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いやあ、今年ももう終わりですなあ……。
「まったくまったく、光陰矢の如しとはまさにこのこと」
谷津さん、こんなところで油売っててもいいんですか。確か、まだ今年の仕事(ゲラ)が残っているんじゃあ……。
「シュレディンガーのゲラ」
そのココロは?
「封筒を開くまで中身がゲラなのか万札なのかわからない」
うわあ……。なんか猛烈にアレな気がするけれども…。
「気にしてはいけない。そんなことより今年の総括をせねば」
総括ったって、ぶっちゃけ谷津さん何にもしてないじゃないですかヤダー。
「一応やったよ! いろいろとね!」
ふむ、そうでしたっけ。
単行本2冊に短編3作、連載一本。
まずまずの仕事っぷりじゃないですか。
「まずまずですなあ……。単行本も、かたや江戸の白波もの(=泥棒もののこと)、かたや戦国武将ものとそれぞれ別のものを書くことができたので、その辺もかなり大きいです」
なるほど。でも、短編もかなりエッジが効いてましたね。
「はい、三作とも江戸時代というのがあたしらしいというかなんというか。けれど、普段やっているライトな作風とは一線を画した、かなりシリアスな短編になってくれたと思っています。なお、3本中2本はそのうち単行本でまとまる予定なのでお楽しみに」
そして連載…!
「はい。来年にもかかる仕事なので今の段階では何とも言えませんが、一応どんでん返しも用意しているのでお楽しみに! こちらも来年には本になると思います」
なんかなんだかんだで充実していたんじゃないですか…! なんかずるい。
「実際、うまくやらせていただいたと思っております。本当にお引き立てくださった皆様のおかげです」
さて、問題は来年だけど……?
「はい、来年の目標はサヴァイヴです」
はい?
「サヴァイヴ。毎年の目標ですね」
あのう谷津さん、大事な目標だというのはわかりますが、毎年そればかりでは困るんですが。
「そういうだろうと思って来年の目標を用意しました。
『地軸の底まで叩き切る』こと。そして、『ジャイアントキリング』です」
何が何だか分からない!
「分からないように話しているんだよ」
谷津さんの目が据わっている!?
「まあそのあれです。この二つの目標は連動していまして、地軸の底まで叩き切るつもりで小説に向かうためにはジャイアントキリングを狙うくらいの心持を胸に秘めるべきですし、ジャイアントキリングを志すなら地軸の底まで叩き切る感触を会得しなくてはなりません。実は二者は同じことを言っているのですが、前者は内的な、後者は外的な言い換えに過ぎません。結局突き詰めると、『小説家として頑張る』ということになります」
へえ。
「あとは、『ネオ歴史小説の残党として頑張る』という目標もあります」
な、懐かしいですね、『ネオ歴史小説』!
「はい、あたしがデビューした頃には出版界でも流行っていたのですが、今はとんと聞かなくなっちゃいましたね。あたしはまさにこの流行に乗ってデビューしたクチなので、この呼び名にはある種の愛着があります。まあ、あたし自身は本格歴史小説の世界の方からすればまさしく傍流なわけで、きっと先方さんのほうから「一緒にするな!」と怒られそうなこと請け合いなので、あたしの側から一線を引いてもいいかもなあと思い始めています」
怖いこと言ってる気が…!
「いやいや、別に本格歴史小説をdisってるわけではありませんよ! 読者としては本格歴史小説も大好きですし。ただ単に、本格歴史小説がA点であるとするなら、あたしが作家としてプロットしているのはB点であるというだけのことで、B点がより優れていると言いたいわけではありません。あくまで作家の個性の話ですから」
それでもなんとなく棘がある気が…?
「ないってば。
いずれにしても、これをするためには、もっと作家として自らの流儀を鍛え上げていかなくてはなりません。頑張らねば」
ですなん。
「というわけで、今年の総括、ならびに来年以降の展望終わり。
皆さま、よいお年をお迎えくださいませ」
よいお年を…!
