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さぁて、どうするかな・・・・

タイで生まれた

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いろんな写真とか、タイで活字として発表したエッセイなど短・長文の数々を、発表時期不同で。
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真逆の合掌

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誰でもタイに初めて来た時に少なからずドキリとさせられることに「合掌される」というのがないだろうか。そう、「ワイ」だ。私も最初の頃はワイをされて思わず背筋を伸ばしたり、組んでいた胡坐やウンコ座り、体操座りを正座に変えようとあたふたした想い出がある。そのあたふたがスイッチを入れた。ワイというのはなんてきれいな所作なのだろうと思うようになったのだ。

なんとしてもマスターしたい。私は人々のワイを観察した。日本人のワイもじっくりみた。明らかに違う。どこが。私は観察を続けた。違いにひとつ気づくごとに鏡の前で練習した。この稽古を「ワイの打ち込み」と名付けて。日本人の合掌とタイ人のワイとが真反対の形をつくることに気づいたのはしばらくしてからだった。

タイのワイは自身を小さくすることから始まる。

脇をしめ、膝を緩めて腰を少し落とす。

日本の合掌は極端な場合脇を思い切りあけ、膝を伸ばし、あごさえあげることがある。合掌している姿勢を大きく見せるのだ。タイのワイはあくまでも相手の前で小さくやわらかく、が基本だ。

そして日本の合掌と最も違うのが、合わさった両手がつくる形。日本の合掌はぴたりと潔く(?)両掌がくっつく。タイの場合は逆で、指の力を抜いて、両掌にわずかの空間をつくる。その形はまるで花のつぼみのように膨らんでいるのだ。


この空間の中にこめるのは「真心」であったり「思いやり」であったり、どう名付けようがかまわないが、つまりそういうことなのだよ、と話を結ぶと、いいうんちくになる。

この話、あなたにあげます。                        

                                                               2016/03/03


貴を生むために

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1週間ほど前、マンション火災を間近に見た。ある場所の6階から同僚たちとともに眺めていたのだが、午前中に出火し何時間ほど燃え続けたろうか。距離にして1キロほど先になるが、その間にさえぎる建物もなく、バンコクのビル火災がどのようなものかよくわかった。

最初のうちは手前にある雑木林が燃えているのだろうと誰もが思った。しかしそのうち、濃い茶色の煙と木々の向こうにちらちらと炎の舌が見え始めた。その舌が時とともに上に伸び、森の陰から出たとき、それがビル火災だと私たちは知ったのだった。風の向きと強さ次第では私たちがいるところまで容易に煙と建築資材の焼けるにおいが流れて来たにちがいなかった。
午後になって一時下火になったかと見えたが、マンション内部を伝って上方へ登った炎はとうとう屋上階の優雅なつくりの広いベランダへと躍り出たのだった。上空を何機かのヘリが舞っていた。はしご車の姿も見えず、放水も見えなかった。
帰り際、高速道路の上からそのマンションを眺めると、まるで昔からそうであったかのように黒い巨塔があるばかり、明るい灰色の空をバックにごちゃごちゃとした建物群のなかから立ち上がっていた。

安全なところから危険を眺めるとき、人の心は少し焦げて汚れてしまう。そんなときの眼で眺めるバンコクのなんと無慈悲な煩雑さ。それはまるで醗酵真っ只中のぶどう酒の甕を覗き込むようなものだ。まだまだ完成の形は見えず、濁と腐がいたる所にうずくまっている。
成熟にはまだ遠く、それでいながら傲慢な街。
貴を生むために腐を通過中のこの街だ。
                                                                           2016/02/18

岩手に行きたい

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酔った足どりで居酒屋を出る。
月も出ていないが星もないバンコクの夜空。
日付が変わるまでにはまだ間があるけれど人通りはもう少なくなっている。
遠くの高いビルの窓々も街灯も大通りを走るヘッドライトたちも明るいようだが、歩くソイの足元はなぜか湿って暗い。一年のうちのわずかな長さのバンコクの寒季。

地上のネオンをぼんやりと反射しているような夜気のこちら側に、眠りについた建物の黒い影がいくつもある。その間を見え隠れしつつ無音のままに過ぎる灯りの列は高架を走る電車の灯だ。ひときわ明るい駅舎の灯りのなかに今しも吸い込まれていこうとしている。灯の集まりのなかに灯の列が吸い込まれていく。
ソイの真ん中あたりで立ち止まり煙草をくわえて眺めていると、その無音の営みが妙に愛おしい。窓の明かりの向こうにはそれぞれの人がそれぞれの想いであまりしゃべらずに座っているのだろう。
目的の駅へ、目的の場所へ、静かに静かに人は移っていく。
いま居る所からその次の場所へ。
人は決して一つところにとどまることはできないらしい。そう思わせてしまうそんなドラマを勝手に想像しながら定点観測している私がいる。


