マーケティングの現状と未来を語る

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■ 日本スポーツ史に残る錦織の偉業の数々

テニス全米オープン、男子シングルスで準優勝に続き、世界のトップ8人しか出場できないATPツアーファイナルにアジア人として初めて出場し、準決勝まで進むという偉業を成し遂げた錦織圭選手。


すでに全米オープン準優勝で、日本のスポーツ史上でも五本の指に入る素晴らしい選手に成長したと感じたが、世界の4本に残り、あとわずかで優勝というところまで来た。こんな凄い選手が日本から出るということは想像もしていなかったので、本当に驚き、嬉しく感じている。


テニス選手としては身長は高いのでサーブが凄いわけではない。またナダルのように力強さがあるわけでもない。もちろん史上最高のプレイヤーであるフェデラーのような天才的なプレーでもない。プレーにおいても、インタビューにおいても、いたって地味で、ひたむきな様子が伝わってくる。ここまで人気が出た理由の筆頭は、世界の強豪をバタバタと倒していく姿にあるが、この実直な姿は同年代だけでなく錦織選手の親の年齢世代までをも引きつけている大きな理由だ。


全米オープン準優勝時、私は錦織選手の経済効果を150億円から200億円程度と試算した。比較対象として他のスポーツイベント、出来事を挙げさせて頂いた。


■ 他のスポーツイベント、出来事との経済効果比較

2020年 東京オリンピック 約20兆円

2002年 日韓ワールドカップ 3000〜4000億円

2011年 なでしこジャパンW杯優勝 約3000億円

2003年 阪神タイガース優勝 約1500億円

2014年 田中将大 メジャー入り 約350億円

2012年 ダルビッシュメジャー入り 約250億円

つまり、イベントや出来事の規模が大きくなればなるほど、経済へのインパクトが大きい。なぜなら、経済試算とは、そのことによって、どれだけのお金が動いたかということだからだ。錦織選手の全米オープン準優勝時は、まだ田中将大やダルビッシュの方が、スポンサー契約、スポンサー関連消費、グッズ販売、一般競技者への波及効果などが含まれる経済効果試算においては有利だったからだ。


メジャーリーグは年間100試合以上やっている。広告露出効果を考えると、スポンサーやグッズ販売なども大きくなりがちだ。また10歳以上の野球の競技人口は約800万人とテニスの約470万人と比較しても圧倒的に多い。つまり、全米オープン準優勝時点では田中選手やダルビッシュ選手の方が経済効果をもたらしていたのだ。

■ 錦織選手が作る2つのテニス人気

しかし状況は変わった。錦織選手の活躍によって1つではなく2つのターゲットがテニスに向き始めたのだ。テニス人気は確実に高まり、競技人口も増加の兆しを見せている。

まず一つ目は子どもだ。錦織選手に憧れた子ども達がユニクロのウェアを着て、ラケットを買い、スクールに通い始めた。都内のテニススクールでは、全米オープン準優勝後またATPツアーファイナル後に問い合わせが増え、新規会員も増えている。それだけではない。錦織選手がテニス留学していたIMGニック・ボロテリーアカデミーへの短期・長期留学の検討者も増えているという。

もう一つは40代以上の大人だ。子ども達の親世代もテニスへ関心を持ち始めたのだ。そもそも40代以上の世代は、大学などのサークルでテニスをやっていたり、軽井沢や富士五湖へ行った際にテニスをしていた世代、すなわちテニスブーム全盛期の人達だ。

残念ながら、テニス人気は年々落ち込み、全国のテニスコートは年々減少していった。しかし、錦織選手の素晴らしいプレー、世の中の盛り上がりを見て、テニスへの興味を再び持ち始めたのだ。これほどまでにテニス熱が盛り上がったため、、錦織選手以外の魅力溢れるプレイヤーが揃っていることにあらためて気づいたのだ。フェデラーのテニスの美しさ、ナダルの力強いプレー、王者ジョコビッチの風格など個性あふれるプレイヤー達も魅力的なことがわかったのだ。また、錦織選手のコーチであるマイケル・チャンの他、ステファン・エドバーグやボリス・ベッカーなど40代以上の人達がテニスをしていたころの名選手がコーチになっていることもプラスに働いている。こうした状況の変化によって、自分の子どもにテニスをさせようというだけでなく、自分自身ももう一度テニスをしようと思うようになってきているのだ。

