谷津矢車観察日記

〜存在そのものに意味はない、意味を決めるのはこれを読んだあなただ〜

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前回の続き。

さて、善人の順から紹介している種明かし企画でございますが……!
さて次はどなたということになるのでしょうか!

「今回は黒髭と呉兵衛ですかね!」

おおう、ガチ悪党じゃないですか!

「ええ、二人ともなんでもありですからね!」

まずは黒髭から……。

「ぶっちゃけこの人は、呉兵衛の実務者としての役割しかなかったので、即興に近い設定のキャラクターです。本来はもっと不気味な人間なのではないかなあとイメージしていたのですが、思いのほかフツーの悪人に仕上がりました」

はあ。でも、こいつにはこいつなりの仁義があったんですよね。

「そう。(文字色反転)鈴ヶ森親分の元子分で、その意趣返しのために七兵衛を狙っていた(文字色反転ここまで)ですからねえ。けど、彼は”裏路地を歩く”人間なんですよ。ある意味論理的に行動しているんですけど、普通の側から見ると歪で怖い……。みたいな。ある意味、本作のコンセプトを体現した人物ともいえます」

ほうほう…!
では、次の呉兵衛もそのような……。

「っていうかすいません。読み直してみると、この人和月伸宏先生『るろうに剣心』の武田観柳でしかないッ……!」

おい。

「悪徳商人、けれど次郎吉のせいで身を持ち崩して裏の世界にどっぷり浸かる……、という。もちろんモチーフの一つに武田観柳はありますが、当然そのままでは仕上げていません。反吐が出る悪党、というイメージでキャラクターを作りました」

確かに、今までの谷津さんにない人物造型よね。いうなればこの人、クズだもん。

「そうそう。とんでもないクズです。他人を踏みつけにするわ、人を殺すことにまったく躊躇がないわ。けれど彼には彼の論理があって、彼の世界を生きている。その感覚が普通の人たちと交わることはないけれど、それでも生きている、という意味で、黒髭と並んで本作のコンセプトを明確にしている人物と言えましょう」

っていうか、実は谷津さん、今回紹介している二人が好きでしょう?

「はい、わたし、おおむねこんなキャラなんで!」

い、言い切りやがった……。
それはそうと。
末國善己先生がお書きくださった本作の書評がインターネットから読めるようになりました。ぜひとも!
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前回の続き。

さて、今回は……。

「今回は松浦静山と鈴ヶ森親分です」

おお、実在の人物キタ!

「ええ、いちおう本作は歴史小説のつもりなんですが、今一つ実在の人物が出てきませんで……。その例外の一人がこの静山さんです」

しかしなぜ松浦静山が本作に?

「いえ、彼の著作に『甲子夜話』というものがありまして、その中で結構鼠小僧のことを叙述しているんですよ。それゆえです」

そもそも『甲子夜話』って何ですか!?

「ええとですね、隠居時代の静山が、江戸の町に流れていた噂とか見聞きした事件をまとめておいたエッセイみたいなものです。実は、鼠小僧義賊伝説の形成にも、この『甲子夜話』が関わっています」

というのは?

「鼠小僧が義賊だとされたのは、人を殺さなかったこと、金にしか手を出さなかったこと、武家屋敷にしか手を出さなかったことにあるとされています。そのイメージを同時代で描き出したのが、この『甲子夜話』なんです」

ほうほう。
で、あの静山さんの人物造型は一体どういう……。

「こういっちゃアレですけど、静山さんって相当上昇志向強いっすよ。彼の現役時代は、幕府のお役目につくためにいろんな人に贈答を送っていたくらいですからね」

え? あれ? 松浦静山さんって外様じゃありませんでしたっけ? その人が幕府の役職を求めているんですか?

「実は、外様大名でも願い出て受理されれば譜代大名並みになることができて、幕府のお役目にもつけるんですよ。というわけで、彼は出世したくてもできず、大名として不遇であるがゆえにああして面白いことに首を突っ込む俗物として描きました」

俗物……。でも、あの人、そんなに悪党ですか。

「どうでしょうねえ。とんでもない悪党だと思います」

著者が言うならそうなんでしょうなあ。
さて、次は鈴ヶ森親分ですが……。

「あっはい、ここからはリアルな悪党が続きますので比較的紹介が楽です。鈴ヶ森親分に関しては、『ヤクザが描きたい』という一心で描き出したキャラクターです」

ヤクザが描きたいってあんた。それに、鈴ヶ森親分って目明し(岡っ引き)でしょう?

