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6月中旬、シンガポール出張があった。シンガポールにはビジネスパートナーだけでなく友人、知人が多く住んでいる。大企業に属している人もいれば、起業してシンガポールいる人などさまざまだ。米系外資系消費材メーカーに勤務している友人もその一人だ。日本で就職の後、米国本社勤務を経て、今はアジア地区の地域本社であるシンガポールにいる。出張の数日前までヨーロッパにいることを知っていたので、忙しいと思いあえて声をかけなかったのだが、私がシンガポールにいるとFacebookで知り連絡をくれた。会う前日の夕方にパリからシンガポールに戻ったばかりだったのだが、翌朝にはホテルまで来てくれ、地元のレストランで朝食のパクテーを一緒に食べながら話をした。海外を飛び回り、忙しさ極まりないのに、本当に持つべき者は友だ。
彼が勤務する世界的な消費材メーカーはマーケティングの力が素晴らしいことで有名だ。本来広告主にマーケティング戦略の提案をする広告会社のマーケティング部門でも、謝礼を払ってでも話を聞きたいと言うほどの存在なのだ。そんな彼の元同僚が書いた書籍を読んだ。
「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」 森岡 毅著
一言で、マーケッターと呼ばれる人は本書を読むべきであるということだ。マーケティングの理論を語るアカデミックな書籍はたくさんある。そしてノウハウを伝える書籍もたくさんある。タイトルに「ヒットの法則」とあるが、この書籍でもっとも多く学べることはヒットの法則でも理論でもノウハウでもない。もっとも学ぶことが出来るのは、戦略や企画倒れで終わらないためのマーケッターの姿勢なのだ。
私もマーケティングコンサルタントを名乗っている。私の売りは経営から販売の現場まで理論と実践を重視していることだ。基本、中小企業の経営者やマーケティングの意思決定を出来る人と仕事をすることが多いのだが、営業の商談や販売現場まで体験するようにしている。また現場の人達とのコミュニケーションも取り、戦略の遂行まで責任を持つようにしている。実はマーケッターとかコンサルタントと呼ばれる人種には、理論やノウハウは語るものの実際の現場を知らない人間が多い。戦略立案は素晴らしいものの、実行までコミットしないので、絵に描いた餅で終わっていることも少なくない。
著者はマーケティングの世界トップクラス企業で活躍していたので、理論もノウハウも知っている。しかし本書を読んで感じたのは泥臭さだ。理論やノウハウをもとに戦略は立て、数字も含めた目標も立てる。そして、それに対してどうしたら実行出来るかのプランを立てる。重要なのは、そこに包含される実際の現場感だ。
戦略がいくら素晴らしくても、企業の置かれた状況によって成否だけでなく実行そのものが出来ないこともある。戦略を実行するためには「人・モノ・金・時間」という限られた資源が十分でなければならない。世の中に結果を出せないマーケッターやコンサルタントが多いのは、この点を十分把握できていないからだ。USJを復活させるために、著者がつねに考えていたのは「目標の設定と実行するための資源」であるように感じた。後ろ向きに乗るジェットコースターも、モンスターハンターも、ハリー・ポッターも、そうやって生み出されて来たことがよくわかる。
実はシンガポールで友人と話をしていた時に、同じことを感じていた。理論やノウハウはもちろん凄いのだが、それ以上に「目標の設定と実行可能性についての判断」が凄いと感じた。そして、やってみたことは振り返り、成否の原因を把握し、それらを次に活かすということも凄いと感じていた。しかも、それを個人のナレッジでははなく、会社全体のナレッジを高めるようにしている。なぜ、その企業が世界トップクラスのマーケティング力を保持し続けているかの理由は、ここにあると感じていた。
本書には何も難しいことは書いていない。ただマーケッターとして絶対的に重要な示唆が全編を通して述べられている。本書を読めば、世の中に溢れるマーケティングノウハウ本の多くがいかに薄っぺらいものかがわかるのではないだろうか。
本書を紹介してくれたシンガポールの友人に感謝している。そして著者が実現まで導いたハリー・ポッターの新アトラクションに行ってみたくなった。
これほど生々しい話を惜しげもなく披露してくれる良書はあまりない。マーケッターはもちろん、企業経営者、マーケティングに興味のある人は一読をお勧めしたい。
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はじめまして。
大変面白いと感じて読みました。マーケティングを希望して,目標設定をしています。
この本を読んでみたいと感じています。
2014/7/26(土) 午前 1:11 [ レイラ ]
レイラさん、これだけ実務に即した内容はあまり無いと思います。内容が濃いので、ぜひ読んでみてください。
2014/7/26(土) 午後 2:26 [ ラッキーマン ]