらえなかったとつぶやくと、
1課のヤツらは大声で笑い出し、
六さんの言っていることを聞いても、ダメだ。
普通の人間じゃ、まったく理解出来ないから.....
オレ達だって、さっぱりわからねえ.....
などという。
しかし私は知っている。
マリコというオンナはハードルが高ければ高いほど、燃えるオンナだということを...
猟師小屋へ帰る車中。
何とかマリコを居酒屋へ誘えないか、頭フル回転で考えていたが、
猟師小屋へ帰ってみると、彼女は居なかった。
鑑識に彼女の行方を尋ねてみると、
仕事が終わるとサッサと京都へ帰っていったそうだ。
妄想は一瞬にして消えた。
ひとり寂しく家に帰ったが、食事を作る気がおこらない。
しかたなく、インスタントラーメンでも作ってみる。
彼女も今頃は散らかった部屋で、
インスタントラーメンをすすっていることだろう....
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2010年07月29日
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