「あの時代、ヤクザが目明しを兼ねているなんてよくある話です。というか、目明しというのは裏の世界に通じている人間を登用して検挙率を上げる、というなんともアレな仕組みなので、結構こういう悪党は多かったみたいですよ」

そうなんですか……。

「まあ、かなり恨まれる稼業であったようで、何らかの罪で目明しが牢に押し込められると囚人たちの手にかかって殺されるなんてことは日常茶飯事だったそうで」

うわあ……。聞きたくなかった!

「そんな、ある意味でベタな悪党が鈴ヶ森親分でした。性格なんかについては、まあそのあれだ、どこまでもベタに造型しました」

おい!

続く。
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続き。

さて、今回は誰の人物紹介を……?

「そうですねえ。善人の順ということなので……。今回は定吉と亀蔵ですかね」

え、定吉はともかくとして、亀蔵をこんなに早く紹介しちゃうんですか?

「ええ。あいつって悪人かなあ」

うわあ……うわあ……。

「なにドン引きしているんですか。紹介を始めましょうよ」

ああはい。まずは主人公次郎吉のお父上である定吉さんですが。

「ああ、この人は一応史実に伝わる通りのイメージで書いています。中村座の便利屋としてずっと務めていたという資料が残っており、それをそのまま援用してます」

なんで次郎吉さん、親父さんの跡を継がなかったんですかね?

「んー。たぶんそれほど仕事がなかったというのが正直なところだと思います。それに、芝居というのは当時はあまりステータスの高い仕事ではなく、次郎吉がそれを嫌った可能性もありますね。まあ、この辺のことは謎としか言いようがありません」

このお話唯一の良心、ですよね?

「いや、彼は彼である犯罪に目を背けてみなかったふりをしているわけで、限りなく善人ではありますが、やっぱり悪い面も出ちゃってますよね」

でも、これはある意味しょうがない悪ですよね。

「まあ、しょうがなくない悪ってあるのか? というのが本作のテーマでもあるわけでして」

なるほど。
では次に、亀蔵に移りますが……。

「わたしはこの人、わりと偽悪的な人だと思うんですよ」

え、そうなんですか?

「ええ。善なるものを知悉しているがゆえに、悪を取材する瓦版師になって世間を扇動しているわけですからね。そして、(以下文字色反転)悪人でしかない次郎吉を善玉に読み替えて世間に放つなんざは、もう確信犯もいいところでしょう(文字色反転ここまで)。そういうことができるのは、悪と悪ならざるものの境目がしっかりわかっている人だけですよ」

なるほど……。

「そういう意味で、本作において一番作者とスタンスが近いのはこの亀蔵です」

そーなの!?
でもあれか、谷津さん、けっこうアクが強いよね……。

「否定はしない。っていうか、亀蔵の人物造形だけは悩まずにできたという自信があるよ!」

そうなのか……。

続く。


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前回が世界観設定でしたから、今回は登場人物紹介ですね!
まずは誰から……?

「まずは七兵衛から行きましょうか」

来ましたね、仁医の七兵衛!

「実はこいつにはモデルがいます。武州青梅宿を根城にしていた泥棒で、裏宿七兵衛という男が居ました。この人がモデルです」

たしか、中里介山先生の「大菩薩峠」にも登場する義賊ですよね?
あれ、でも確か、裏宿七兵衛って、時代が微妙に違いませんか?

「いえ、ちょっとどころか百年違います」

えええええ、なんだってー!!

「本書でも微妙に語っていますが、本作に出てくる裏宿七兵衛は二代目という設定です。というのも、史料によれば(以下文字色反転)泥棒七兵衛が捕まった時、奥さん子供は実家に帰されたそうなので、七兵衛にも子孫がいたと思われるんですね(反転ここまで)。ということは、その子孫が居ても不思議じゃないですよね」

でも、裏宿七兵衛というのは義賊……なんですよね?

「後世ではその扱いですが、同時代的にはどうだったでしょうねえ」

え。

「いえ、裏宿七兵衛は中里先生の『大菩薩峠』のおかげで義賊イメージの強い人物なのですが、正直史料が残っていないんです。また、彼の供養が始まったと史料上確認できるのは彼の死から100年余り……。そう、ちょうど鼠小僧が活躍した時代です」

ってことはもしかして。

「いろんな解釈ができると思います。けれど、そういう事実から生れたのが七兵衛というキャラクターです」

ときに、医者設定はどこから……?

