2006年、中世の疫病の犠牲者の中から16世紀の女性の頭蓋骨が見つかった。彼女の口はレンガでこじ開けられていたが、これは当時のヨーロッパで吸血鬼と疑われた遺体に対して行われた悪魔払いの儀式だった。
研究チームのリーダーを務め、イタリアのフィレンツェ大学の法医考古学者マッテオ・ボリニ氏は、2009年3月にこの頭蓋骨についての発表時、「これまで吸血鬼にかかわるものであると認められた考古学資料はなく、これが初めての事例となる」と述べていた。その後の調査で、彼女の人物像や魔術に手を染めたと疑われる理由、さらには実際の容貌まで解明されることになる。 ナショナルジオグラフィック チャンネルのドキュメンタリー番組「吸血鬼の法医学(Vampire Forensics)」の中で、ボリニ氏は次のように語った。「500年前の彼女を手がかりに吸血鬼伝説の起源を解明すれば、歴史の一部が書き直されることになる」。 ボリニ氏はベネチアのラッザレット・ヌオーボ島で集団墓地の発掘時に“吸血鬼”の頭蓋骨を発見した。中世では吸血鬼の存在が広く信じられていたが、これは主に腐敗のプロセスがよく理解されていなかったためだという。例えば、人間の胃は死後腐敗が進むと血液に似た暗褐色の体液を放出するが、死体の鼻や口から大量に流れ出すことがある。 当時の墓や集団墓地は、疫病が流行すると次々に遺体を埋葬するためにたびたび掘り返された。イタリアの墓堀人たちは腐敗した遺体を見て、流れ出した体液を吸血鬼の犠牲者の血だと誤解したのかもしれない。また、遺体の口の辺りを覆う埋葬布がこの体液で湿って口の中に落ち込み、裂け目ができたように見えたのかもしれない。まるで遺体が布を噛んでいると考えても無理はない。 「吸血鬼は疫病の原因とも考えられていた。埋葬布を咬む行為は、人間に病気を広めるために吸血鬼が使った魔術だという迷信が根付くことになった」とボリニ氏は話す。 吸血鬼と疑われた遺体の口にレンガや石などが詰め込まれたのは、口をふさげば疫病の流行が止むと信じられていたためだった。 “ベネチアの吸血鬼”の詳細を具体的に肉付けするために、ボリニ氏は科学者チームを結成した。 古栄養学者は頭蓋骨と同時に見つかった遺体の一部を細かく砕き、死後も骨内部に定着している食物由来の成分を探した。その結果、食事の大部分が野菜と穀類で占められており、彼女の身分は低かったとわかった。 DNA解析により人種はヨーロッパ人と判明した。法医学歯科医は最先端のデジタルX線装置で頭蓋骨の長い犬歯を調べて、61〜71歳という死亡年齢も突き止めた。ボリニ氏は番組内で、「60歳過ぎという結果には驚いている。16世紀では、ほとんどの女性がその前に亡くなっている」と述べている。 魔女の恐怖が広まっていた中世ヨーロッパでは、悪魔が不死などの不思議な能力を魔女に授けていると考えられていた。死後に吸血鬼として疑われたとすると、生前は高齢のために魔女呼ばわりされていたのではないか、というのが研究チームの推測だ。 ボリニ氏は研究の最終段階で、3Dイメージの専門家に頭蓋骨のデジタルモデルの作成を依頼した。そのモデルを土台にして筋肉を追加し、“ベネチアの吸血鬼”の顔を再現していった。 そうして姿を現したのは、ごく普通の女性の顔だった。「死後数世紀を経て、彼女に対する疑いをようやく晴らすことができたようだ。これで一段落だが、ちょっと不思議な感じもする。親近感がわいてきたところだったからね」とボリニ氏は語っている。 National Geographic
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