イギリスのロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の進化心理学者で今回の研究を行ったサトシ・カナザワ氏は、「知性や宗教心、浮気心の強弱はすべて知能の進化に関係している」と話す。
カナザワ氏は自身の理論を次のように説明する。「知能、特に現場で即座に問題解決や推論を行う能力は、突然の森林火災など特異で予期していない出来事に対処するために、進化的適応の結果として獲得されたものだ」。 森林火災のような災害は日常生活では稀なので、人類の祖先が生まれつきその対処法を知っていた可能性は低い。災害時に生き延びるためには、新たな行動様式を考え出す能力と実際に試す意志が必要になる。 「高い知能の証しとなるこの2つの特質は遺伝し、非伝統的な社会的価値を選ぶ傾向として表れる」とカナザワ氏は話す。 逆に言えば、ハイレベルの知識階級は常識や旧態依然とした考え方にとらわれない特性を受け継ぎ、比較的新しい社会的価値や行動様式を受け入れる可能性が高くなるという。例えば、リベラル思考、無神論、夜型の生活、男性にとっての一夫一婦制などが該当する。 カナザワ氏は、「この志向は、頭の良い人の脳が新しい状況にうまく適応しようとする結果、生じるものだ」と話す。 カナザワ氏が研究で採用したのは、全米青少年長期縦断的健康状態研究(Add Health:National Longitudinal Study of Adolescent Health)のデータで、1994年以降、同一の被験者グループが継続的に調査対象になっている。 この研究データは、絵を使ったボキャブラリー・テストに参加した13〜19才の若者のIQを測定したもので、7年後に同じ被験者に対して各自の宗教観と政治思想に関する質問が行われた。 データ分析の結果、7年後に「まったく宗教心がない」かつ「非常にリベラル」と回答した人は、「非常に宗教心がある」かつ「非常に保守的」と回答した人に比べて、10代のころのIQが高いことがわかった。 差異はそれほど大きなものではなく、例えば、リベラル派と保守派の差は平均で11ポイントにすぎない。それでもこの差は非常に重大だという。 リベラル思考を「膨大な見ず知らずの他人の運命を気遣う」気質の現れとすると、「人類がごく最近身につけた特性だ」とカナザワ氏は話す。「歴史的に見て、人類は親密な家族や友人の幸せについて心配しても、赤の他人を心配することはなかった」。 今回の最新研究に対してほかの専門家からは、「非常に興味深い。ただし、実証されたとは言い難い」との意見が出ている。 アメリカにあるケース・ウェスタン・リザーブ大学の心理学者で専門誌「Intelligence」の編集を手掛けるダグラス・デターマン氏は、「今回の研究は非常に面白い。しかし知能の進化に関しては、ほかにも面白い仮説がある」と話す。「例えば、“異性をめぐる競争の中から知能が進化した”とする研究もある。もしそれが事実であれば、カナザワ氏の説は、リベラル派や無神論者がより性的魅力を備えているのでなければ妥当性を失う」。 また、アメリカにあるコーネル大学の発達心理学者スティーブン・セシ氏は、「Add HealthのIQテストは、カナザワ氏のアイデアにとってはあまり良い証拠とは言えないだろう」と話す。 「Add Healthは、IQ測定で絵を使ってボキャブラリーを尋ねる方法を採用しているが、必ずしもカナザワ氏が対象とする種類の知能を測るものではない。Add Healthは、学校や文化を通して積み重ねられる“結晶性知能”の測定に優れる方法だ。結晶性知能は本来遺伝的に獲得するものではない。非伝統的価値を好む傾向が実際に進化的適応かどうかは、その場で考え出す問題解決や推論の技能を測定するIQテスト、例えばパズルを使ったテストなどが適切だ」。 カナザワ氏も今回採用したデータが必ずしも最善でないことは認めており、「セシ氏の意見はよくわかっている」と話している。同氏は既に全英児童発達研究(NCDS:National Child Development Study)のデータ収集を済ませている。このデータは、同じ被験者に対し3つの年代で11の認知テストを行っている。「NCDSのデータは生得的知能を測定する上ではるかにしっかりとしている。今回の研究成果を裏付けするつもりだ」。 National Geographic
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サイエンス
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地球の周縁、つまり宇宙と地球との見かけ上の境界を背景に飛行するシャトルを、さまざまな色調の大気の層と共にとらえたユニークな写真だ。エンデバーが今回の13日間のミッションのために米東部標準時間2010年2月10日0時6分にISSとドッキングを行う直前に撮影された。