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はいどうもー。
告知でございます。
谷津さん、不定期連載が始まります。
文藝春秋さんの「オール讀物」12月号より、「江戸暗香(仮)」が始まりますよー。その第一作がこちら。
「雲州下屋敷の幽霊」
で、谷津さん、これはいったいどういう話なのですか?
「胸糞悪い話だよ!」
え!? いきなりどうしたの!
「いや、胸糞悪いお話ですよ、と申し上げたのです。江戸時代のお話なのですが、実際に残っている『文身侍女』という逸話をモデルにしているので、ちょっとあれなんですよ」
ど、どんなお話なんです?
「江戸時代の雲州(出雲、今の島根県)のお殿様に松平宗衍という人がいたんですが、彼の後半生は半ば世捨て人のようであったらしく。下屋敷に居を定めて、あれやこれやしていたみたいです。その中の一つに、侍女の背中に入れ墨を彫らせ、紗の着物を着せてその透け感を楽しんでいたというあかん逸話がございまして。これが『文身侍女』です」
ああ……なんかあかんね。
「はい。でも、あたしはこの逸話に宗衍の悲しみを見た気がしたのです」
はあ? この逸話のどこに!?
「いえ、この方、徳川吉宗の偏諱を受けているんですよ。で、吉宗公という人は、若手大名を薫陶して改革派大名を量産していた人なのですが、そういう意味では宗衍もそうやって改革スピリッツを吹き込まれた一人なのです。その人が、なかば乱心に陥って生きているというのは何とも悲しいことであるなあと思ったわけです」
それで、書いたのがこのお話、と。
「はい、いつもの谷津だと思って油断することなかれ。『びっくり箱小説家』谷津矢車の引き出しをば見よ!」
あ、そうだ! 先に御礼申し上げなくちゃならないことがあるではないですか! びっくり箱小説家で思い出した!
「そうでした。
小説幻冬2号に、拙作「信長さまはもういない」(光文社)の書評が掲載されました。評者は細谷正充先生。誠にありがとうございます。その中で、細谷先生が『びっくり箱小説家』と評してくださいまして、すごく気に入っております」
けど、いいのか? 『びっくり箱小説家』ってことは、毎回毎回趣向を用意しないとあかんということに……。
「あっ」
……。
「というわけで、細谷先生、ありがとうございました!」
おい、目をそらすなよ。
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はいどうもー。
はたまたライナーノーツ企画、はっじまるよー。
「その幼児番組的なノリはどうにかならぬのか」
いっくよー!(ジト目)
「怖いよ!」
……いっつもそうなんですけど、語り出しって本当に難しいんですよ。ネタ切れになるんですからね! なので、幼児番組とかの語り出しってすごく偉大だと思うんですよ。一つの芸ですあれは。
「それはわかるとしても、その芸にフリーライドする意味が分からん」
ぴーぴぴー(口笛)
「こいつは……。まあいい。今日はあたしが進めよう。―-はい、というわけで、今日はJ-NOVEL(実業之日本社)にご掲載いただいた「日輪の孤独」のライナーノーツをやります」
おお、お株を奪われた。
で、このお話はいったいどういう?
「はい。「日輪の孤独」は、伊能忠敬を主人公に描いたテクストです。田舎から出てきたばかりの伊能忠敬が、学者としての成功をつかむまでのお話です。そして、成功をつかむ代わりに失ったものがあった、というお話だったのですね」
なるほど。っていうかこれ、恋愛もの……?
「恋愛のつもりはなかったんです。なにせこのお話、名前が出てくる人(三人しかいませんが)はみんな実在ですし、おおむね実話なので、事実をトレースした結果こうなった、というね」
なるほど……。え、ってことは、お栄さんって実在するんですか!? 女流漢詩人で江戸に住んでたとかいうこの話は!
「はい。実話です。そして、今回の話にあったように、江戸に入ってから伊能忠敬と(どうやら)内縁関係となり、伊能の仕事の一部を手伝いながら漢詩人として活躍していたみたいです。この女性がいたらしいことはずいぶん前から言われていたらしいのですが、最近になって史料上実証されたようです。というわけで、さっそく登場させてみました」
ま、マジかよ……。当時の女性としては、とんでもなく特殊ですよね、お栄。
「ええ。特殊どころの騒ぎじゃありませんよ。実際もかなりぶっ飛んだ女性だったと思われます」
あのう谷津さん、このお栄さん、モデルとかいるんですか? ほら、最近谷津さん結婚なさったらしいじゃないですか。もしかして奥様を…?