錦織選手個人のキャラクターとしての注目度が高まるだけでなく、テニスそのものへの注目度の高さは、企業のテニスへの注目度を高める。4大大会へのスポンサード、選手個人へのスポンサードやスポンサードに伴う関連商品開発・販売、イベントの実施など、テニス熱はますます盛り上がっていく可能性が高い。

野球やサッカーと比べると、テニスの大会数、テレビでの放映数は少ないのだが、野球やサッカーと異なり老若男女が「自分事」として楽しめるスポーツがテニスだ。錦織選手自体の商品価値が上がっているだけでなく、テニスというスポーツ自体への波及効果を考えると、経済効果は400〜450億円程度になったと考える。

■ 経済効果1000億円への可能性とハードル

錦織選手の経済効果はさらに増して行く可能性はある。そのためには錦織選手ひとりが注目されるのではなく、テニスそのものがもっと注目されるようになることだ。錦織選手の陰に隠れているが伊藤竜馬選手やダニエル太郎選手などがさらに活躍することも必要だが、それ以上に必要なことはテニスそのものの魅力をダイレクトに伝える場を作ることだ。

テニスの4大大会はメルボルン、ニューヨーク、パリ、ロンドンだ。現在、ATPツアーファイナルはロンドンで行われているが、過去には上海でも行われてたことがある。そこで、ATPツアーファイナルの日本招致が実現できれば、日本でのテニス人気は一気に爆発するだろう。ATPツアーファイナルは世界のトップ選手だけが出場できる大会であるとともに、エンタテイメントでもある。現在、日本での最高レベルの大会は楽天オープンだ。試合的には、ワウリンカ、ラオニッチ、錦織選手レベルシードであることが多く、ジョコビッチ、フェデラー、ナダルといった本当のトップ選手たち同士が戦う大会ではない。またATPツアーファイナルのエンタテイメント性は、世界のどの大会を見てもない。つまりATPツアーファイナルは特別なのだ。

2020年に向けて、日本におけるテニスの聖地「有明」は改修予定だ。残念ながらセンターコートの「有明コロシアム」の収容人数は1万程度だ。観客数が2万人弱となるATPツアーファイナルを考えると「有明コロシアム」以外の施設、例えば「東京ドーム」などで開催することも検討すべきだろう。幸いプロ野球はシーズンオフだ。

さてテニス業界の盛り上がりへの展望は明るいのだが懸念すべき点がゼロでもない。それは、今のテニス人気はまだ錦織選手一人に大きく頼っているという部分だ。錦織選手一人に頼る割合を少しづつ低くしていくことは必要だ。野球やサッカーはスタープレイヤーが複数出やすいプロスポーツだ。しかしバドミントン、ラグビー、ハンドボール、ビーチバレーなど人気選手が出ても、後が続かなければブームで終わってしまう。その時に重要なポイントは2つある。まずスタープレイヤーが活躍し続けること、もう一つは競技自体の楽しさに魅力をもってもらうことだ。

2015年1月に開催される全豪オープンからスタートするテニスシーズン。どんな選手でも怪我もあれば、好不況の波もある。錦織選手はいずれグランドスラムを取れると思うが、いつも勝てるとは限らない。テニス業界はテニス人気を高め、定着させる戦略を早急に構築する必要があるのだ。錦織選手ひとりに日本のテニス人気を背負わせる状況が続けば、テニス人気は定着せず、経済効果1000億円などは夢物語でしかなくなりかねない。

■ 最後に

2014年の全米オープン準優勝、ATPツアーファイナル準決勝進出。錦織選手の次の目標は4大大会の一つを制覇するしかない。プレースタイル、コートとの相性、本人の状態を考えると、最大のチャンスは全米オープンだろう。かつて野茂選手がメジャーリーグの扉を開き、日本人選手が続々と海を渡り、それとともに日本人観光客が大挙したように、2015年の全米オープンは日本人ファンが大挙する姿が目に浮かぶ。私もできれば観戦に行きたいものだ。

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