National Geographic
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毛髪は北極地方の永久凍土から良好な保存状態で発見された。持ち主である若い男性は「イヌク(Inuk)」と名付けられ、グリーンランド最古の文化で現在は消滅しているサカク(Saqqaq)文化に属していたと考えられている。
デンマークにあるコペンハーゲン大学の進化生物学者で、今回の研究に携わったエスケ・ビラースレウ(Eske Willerslev)氏によると、当時の様子は謎に包まれたままだと言う。「サカク族は、イヌイットの直接の祖先説や、北極地方の高緯度地域に定住していたネイティブアメリカン説などさまざまな議論があった。だが、古代遺跡から発見されたわずかな骨や毛髪について、遺伝学的な来歴はほぼ何も解明されていない」と同氏は説明する。 11日付「Nature」誌オンライン版に発表された研究によると、毛髪のDNAを解析した結果、この男性はネイティブアメリカンやイヌイットの祖先よりも、むしろシベリア極東地域に住むヌガナサン族、コリヤーク族、チュクチ族に近いことが明らかになった。 「約5500年前にシベリアからグリーンランドへの民族移動があった可能性が高まった。この時代は、グリーンランドに人間が住み始めた時期とも見事に一致する」とビラースレウ氏は話している。 DNAの解析結果からは、サカク族の男性像も再現された。イヌクと現生人類のゲノムはよく似ているという。 DNA解析のサンプルに使用された毛髪は、1980年代にグリーンランド北部で発見され、デンマーク国立博物館に保管されていた。皮膚や骨とは異なり、毛髪DNAは菌類やバクテリア遺伝子に汚染されていない状態での解析が可能だという。また、古代DNAの解析技術が改善され、古代人の起源だけでなく外見の解明にも役立つようになった。 「Nature」誌の解説執筆者の1人で、オーストラリアにあるグリフィス大学の進化生物学者デイビッド・ランベール氏は次のように話している。「これまでのDNA調査でも地理的起源の特定が可能な場合もあったが、今回の研究で際立っているのは一塩基多型(SNP)を用いた点で非常に画期的だ」。 ヒトの遺伝子は、ヌクレオチド(4種類の塩基A、C、G、Tのユニット)分子が集まって構成されている。ゲノム塩基配列中でヌクレオチドが1カ所だけ異なる状態をSNPと呼び、遺伝子を元に作られる体内物質などの働きが微妙に変わる。 現生人類のヒトゲノム研究からSNP変異のデータベース構築が進んでいる。これを手がかりに、SNP変異を元に瞳の色などの身体的特徴が99%の精度で特定できるようになった。 イヌクのゲノムからは、黒髪に浅黒い肌、茶色の瞳など容姿に関する特徴が明らかになり、耳垢のタイプまで乾燥性と判明した。薄毛の遺伝子にもかかわらず毛髪が多く残っていたらしく、イヌクは短命だったと考えられている。 彼の前歯は、アジア系やネイティブアメリカンと同じく内側がシャベル状にくぼんでいた。血液型はシベリア北東部に多いA型である。また、極寒の地での生活にも耐え得る優れた代謝機能を遺伝的に備えていたようだ。 National Geographic
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人間が自分にとって誰が魅力的なのかを判断するプロセスは、たとえ見た目だけでの判断であっても、本能的な反応とはいえない非常に複雑なプロセスであることが最近行われた脳スキャンによる研究でわかってきた。
シラキュース大学の神経科学者ステファニー・オルティグ氏と、ジュネーブ大学精神医学センターのフランチェスコ・ビアンキデミケリ氏は、性的体験における脳の役割を長年にわたって研究している。 両氏の最新の研究では、人間は他人の性的魅力をすばやく判断する際、脳の中で相手の意図を理解したり自己認識するといった高次な機能をつかさどる高次脳領域を使用していることを発見した。 実際に高次脳領域は、視覚をつかさどる視覚野や感情をつかさどる感情中枢が情報を受けとる前に活発化しているようだとオルティグ氏は言う。 これまでの学説では、脳はまず視覚で性的魅力に関する情報を受け取り、その情報が感情中枢を通って脳内を上り、最後に高次脳領域に達すると考えられていた。しかしオルティグ氏の研究によれば、まず高次脳領域が、どういう人が魅力的なのかを示す青写真的な情報を視覚野に伝えておき、さまざまな反応を感情中枢にあらかじめ用意している可能性があるという。