「ええ、これも青梅の偉人とされている人で、足立休哲さんというお医者さんが居まして、この人のイメージが混じっています。この足立さん、江戸時代中期の人なんですが、アオカビを使って傷の治療を行っていたという伝説の持ち主です」

アオカビ…? それってもしかして、ペニシリン!?

「まあもちろん、これも後出しじゃんけんの可能性もありますが、いずれにしても、そんな伝説が青梅にはあるよ、ということでご理解ください」

しかし、本作における七兵衛、悪辣すぎやしませんかいろいろと。

「そりゃあもう。本作における重要なモチーフは、『実像と虚像』ですから。虚像が実像を作り上げてしまったり、そうかと思えば実像が虚像に何の影響も与えていなかったり……、というのが本書なので、そういう意味でも七兵衛を最初に紹介した甲斐があるというものです」

それは一体どういう……?

「まあそれはおいおい。けど、このお話の中での悪人度は一番低い気がするんですよ彼。一応バランスをとっているじゃないですか、彼の中で。そういう意味では、彼が一番まともかもしれない」

ああ……。確かにそうかも……。

次回に続く。
はい、いつもの種明かし企画でーす。

「おい、雑だな!」

まあまあ。どうせ谷津さんの能書きが長くなるんですから、前置きは短いほうがいいに決まってますよ。

「能書きとか言わんといて、言わんといて!」

能書きでしかあるまいて……。
ピンポンパンポーン。補足です。いつも谷津さんは刊行したテクストの種明かしをこちらでやっております。お暇なら見てよね!補足終わり。ピンポンパンポーン。

「説明乙」

はい、では、行ってみよー!

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さて、第一回目はいつも世界観についてとか、コンセプトについて説明してますよね。
まず、今回のテクスト「しゃらくせえ鼠小僧伝」の世界観とかコンセプトについてうかがおうではないか。

「そうですねえ。まず、『しゃらくせえ鼠小僧伝』の時代設定についてお話しなくてはなりますまい。この時代は、天明年間です」

いつ頃ですか?

「明治初年から数えて三十年位前ということになるでしょうか」

たった三十年!?

「そうですよ。たとえば幕末の有名人である沖田総司さんなどもこの天保の生まれです。ちなみに、この当時北町奉行をしていたのが、遠山の金さんこと遠山景元です」

ええええ。意外に遠山の金さんって近代側の人なんですね。

「そっちか。まあとにかく、せいぜい二百年位前のことだと思ってください」

で、どんな時代なんですか、天保って。

「聞いちゃうか」

聞いちゃまずいの!?

「いえ、まあ嫌な時代ですよ」

そーなの!?

「そりゃそうですよ。っていうか、江戸時代も享保以降は低成長の時代なので、社会全体が息苦しいんですよ。成長モデルにあわせた機構を備えていた幕藩体制も揺らぎ始めて、結局改革で盛り返そうとする時代ですし、幕府が開かれてから二百年が経過して、いろんな矛盾が社会内部に蓄積されていましたしね」

なんかこう、どっかで聞いた話に聞こえますが…。

「そりゃあ、現代に寄せて喋ってますから」

そうなのかよ!

「まあ、本作中での年間では、暗い天保期であっても比較的穏やかだった時分です。下り坂ではありましたが、文政期の享楽の空気は残っていましたしね。でも、暗い予感を引きずった時代、という風にはイメージしました」

なるほどなあ……。
で、今作のコンセプトは。

「はい。『市井の人々を食い物にする悪党が織り成す人情もの』です」

はい?

「ですから、『市井の人々を』」

いや、なんかこれ、ひどくおかしな表現のような気がするんですが。

「しかし、こうとしか言いようがないんですよ」

でもこれ、並び立ちます? 

「立つんですよ。本作においては普通の人なんて誰一人としていません。みんながみんな程度の差こそあれそれぞれに悪党なんですが、悪党になって人情はありますし、悪党なりの思うところがあるはずです。なので、市井の人々を食い物にするような悪党にも人情ものは成り立つのです!」

ほう……?

「なんすかその目は」

いや、本当は違うんだろ? 本当は「古典的ピカレスク」(文字色反転)を目指したんだろ? でも、諸般の事情でそれは表立って言えないんだろ?

「な、なぜそれを!」

というわけで、「悪党が織り成す人情もの」、ないし「古典的ピカレスク」(文字色反転)の「しゃらくせえ鼠小僧伝」をよろしくね!

「うわ、まとめやがった!」

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