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■マイクロ波加熱
物質には、金属のような良導体や抵抗体、絶縁体があります。金属や抵抗体に直流や交流の電圧または電界をかけると、導電電流が流れますが、電子が格子の振動や欠陥などさまざまな障害により散乱を受け発熱します。このエネルギー損失が抵抗性損失です。一方、絶縁体(純粋な誘電体)では、電子は原子あるいは分子内に束縛されているためこのような電流は流れませんが、交番電界をかけることにより発熱します。これは次のように説明されます。
誘電体物質を構成する各々の原子あるいは分子において、負の電荷(電子)の分布とそれと対をなす正の電荷(正イオン)の分布の中心が偏位 した状態の「電気双極子」は、各々外部から加える電界の向きに応じ向きを揃えようとしますが、周波数が高くなるにつれ追従できなくなり、振動や回転による分子相互の摩擦により発熱します。このエネルギー損失が「誘電損失」です。
この現象を物質の加熱・加温に利用したのが「マイクロ波加熱」です。その最も身近な応用が、一般 家庭に普及している電子レンジ(周波数は2,450MHz)です。発熱の程度は、物質の種類や周波数によって異なります。物質には、外部から電界をかけなくても双極子(「永久双極子」)状態にあるものと、かけた時に示すものとがありますが、マイクロ波帯では前者の物質が対象になり、その代表格が分子構造において高い非対称性を示す「水」です。
水は、マイクロ波をかけた時、エネルギーの吸収、損失が大きく、加熱に理想的な物質です。10GHz付近で吸収が最も大きくなりますが、915MHz帯、2,450MHz帯でも大きな損失を示します。また、塩分濃度の違いにより特性が大きく変わり、水の塩分濃度が増すとマイクロ波の吸収が増え温度もより高くなります。
マイクロ波エネルギーは物質の内部に侵入して行くと、吸収されると共に強度が弱くなりますが、その浸入の深さは物質の種類や水分の量 により変わり、また周波数に反比例します。そのため、損失の大きい物質をより深く加熱するためには、低い周波数を用いる必要があります。
装置は、マイクロ波発振器と、加熱物質を設置し照射するための金属壁で囲まれた容器や導波管、アンテナなどの加熱部(「アプリケータ」)から成ります。
マイクロ波加熱の利点
熱伝導によらないため熱伝導の悪い物質でも内部まで短時間で加熱でき、時間の大幅節約が可能
エネルギー効率が高い
損失の大きい部分の選択的加熱が可能
連続的加熱、均一加熱が可能で生産性と品質の向上が期待できる
装置の構成が比較的単純で、電力の制御が容易
外部からの直接的熱供給源が不要なため作業環境が清潔で、省スペース化が可能
離れた場所までエネルギーを損失なく運ぶことが可能などです
そのためこれらの利点を活かし、工業、科学、医事などにおいてさまざまな形で利用されています。
食品関係では、調理、ベーキング、解凍、濃縮、発泡、乾燥、防黴、殺菌など
ゴム・合成樹脂関係では、ゴムの加硫(硬化)や脱硫、発泡成型、重合固化など
薬品関係では、粉末薬の乾燥・調合など
セラミックス関係では、粉末の乾燥、石膏モールドの乾燥、成型品の乾燥、 フェライトの焼結前の乾燥など
木材・紙関係では、乾燥、水分調整、木材の曲げ加工・接着・殺虫など
繊維関係では、乾燥、延伸処理、染色における発色など
鉄鋼関係では、炉材や鋳型の乾燥など
土木・建設関係では、岩盤・海底岩盤・コンクリート建造物の破砕、アスファルトの加熱・溶融・結合など
原子力関係では、廃棄物の焼却灰の溶融固化・処理
科学分野においては、不用になったサトウキビの茎や稲わらなど繊維物質の糖化、果 物や野菜における酵素の不活性化による品質保存、有害大気汚染物質である
ベンゼン、トリクロロエチレンなど揮発性有機化合物の処理・回収のための吸着・脱離の制御(通 産省・資源環境技術研究所で研究中)
発振器としては、工業用加熱には、動作電圧が低い、発振効率が高いなどの点からマグネトロンが適し、2,450MHzが中心に用いられています。
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