「どのような相手にどのような場合に欲望を抱くのかを自分が意識する前に、既に脳は知っているということだ」。 この研究でオルティグ氏とビアンキデミケル氏は、脳スキャン装置を使用し、高密度EEGニューロイメージングと呼ばれる方法で、ボランティアで参加した13人の健康な成人の脳の活動を記録した。 実験では、まず被験者に水着を着た人の写真を次々と見せて、魅力的と思うかどうか判断させた。 その結果、ほとんどの被験者は0.5秒もかからずに判断を下したが、これほど短い時間の間に高次脳領域を含む脳の複数の異なる領域で電気的活動が確認できたという。そして、欲望に関わる活動で最も活発になった領域の1つは、自己認識と自己イメージの形成に密接に関連する領域だったことがわかった。「基本的に、自己イメージが確立していない人は、性的欲望にも混乱がみられる」とオルティグ氏は説明する。 また、魅力的と思わない人を除外するときより、魅力的と思う人を発見するときのほうが少し時間がかかっていた。この発見の重要性を指摘するのは、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の進化心理学者ドナルド・シモンズ氏だ。 「ある人が刺激的な画像を非常に魅力的だと感じるためには、画像の中のアピールポイントすべてが、その人の欲望の対象の範囲に入っていなければならない」とシモンズ氏は語る。同氏は今回の研究には参加していない。 太っているとかニキビが多いなど、自分にとって魅力的でないと思える部分が1つあるだけで、人は相手を魅力がないと簡単に判断してしまうと同氏は説明する。「つまりたいていの場合、魅力的でない部分を見つけることは他者を認識するうえで問題となりやすく、また大きな長所よりも短所のほうが先に見つかるものだ」。 最終的には、オルティグ氏とビアンキデミケリ氏の研究により、人間が今のような形で他者に欲望を感じるように進化した理由について、新たな見方が生まれるだろう。 つまり、現在の脳の神経経路は、古代人が配偶者候補の価値についての情報を身体的特徴から集めていた結果として形成された可能性があるということだ。例えば、スキンケア製品が登場するまでは、人間の年齢や重大な健康問題を知るよい手がかりは肌の状態だったのだろう。 「したがって、配偶者評価のための信頼できる情報を見つけて利用するための心理メカニズムが、自然淘汰の過程で形成されたのだと私たちは考えている」とシモンズ氏は述べた。 オルティグ氏によれば、今後の研究では写真を使うのではなく、人間のカップルを脳スキャン装置につないで互いの脳の活動を記録したいと考えているという。そうすれば、欲望の変化を“ありのままに”見ることができるからだ。 National Geographic
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ここ数ヶ月間、火星は夜になると東の空に昇り、赤い恒星のように見えている。1月28日には地球から9800万キロ圏内を通過する。望遠鏡があれば火星の地表を十分観測できる距離である。
カナダのブリティッシュ・コロンビア州バンクーバーにあるH.R.マクミラン宇宙センターの天体観測スタッフであるラミンダー・シン(Raminder Singh)氏は次のように話す。「口径15センチほどの小型望遠鏡でも、氷冠など火星の地表の様子が見える。双眼鏡でも、恒星は光の点にしか見えないが火星なら円盤状に見える」。 また、1月30日に火星は衝(しょう)の位置に入り、ちょうど太陽が西に沈むころに火星が東の空から昇るため、火星を一晩中見ることができる。「衝になると、火星は地球から見て太陽と正反対の位置に来る。太陽系を上から見ると、太陽と地球と火星が一直線上に並ぶことになる」。衝の夜には火星は満月のすぐそばに見え、寄り添いながら夜空を横切る姿がこの天体ショーに華を添える。 火星と地球の軌道は真円でなく長めの楕円であるため、火星と地球との距離は一定しない。この軌道配置のために火星はほぼ2年ごとに地球に接近する。 2003年8月、火星はこの6万年間で最も地球に接近し、地球からわずか5600万キロの距離を通過した。天文ファンには見ごたえのある宇宙ショーだったが、「火星が満月と同じ大きさに見える」という悪ふざけメールも飛び交ったようだ。 今年の接近はそこまで地球に近づく大接近ではないが、それでも今回の小接近飛には、火星を肉眼でも簡単に見つけられるという特徴があるとシン氏は指摘する。「夜空を見上げると、月とシリウスの次に火星が明るく見える。ただ空を眺めるだけで済むのだから、是非外に出て見て欲しい」。 National Geographic
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