71、
姉何程親敷輩友たり共我心腹又寝勝手の左右を語るまじ。深く慎有事也左の
古語を常々口吟すべし。
交人話三分常可残七分昨花令塵埃昔友今怨敵
72、
金銀の差引より損得に付て懇意の中に隔呉越事卑劣の甚敷也。金銀を用立時合力の心入りにて真実實に用立べし。
貸といふ心の返済を待故眞切を失ふ。此欲心をはなるゝ時は年久しく交りて
も争ふ事なし我が徳を失はず、
晏平仲能人交人久敬之
73、
我子不行跡を他人に頼て異見さする親は甚だ僻言也。愚か成子を他人披露するは親子情にあらず我分身の子なれば何が度も教訓すべし。再三教導して不聞入放埒無頼の者ならば見切りて勘当すべし。
74、
我子放埒にて金銀を遣ひ捨ば能々ためし見届聞糺遊所狂ひ又は無益の美麗を好むかの事ならば側へ引つけ始終の損益世評の取沙汰天の御責等の恐身に取ての揖益能利懈を説聞すべし。只博奕勝負事にはまり不聞入体ならば親子の縁を裁って早く迫拂すべし。手後れにならば極めて後には盗賊と成者多し。
75、
子の善悪邪正は親たる者の躾による事也。三歳己後言語を教へ五歳以上は起居動静を指南し、七歳よりは手習をすゝめ八歳よりは読書習はせ十歳に至ては身の行を第一主に忠親に孝他人たり共老を敬兄弟の差別は勿論子を慈むて教を能し人の応対送迎式礼を合点さすべし。貴賤ともに教導躾第一也。年頃に相成なま物知りに成ては時後れ也。
76、
幼少の子供友たちを集遊戯するに可嫌友あり
短気の生れ、悪口雑言、臆病、欲深き偽りを云、中言を云、懇意の友中を
隔つ、他の噂譏、麁忽成、泣癖、盗心、美食美服を好、
是は楠正成生立に安間某を介添としてケ條を書渡し育てさせ撰友の戒也とぞ。
77、
懇意を見限り交りを断つに只一度にて見限べからず。三度迄は我心入をさと
しすゝむべし一度にて見限るは後悔する事有もの也。親類うち猶以の事也古語に、
撰而後交則無恨 交而後撰則財恨
78、
武士たる者人を討て迯立退は非強至極也。次第によって不得討果ば其意趣を
書記し腹切るべし。尤親有らば一旦立帰り親たちへ訳合を申述検使を受けて其
上に真気を静め、夫々へ挨拶し腹切るべし。
79、
忠孝の二つ表と裏也。父兄の中に叛逆あらば一旦は諌言すべし。承引なくば
主君へ父の一命を乞受逆意の次第を明白に申佗其身は腹切て果べし。是則忠孝二つながら全き所なり。
80、
人と交るに世上に何の望なきと云人に深く不可交貴賤ともに人望無と云事は
なし。望有ればこそ則今日の行跡を慎み不乱也。然るに何事も望無と云人は己
が心を本とし我慢気随成もの也。今日心能く交るとも明日は気随出て盡ると知
るべし。
81、
人と予と理非を諭ずる折柄相手のみ非也と理を以云勝んと募る間敷連て間答
すべからず、理非間答に云募る上は互に討果より外なし。唯言を和らけ座を退
き再三了簡すべし。彌其許被申處理分にて某非義に極らばいかにも其許の心に可被任と遠ざかるべし。遠退て互に介別ある時は何事なく濟もの也。郁ての事一席一時に決行するは悪し心の琢磨第一なり。
82、
武士は勿諭農工商の輩も天台真言の智識修験の行者へ便りて九字護身法の伝授を受べし。武士は戦場に臨で覚悟の外の犬死を逃れ転運の徳有又常に妖怪に浸されざるの益有る也。
83、
毎夜臥す時此歌を吟じ枕神へ手向て吉。
此うちへ来る人あらば名を告よ名字知らせよ我枕神
胸江勝 腹江丞 臍江叶
右の宇を指にて書へし。
84、
夜盗入ることあらば噪て聲を不可立静に起上定て此口より入べきと思ふ所へ
白刀を抜持提べし群有ば先最初に物見の盗人内の様子を伺に入也。とくと入済
して刺留べし。切るべからず。切りつけると聲を立るもの也。死骸を引退け脇
へ片付置べし。外に扣へ居賊は物見の賊立出て内の模様を告ざる故如何哉と忽入處を見済し是をも刺殺べしさのみ多人数来るものにもあらず五人にても六人にても我心を静めて壮遂べし。是に恐れ余は逃走るべし。心追ふべからす他聞に賞美せらるゝ也。治平の御世たり共邊鄙の住居は心懸べし。
85、
治乱倶に飯米の出納に小役人を撰び、ひそかに申合二人前の扶持米を計る時壹勺づゝ除き置べし。拾人分米にて壹合也。百日除け置ば飯米壹斗也。百入分は壹石也。残戦國籠城してもはや兵糧払底と云時此除米を出し見れば士卒驚きまたも余計有るべしと心たしかに勵見彌力戦一ときは働く也。又冶世には連年不作の時は貢穀少し此時に件の除米を取出し用益すべし。尤出納の役人を能く可撰事也。其人を選ぶにはさまざま人に性分有り先可嫌は、
物を惜ぬ生 酒を好む生 情愛深き生 無算用生 賄賂好生
右之人品を楠正成兵糧奉行の五禁と定置れし也。
86、
夜中の心懸には、四季ともに毎夜紙帳を二ケ處に釣置半夜づつ入れ替え寝べし。何れの紙帳に臥る哉家来共は勿諭妻子にも知らせまじ。是意昧事也。
87、
近代家督の実子無き時は養子を貰て家督を繼せるに木意の事あり。又不本意
の養子あり、たいていの人情は時勢つよき家より迎ふる事不本意の養子なり。
88、
先祖の霊魂祭亡霊も祝着あらん。血脈断絶を憂るは知れたること也。貴も賤
しきも手前親族の中より迎取養ふべし。尤父方の筋目有は順道也。父方に無ば
母方迎取べし。我が妻の続より迎取は逆の筋目也。家名の相続は先祖へ対しての信義是より重き事なし。血脈絶るも是非なし。男女ともに養子を迎へば父方
を第一とすべし。
89、
妻女を迎ふるに血筋正しく貞操の聞へ有るを吟味すべし。是又近世は濁世の
刃傷皆容色美麗のみを撰て筋目貞操は糺ず只々美(眉)目麗はしきを第一とす
ろは心得違也。古語に、
妻者可撰箸 妾者可撰形
媒の云事を信ずべからず。手づるの者を尋穿鑿すべし。第一親立へ孝目上を
敬ひ召仕の者共へ仁憐帝は質素の姓分か、花麗を好か、生姓寛なるか、急成
か、血筋と箸とを可味事容色の事は捨て又悪敷病の症等を聞糺すべし。
90、
妻縁極り入嫁して式正の祝儀相済閨へ入り妻に同て詞を和らげ左のケ條を能
く申聞せ其返答を聞べし。
一、今日より両親の腰元と改て萬専用向を達べし。
一、内縁を頼て他向より申来ること麁忽に取次間敷事。
一、手前召仕男女親疎之依怙有間敷事。
一、産神詣先祖の墓参の外出間敷事。
一、衣装に風流を不好質素に行跡有るべき事。
一、遊芸を好て芸人を招まじき事。
一、元上戸なりとも禁酒すべし。
一、其事の理を云ふとも当座に憤り言葉返答有べからず。
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