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労基法38条の2 第1項「ただし書き」の解

法38条の2「ただし書き」
【1項】労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難い時は、所定労働時間労働したものとみなす。
ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。


事業場外みなし労働時間制で

所定労働時間を超えて
(例えば9時間又は10時間)
 
働いたものと

みなされる場合とは

 私は次のように説明してきた。

 事業場外のみなし労働制では管理者が部下の事業場外での労働時間を算定し難い時は算定義務が免除され、所定労働時間(通常8時間)労働したものとみなすことができる。実際の労働時間が7時間でも9時間でも8時間とみなされる。しかし、平均的な労働時間が所定労働時間を超える場合は、当然時間外労働が生じるということである。

 1項「ただし書き」ではみなし時間を所定労働時間を超える時間としなければならない場合について規定している。みなし時間を9時間とか10時間とかにしなければならないと言う意味である。

 ただし書きの条文に具体的時間を入れて書き直すと次のようになる。

 ある事業場外での業務を遂行するために通常は9時間を要する労働が必要な場合には厚生労働省令の定めるところにより9時間労働したものとみなす

 又は次のようにもなる。
 事業場内で5時間労働した後通常は6時間を必要とする事業場外勤務に就いた時は11時間労働したものとみなす
通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合

 この「ただし書き」は非常の悩ましい条文である。ただし書きに入る前の部分で労働時間を算定し難い場合には8時間とみなすと規定していながら、ただし書きに入ると通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合には通常必要となる時間労働したとみなすというのである。通常9時間が必要な場合には9時間とみなされる。実際には7時間であっても9時間とみなされ、10時間であっても9時間とみなされる。これもみなし労働時間である。

 実にあいまいな規定である。通常必要な労働時間は誰が決めるんだと言いたくなる。事業主は通常なら7時間でしょうと言うだろうし、労働者は通常9時間はかかりますよという。

 いずれにしても、事業場外の労働に通常必要となる労働時間を決めなければ始まらないと言える。

 厚生労働省労働基準局編の「労働法コンメンタール」にある説明を以下に掲載する。
この 「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」とは、通常の状態でその業務を遂行するために客観的に必要とされる時間である(昭和63年1月1日基発第1号婦発第1号)。すなわち、事業場外における業務について、各日の状況従事する労働者等によって実際に必要とされる時間には差異があると考えられるが、平均的にみれば当該業務の遂行にどの程度の時間が必要かということである。例えば、ある事業場外での業務について、8.5時間で済むこともあれば、9.5時間要することもあるが、平均すれば、9時間かかるのであれば、「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」
は9時間となる。
 労働時間の全部を事業場外で業務に従事し、当該事業場外での業務に通常の状態で客観的に必要とされる時間が9時間である場合には、その日には9時間労働したものとみなされる。
 また、労働時間の一部を事業場外で業務に従事した場合には、例えば、事業場外での業務に通常の状態で客観的に必要とされる時間が6時間であれば、事業場内で労働した時間が3時間である日には9時間、4時間である日には10時間労働したものとみなされる。

 厚生労働省の見解はある意味で明快だ。「各日の状況従事する労働者等によって実際に必要とされる時間には差異があると考えられるが、平均的にみれば当該業務の遂行にどの程度の時間が必要かということである。と言っている。言い直そう。ベテランや有能な社員なら8.5時間で済むが、新入社員や経験の浅い社員なら9.5時間かかる。その場合には事業場外のみなし労働時間は9時間となる。

 厚生労働省の見解は「平均値」である。算定し難い場合でも平均値ぐらいは調べられるだろうと言っているのと同じである。その平均値が所定労働j間(通常8時間)未満であれば所定労働時間(8時間)働いたものとみなし、平均値は所定労働時間を超えるのであれば、その時間(例えば9時間)を事業場外のみなし時間とすることになる。

 いつも主張することだが、法律はあってもそれを守らせる力が無ければ役に立たない。このような曖昧な法律の場合には、職場の力関係次第ということになりかねない。事業場外労働の平均的な労働時間を誰が調べるかという問題である。職場に健全で過半数を組織する労働組合があれば誤魔化されることもない。

 もう一つ問題がある。通常必要となる労働時間(平均値)を決めなければ話にならない。しかし、この法律では事業主に通常必要となる労働時間を決めることを義務付けていない。民主的に選ばれた労働者代表との協議決定を義務付けるべきである。労働者代表が民主的に選ばれる保証が無い昨今だから、そうしても大丈夫とは言い難いが、義務付けが無いよりはましである。

 厚生労働省では通常必要となる労働時間は労働者の過半数代表者との協定で明確化するのが望ましいとしているが。この点については第2項の解説に譲ることにする。

厚生労働省令で定めるところによりの意
条文に「厚生労働省令で定めるところにより」との表現があるが、ここで解説する。
ちょっと難しいが、前出の「労働法コンメンタール」によると厚生労働省令で定めるところに関して次の通り解説している。以下は「コンメンタール」の引用である。
事業場外労働に関するみなし労働時間制に関する規定は、法第四章の労働時間に関する規定の適用に係る労働時間の算定について適用されるものである(施行規則第24条の2第1項)。したがって、この規定は、第6章の年少者及び第6章の2の女性の労働時間に関する規定に係る労働時間の算定については適用されず、また、みなし労働時間制に関する規定が適用される場合であっても、休憩、深夜業、休日に関する規定の適用は排除されない(昭和63年1月1日基発第1号婦発第1号)。
この説明は法律の専門家でないと分らない。コンメンタールでは、これを更に解説している。そのポイントを箇条書きすると次のとおりである。
【36協定&割増賃金】
みなし労働時間制の規定によって算定される労働時間が法定労働時間を超える場合には時間外労働となる。36協定の締結、届け出、割増賃金の支払いが必要となる。

【休憩時間を取れるように必要な措置を講じる義務】
みなし労働時間制によって労働時間を算定する場合でも使用者は労基法34条による休憩時間をとれるように必要な措置を講じなければならない。

【休日に事業場外労働を行った場合は休日労働となる。その場合の所定労働時間は?】
休日に事業場外の労働に従事した場合には休日労働をしたことになる。休日の所定労働時間は労働義務のない日なので当然ゼロ時間であるが、この場合には労働日における所定労働時間が当該休日の所定労働時間と読み替えられる。

【深夜業の規定は排除されない。少年者の深夜業禁止の規定も排除されない】
労基法37条は、夜10時から早朝5時までの時間に労働させた場合に割増賃金の支払いを義務付けている。みなし労働時間制においてもこの時間帯に労働をするのであれば割増賃金のしはらいは免れない。
労働時間の算定ができないからと言って支払いを免れることはできないので何らかの方法を講じる必要がある。
同様に、少年者に深夜業をさせてはならない。労基法61条の少年者の深夜業の禁止規定は何としても守らなければならない。

【妊産婦の労働時間】
労基法66条に基づき、妊産婦が請求した場合においては、時間外・休日労働及び深夜業が禁止されており、みなし労働時間制によって労働時間が算定される場合にも66条は適用される。9時間働いてもみなし労働時間で8時間とみなされるのだから時間外は命じたことにならないとの主張は成り立たない。実際の労働時間が時間外、休日労働、深夜労働とならないよう特段の管理が必要となる。
 

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