|
○大川（おおこ）の滝から２�劼曚描�ると栗生集落に達する。天保十四年（１８４３年）刊行の「三国名勝図会」は、「栗生川」・「栗生嶽」・「珊瑚沙渚」の三項目を挙げて、栗生について詳述している。少し引用が長くなるけれども、気になるところもあるので、全文を掲載しておく。
【栗生川】
栗生村にあり。村下に栗生川あり。海に入る。水源は栗生岳より出、午未の方へ流る。海まで凡そ
七里餘、水勢洪大にして、川幅七十間、深さ八尺程あり。大船出入す。河口より上流九町許、舟船通
ず。村落邏所官倉等、河口より八町ばかり上流にあり。河口より村落の間、両岸沙渚にして、蘆荻生
茂れり。又河口より、東の方、海渚長さ四町許、平沙にて、松樹森列せり。其沙渚の海上に長礁あり。
長さ八十間許、突出し、其上は松樹疎生す。又陸田水田ありて、川を挟めり。両岸の郊野頗る広し。
島中郊野の広きは、此地を第一とす。郊野には馬多し。山林は村落より一里許、奥の方に重層せり。
又南方の海上には、七島遙かに見ゆ。此村、山を背にし、河を帯ひ、海に臨みて、郊野水田岸を挟む故、
風景絶勝にして、畫圖も及びがたし。土民山林、漁釣、兼用て其産業広し。
【栗生嶽】
栗生村に属す。村落より丑寅の方、七里許にあり。屋久三岳の一なり。其嶽の絶頂に、益救神社あ
り。一品法壽権現を祭れり。勧請の年月詳かならず。毎年秋八九月の間、土人参詣する者多し。婦女
十四以上の者は禁制なり。絶頂に一平石あり。其高さ二尺、横三尺、長さ一間ばかり、其石上一穴の
周廻一尺許、深さ二三寸なるあり。水泉常に湧出して溢れ、古より四季共に涸ることなし。其水中に
蚯蚓二つ常に居れり。土俗神の使属なりといふ。嶽神に参詣する人、其水と蚯蚓とを去り置くに、其
帰る比をひ、素の如く、水盈満して蚯蚓亦居れるとぞ。又絶頂より山下十四五町の所に一川あり。水
源、嶽の東西より出、南面へ流る。即ち栗生川の水源なり。川幅一二間、深さ一尺餘、嶽神に参詣す
る者は不浄を清むるとて、必ず此河水に浴するとかや。此岳宮浦長田の二岳より、形勢少し尖小なり。
【珊瑚沙渚】
栗生の河口、西の方一町許にあり。海渚の辺、皆白沙にて、珊瑚沙其中に相雑れり。海底珊瑚ある
を以て、海風強く吹たる後は甚多し。紅色にして其形種々あり。一枝二枝、三枝なるもあり。又は枝
なきもあり。長さ一二分なるもあり。又は其より長きもあり。其沙上を望むに、紅白相雑て、珠璣瓊
瑤を砕き敷きたるが如し。拾ひ取るに、頃刻の間一升も得るべし。盆石の沙などに用ゆるには最好し。
○「三国名勝図会」、屋久島の「闔島形状」の記事に、
・一島の中、大小凡そ三百餘川ありて、其中大船の出入する大河五つ六つあり。
・此島の大きさに準ぜざる巨流なり。
・其最大なるは、安房川、栗生川、長田川の三なり。
とあるように、「三国名勝図会」は栗生川を屋久島第二の河川と意識している。屋久島で水田耕作地が広がって見えるのは、この栗生集落と永田集落であるように感じた。
○同じく、屋久島の「闔島形状」の記事に、
・八重岳千山萬峰の中、秀絶雄抜にて、最高なる者を、屋久の御嶽と號す。
・御嶽に三あり。一曰宮浦嶽、二曰長田嶽、三曰栗生嶽、三嶽挺秀して、鼎足の勢をなす。
・衆峯の四邊に歸然たるは、宛も兒孫の爺翁に従ひ立が如し。
・宮浦嶽、中央にありて、栗生長田の二岳は、其左右に峙てり。
・其三岳の巓き、各相去ること一里許あり。
とある。「三国名勝図会」は極めて詳細に奥岳の様子を記述していることに驚く。実際、宮之浦岳・永田岳・栗生岳に登ってみると判ることだが、現在の宮之浦岳・永田岳・栗生岳の位置は、「三国名勝図会」が記す位置に存在しない。当時の栗生岳は、山の位置関係からすれば、どうも現在の黒味岳を指すようである。
○栗生嶽山頂に棲む蚯蚓二匹の話も興味深い。「蚯蚓」は「きゅういん」と読み、ミミズのことである。
○栗生の「珊瑚沙渚」も気になる。現在、屋久島青少年旅行村がある栗生川右岸の塚崎の浜あたりを指すらしい。今回は、栗生川右岸の河口付近までは行ったが、塚崎の浜は未見である。
○永田集落や栗生集落は、江戸時代ころまでは相当大きな集落だったと思われる。その証拠に、寛政七年（１７８５年）刊行の「麑藩名勝考」が記載する屋久島の集落順序も栗生を起点にしているほどである。
○以前から黒味岳は、その名称が気になって仕方がなかった。この山が栗生岳で、栗生から黒味に変化したのであれば、それが氷解することになるのだが。
○尚、「麑藩名勝考」は、栗生を『クリフ』と訓じ、「三国名勝図会」は、『クリウ』と訓じている。現在は『クリオ』と訓じるようである。同じような地名に、屋久島には麦生がある。
|