あの灯りがほんの少し垣間見せてくれるイメージは銀河鉄道だ。
子供の頃から憧れ、何度も読み返し、そしていまだにわからない『銀河鉄道の夜』。
訪ねてみるか、あの街を。
芝居をやって旅費を稼ぎながら。
助けてくれる人がいるさ。どこかで誰かが待っているさ。
そんな夢想をちょっと信じてみよう。
バンコクを不意に襲ったこの寒さと街の灯りに私は背中を押された。

                                        2016 01・16

現代の玉手箱

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105日、小惑星探査機「はやぶさ2」の目指す小惑星の名称が「Ryugu」に決まったと発表された。リュウグウだ。あの竜宮である。いまこの時、はやぶさ2は地球スイングバイ軌道に乗り、今年123日のスイングバイを目指して地球に近づきつつある。昨年打ち上げられた日と同日に再び地球に出会い、二度目の「行ってきます」を告げて、一路リュウグウに向かって進路をとるという。


このニュースを聞いてふと思い出した。確か数年前、はやぶさ1号の地球帰還成功で世間が騒いでいたことを。当時の私はこのバンコクで空のことに思いを馳せる余裕もなかった。そこで、よせばいいのにネットで当時の記録を辿った。してやられた、の始まりだった。私はそれからほとんど外に出ることなく、一昼夜をぐずぐずと泣き暮らしたのだった。数年、正確には6年遅れの感動というやつだ。明日がどうなるかわからないバンコクの喧騒の中にいると、こんな感動も遅れ遅れになることを知った。


満身創痍、帰還不可能とまで思われたはやぶさは、当時の日本人にとっては「生き物」以外の何者でもなくなっていたという。全霊を尽くして創られたものには生命が宿る、ということをあのとき日本人は劇場型の騒ぎ方で表わし、証明し、そして喜んだのだった。
あの感動がまた2020年はやぶさ2の帰還で蘇るのだろうか。
太陽系の過去が詰まった「玉手箱」をはやぶさ2が「竜宮」から持ち帰る。
そのふたを開けたとき、私たち人類は過去を知り、そして知識を未来へ向けて一気に跳ばすことになる。それが現代の「玉手箱」だ。
はやぶさ2の6年という時間を駆ける途方もないマラソンのゴールはそこにある。
                                        10・10・2015

         ※写真はJAXAのホームページからダウンロードして作ったペーパークラフト。

                  ええ歳こいたおっさんがけっこうワクワクで作っちまったい。ヘヘッ。

旅の神の種明かし

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旅の神様というのがある。

日本人ならまず思い浮かぶのは道祖神だろう。旅人の安全と人々の暮らしを見守る路傍の神だ。

しかし私が思う旅の神様というのは、勝手な想像ではあるが道祖神の上座に、いやその後ろに隠れたものだ。それはもちろん、一般にいう神でも仏でもキリストでもモハメッドでもなく、旅を思い立たせるきっかけをゼロから突然つくりあげて投げかける、いわば精霊のようなものだ。

ある日あるとき、突然旅をしたいと希(こいねが)うとき、この精霊が動いている。

ただ、この精霊はいたずらもので、旅の向こうに何があるかを保証しない。


今年、私はお隣のミャンマーを旅した。観光地を巡るのではなかった。戦後70年、いまだに日本に知られていなかった日本兵のご遺骨の埋まった場所がいくつも特定されたからだ。これは日本の民間と現地の少数民族の方々との協力で成し遂げられたことだが、その御供養に行くという日本の僧侶の方々の旅に便乗したのだった。


車がすれ違うことなどできない峨峨たる山の道を辿ったが、それは旧日本軍が整備したそのままのルートで、道の片側は常に断崖絶壁だった。当時のままに舗装もされずガードレールもない。ハンドルをひとつ過てば命もない。それが急斜面の山道をくねくねと、延々と、長々と続いてゴールを知らずに先へ先へと延びるのだった。

私たちが辿ったこの道こそ世に名高い「白骨街道」だった。


そしてたどり着いた村で、戦後初めて訪れた日本人僧侶に両手を広げて近づき、しっかと抱きついた老婆が少数民族の言葉で延々と何かを泣き笑いで叫びつつ訴えるのを見た。

旅の神様が種明かしをした瞬間だった。

                             2015・9・5



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