「違うよ! モデルはあたし自身です」
え!?
「あたし、おおむねあんな感じ」
ええええええ!? 嘘だろ!?
「はい、続きましては高橋先生です。あえて名前を出しませんでしたが、彼は高橋至時さんです」
この方、こんな人だったんですか?
「人となりは不明ですが、体が弱かったことなどは当時の日記類を見ればわかりますし、また、当時の日本の天文学、暦学をけん引する一人でもありました。どうやら彼は地動説が正しいことを理解していたようですが、うまく一般の人々に説明できないことを理由に表立っては地動説の言明を避けていた、という説もあり、ともかく江戸時代中期の天文学者としてはずば抜けている一人です」
へえ。では、人物像はどのように…?
「天文学者、つまりは星読みですよね。本作の中であたしが彼に期待したのは、未来を暗示する役割です。彼は未来を提示する。けれど、それを伊能がはねのけてしまう。そういう位置づけです」
なるほど……。
で、次に伊能忠敬ですが。いいのかあれで。
「何が?」
あれ、いじわる爺さんじゃないっすか。
「でも、どうやら実際の伊能さん、ああいう偏屈、というか個人事業主的な押し出しの強さがあったみたいですよ。一般にはこつこつと日本中を測量して回ったという忍耐の人というイメージが強いですが、実際の彼は生まれ持った馬力で周囲の人間の尻に火をつけて回り、ずんずんと大股で進む人だったようですよ」
マジで…?
「そういう人はたいてい孤独なので、本作の伊能は孤独な人と設定してあります。そんな孤独な人が、たまたま縁あって女性とよしみを通じ、そして別れるまでを描いたテクストが本作なのですよ」
うーむ。
夢を捨てられぬ男と女のすれ違い、ということですか。
「けれど、伊能の中にはお栄のいた日々が確かに息づいている。そういう感触をお届けできたなら、本作は大成功です」
というわけで、現在発売中の J-NOVEL(実業之日本社)に掲載されている「日輪の孤独」、よろしくお願いいたします!
「お願いします!」
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おお、最後なのですね……!
「はい。今日でラストです」
ってことは、今日は残る二人の説明ということに。
「はい。まず一人目は、荒尾三左衛門さんですね」
この人、のちの池田輝政さんですよね?
「その通りです」
こう、後々に知られる輝政さんとずいぶんイメージが違いませんか?
「ええ、輝政さんといえば果敢に戦う猛将のイメージがありますし、弁の達人というイメージもあります。けれど、そんな彼にも下積み時代……というか、若い頃があったのだよ、というお話です」
なるほど。
そういえば、三左衛門とけんかしている秀吉配下の「福島」っていますけど……。
「はい。あの福島さんです。二人の因縁は昔からあるんですよ、という小ネタです」
これは実話?
「いえ! 全然。完璧に想像で遊ばせております!」
言い切ったよ……。
「彼は本作における一番の賢人であると同時に、主人公の恒興さんに深い示唆を与える役なので、かなり重要な人物です。恒興さんの彼への評価の変遷は、まさにこのお話の肝であります」
なるほど……。
それで、最後に主人公の池田恒興さんですが……。
けっこう「無能」扱いされている、と読者様からお叱りを食らう場面があるのですけど。
「まず言っておきたい。あたしの書いた池田恒興さんは決して無能ではありません。一部隊長としては有能です。ただ、大局を見渡す人ではなかった、という風に作っています」
むう?
