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TPPとは環太平洋パートナーシップ協定の略称です。TPPが含むものは幅広く、関税や人材などの経済の自由化、ビジネスルールの統一ということが含まれます。昨年、野田首相は協議に参加すると表明しました(表向きと見るかどうかは個々人のご判断にお任せします)。これから参加するかしないか、参加した場合、さまざまな協議が行われます。
現段階では、あくまで可能性ということで、もしTPPが批准され、新しいビジネスルールが適用された場合、日本の広告業界に影響をもたらす場合のインパクトについて書きたいと思います。
目次:
1. アメリカ標準「一業種一社制」が基本ルールとなる
2. 複数年のAE契約
3. 広告代理店の分社化
4. CMOの増加
5. 外資系広告会社の進出
1. アメリカ標準「一業種一社制」が基本ルールとなる
TPPにはアメリカも参加しています。アメリカと日本の広告業界は大きな違いがあります。その一つが「一業種一社制」です。「一業種一社制」とは、一つの広告会社は一つの業種しか担当しないということです。今の日本は、電通や博報堂など大手広告代理店を中心に、一つの広告代理店が多くの同業種広告主を担当します。自動車業界であれば、電通はトヨタも日産もホンダも担当します。広告主に対して、大手広告代理店は同業種広告主のアカウントを扱う場合、営業フロアを分けたり、スタッフを分けたりすることで、守秘義務を守っているのが現状です。しかし、少し考えればわかるように、電通でトヨタを担当した営業も、いずれ担当替えで日産を担当する可能性もあります。特にスタッフ部門は、営業と異なり、同じ広告主をずっと続けるとは限りません。曖昧な関係の元に現在のシステムが成り立っているのです、TPPが導入されたら変わる可能性があります。つまり、電通がトヨタ自動車を担当したら、日産もホンダも担当しないということになります。
2. 複数年のAE契約
一業種一社制になることで、広告代理店にメリットもあります。広告主は、優れた能力を持つ広告代理店と付き合いたい、確保したいという意識が働くため、複数年の契約を結ぶことが多くなる可能性があります。一業種に一社しか広告代理店は担当しないのですから、競合他社に取られないように、優れた広告代理店を中長期で確保することになるのです。
複数年の契約になることは広告主にも広告代理店にもメリットをもたらします。複数年契約になるで、広告主は広告代理店をパートナーとして接する姿勢が高まります。その結果、従来の領域以上に、幅広い提案を求めるようになる可能性があります。 すでに現在でも、宣伝や広報の枠を超えて、経営や営業や開発など、部署を横断してマーケティングコミュニケーションを考えなければ、有効な施策を打ち出すことが難しくなって来ています。その部分を抜本的に解決出来るような提案が求められることも出てきます。また 広告会社は、いつコンペになるかという不安に怯えることなく、地に足をつけた正しい提案を出来るようになります。
複数年契約で得られるベネフィットの大前提として、双方が自分の責任を明確化し、プロフェッショナルの仕事を出来ることです。特に、広告代理店にとっては、今よりもはるかに高い仕事質を求められることになります。
3. 広告代理店の分社化
一業種一社になると、「広告会社とは誰の代理店か」がより厳密に問われることになります。要は、「nメディアの代理店」なのか「広告主の代理店」なのかということです。メディアの代理店であれば、広告主に対しての「一業種一社制」は関係ありません。しかし、広告主の代理店であれば「一業種一社制」が適用されます。
広告代理店は次のようになっていくのではないかと私は考えています。
総合広告代理店は、「メディアの代理店」と「広告主の代理店」に分社化されます。例えば、業界最大手の電通は「メディアの代理店」として強固な力を持っています。社員全体の能力が他社を上回っているのですが、マスメディアとの強固な関係があるからこそ、今の地位を保っているのは紛れもない事実です。他の広告代理店よりも、メディアとのパイプが太く、大量に良いメディアを仕入れて売る力があります。仕入れ金額やスペースなどあらゆる面での優遇が電通には提供されるのです。現在の広告業界においては、これが決定的な力になっています。特に大手広告主にとっては、制作費よりも、メディアに関わる広告費の方が圧倒的に大きいので、メディアに強い広告会社と付き合った方がおおむね得になるという理論が働くのは至極当然のことなのです。
立場を変えてみましょう。業界ルールが変わり「一業種一社制」になると、電通をはじめ大手広告代理店は困ってしまいます。大手になればなるほど、同業他社の広告主を会社として扱っています。経営そのものへのダメージが大きいため、「はい、わかりました」と素直に受け入れることは難しいのです。
新業界ルールが適用された場合、「広告主の代理店」であるべき広告会社は、分社化していきます。電通を例に挙げるならば、トヨタ担当の会社、日産担当の会社、ホンダ担当の会社というように分社化されます。
まとめれば、まず「メディアバイイングの会社」と「メディアバイイング以外の会社」に分化します(すでに博報堂DYのように進んでいるところもありますし、別の観点からもますます加速することでしょう)。「メディアバイイング以外の会社」とは、マーケティングやクリエイティブ、プロモーションなどのことです。そして一業種一社制のために、それらも分社化されるのです。
4. CMOの増加
広告主と広告会社の関係がパートナーに近づけば近づくほど、より幅広い視点でマーケティングコミュニケーション活動が考えられるようになると書きました。経営、営業、マーケティング、宣伝、広報、サービスセンター等、部署を横断して判断が出来る存在の必要性が必然的に高まります。結果的にCMO(Chief Marketing Officer:最高マーケティング責任者)を設置する企業が増加すると考えられます。アメリカでは企業のほぼ半数にCMOが存在します。しかし、日本は10%にも満たない存在率です。TPPによっての波及効果はCMOの増加という部分にも繋がります。
5. 外資系広告会社の進出
最後に、TPPはアメリカ主導と言っても良いでしょう。現在のアメリカ経済は決して良いものではありません。日本の広告業界は、世界の中でもアメリカに次いで第二位の規模です。この市場を目指して、外資系広告関連会社の進出が加速することも想定されます。世界の中でも日本のマーケットは特殊ですし、言語の壁もあります。進出しても、成功は難しいと思われますが、可能性としては十分にありえます。
TPP参加は、広告業界にも大きな変化と競争の激化をもたらします。しかし、一方で、一業種一社制が確立され、本当のAE制がもたらされる可能性秘めており、日本の広告代理店が、クライアントに新しい価値を提供出来る可能性も広がるのです。
終わりに
最後に、TPPに参加するかしないかは、広告業界だけでなく日本経済全体に関係するものです。私は広告業界にもたらされる影響と可能性について書きましたが、TPP全体についての参加是非の判断は他の情報も含めて、一人一人が考えてください。
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メディアは既得権益が強い業種。
メディアとの関係が強い広告代理店の仕組み、枠組みにTPPが影響を与えるという事はメディアのあり方、既得権益に対しても見方が変わってくるように思います。
2012/1/17(火) 午後 7:26
ビジネスルールの世界標準化だけでなく、ネットがもたらす透明性の加速もありますので、広告枠取引が今のような状況であり続けることは難しいです。既得権益はいずれ崩されます。パンドラの箱で誰も空けないだけですが、いずれ空きます。
2012/1/18(水) 午前 8:15 [ ラッキーマン ]