「たとえば、ですけど。会社の部長としては有能だったけど、取締役としてはあんまり活躍できない、って人もいると思うんですよ。そういう人をイメージしているんですね」
わかったようなわからないような……。
「人間、立場が変わると求められるものも変わっていきます。きっと、本作における信長さまは、恒興さんに上の立場に進んでもらいたかったのでしょう。それゆえに、秘伝書を渡したのだとあたしは考えています」
気づいてほしかった、ってことですかね。
「たぶん。ほら、プロローグで恒興さんのことを叱りながらも犬山城を与えているでしょう? あれは、『一部隊長としての手腕は認めるけど、それ以上の采配を握るだけの手腕はない』とみなしていたということの表れなのではないでしょうか」
なるほどねえ……。
それで、『信長様はツンデレ』という話になるのですね!?
「その通り」
はーなるほど。
「ちなみに、本作の恒興さんをイメージするにあたりあたしが念頭に置いたのは、ショーペンハウアーの『読書すること』だったりします」
へ? ショーペンハウアー? ええと、哲学者の?
「はい」
どういうこと!?
「はい、ショーペンハウアーさんは『読書すること』で、読書家に対してある警告を放っています。でもこれは読書家だけではなくて、すべての人に対する警句であるなあと思い、本作では『読書すること』を頭において書いたんです」
ええええええええ。
マジで?
「マジで」
というわけで、長きにわたり続きましたライナーノーツ企画もこれにて終了。ありがとうございました!
「「信長様はもういない」、よろしくお願いします」
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「はい?」
なんでも、このブログ、谷津さんに関係している編集者さんが覗いているんですって!
「なあにぃ〜、それはやっちまったな」
いや、なにが『やっちまった』のかわかりませんけど。
確かに時折めちゃくちゃカウンターが回ってるなあと思ったらどうやらそういうことのようです。
「読者サービスなのか、それとも編集者さんとのお付き合いツールなのかよくわからなくなってきましたね!」
そう言うなよ。
というわけで、次のキャラクター説明に行くよー。
今回は津田信澄さんと織田信長さん……。って、最重要キャラじゃないですか!
「はい。今作においては、『喪失』を担っていただいた二人です」
そうですよね。
二人とも、(ネタバレのため文字色反転)本能寺の変でお亡くなりになりますもんね(ここまで)。
「文字色反転する意味はあるのか」
まあまあ……。でも、なんで津田信澄を?
「はい、これは善応院(お応)が津田信澄の父である織田信行(信長の弟)の元奥さんであるという説がありまして(ライナーノーツ参照のこと)、この説を念頭に置きました」
でも、今作だと信行の元奥さん説を採用してないじゃないですか!
「今作では、信行の奥様とお応が親しかったという、設定(説は存在しません)で書いたんですね。つまり、善応院からすれば親しかった女性の子供、ということになります」
むむ、ややこしい。
「はい。この辺のややこしさは、ぶっちゃけ「善応院が信行の奥さん」だったら解決する話なので、いっそのことそうしたほうがよかったんじゃね、と思っています」
うわー、ここにきて反省かい!
「いずれにしても、信澄がああなってしまったことで池田の命運が変わっていったという風に転がしていったので、信澄の存在は大きいです」
ほうなるほど…。
では次は、信長なわけですが……。
「信長さんって、ツンデレだと思うんですよ」
( ゚Д゚)ハァ?
「戯独堂さんが顔文字を! これはめずらしい!」
そりゃやりたくもなりますわ! 信長さんがツンデレとかお前……!
「いや、ツン(全力で殺しにかかる)を乗り越えればデレが待っているという印象でして……」
なるほど……?
続けろ。
「あっはい。というわけで、信長さまに関してはひたすらツンデレに設定しましたよ。
そもそも、本作で恒興に秘伝書を渡すのだって、あれは究極のツンデレですよね。「俺のことをわかって! でも、自分から話すつもりはないの!」という……」
やめろ。これ以上傷口を広げるな! 全国の織田信長ファンから射殺されるぞ!
「でもこう、本作でも活動シーンを極端に減らしたので、その分『あなたの好きな信長さま像をそこに入れてね!』という仕様になっているので、その点は信長さまファンにも楽しんでいただけたのではないでしょうか!」
うわあ……。信長を正面から書かなかったのはそれが狙いかよ……。
「はい! 読者様に『自分の信長さま』を当てはめていただくためです!」
なんて狡いのだ……!
続く(次回最終回)。
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