谷津矢車観察日記

〜存在そのものに意味はない、意味を決めるのはこれを読んだあなただ〜

観察日記

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はい、今回が種明かし企画の最後です。
本作一番の悪党は一体だれなのか! さあ谷津さん、死ぬ気でしゃべるのだ!

「いや死ぬ気では喋りませんけど」

テンション低っ! 引くわ!

「引かないでくださいよ。主役、しかも実在の人物を悪く言うのはなかなか勇気が要るのです」

え、ってことは、谷津さんが考える本作一番の悪党は……。

「もちろん次郎吉その人に決まってるじゃないですか」

マジで!? でもどうして!?

「いや、フツーに考えて次郎吉、結構な悪党ですよ? 第一話の段階から火付けをやってますし、第二話では殺しを黙認しちゃってますし。さらには第四話では次郎吉自身が人を手に掛けちゃってますし」

ああー。でも、彼は悪くない!

「そうですか? 時代のせいというのはもちろんありますが、彼はどう見たって悪党です。なにより彼は自分の悪党ぶりについて全くの無自覚です。そういう意味では、悪党であることをアイデンティティに置いていた呉兵衛なんかより、はるかに面倒くさい悪党とすらいえます」

そ、そういうものなんですか?

「シリアルキラーの手記を読むと、ご本人の中では筋道が通っていて論理的なのですが、いざ離れてみると『いやそのりくつはおかしい』と突っ込まざるを得ないことがあります。そういう意味では、次郎吉はそういうズレを最初から持ち合わせていた人物と言えます」

で、でも、本作の鼠小僧はなんかこう、わたしたちの側に近い感じがしたんですけど……!

「そりゃ、そういう風に寄せましたから。わたしが本作で書きたかったものの一つに、”無垢な悪党”というものがありまして、次郎吉はまさにそれを担っていただいています」

へえ……。なるほどねえ。

「でもね」

まだあるの?

「はい。実はわたし、本作一番の悪党は別のところにいると思うのですよ」

え?

「ここからは文字色反転しますね。
ずばり、『鼠小僧の物語を消費していた大衆』こそが一番の悪党なんじゃないかと思うのです。見てきた通り、次郎吉は義賊ではなく、ただ成り行きに任せて物を盗んでいたところ、半ば偶然の形で『義賊』というレッテルが張られるに至ります。そうしてメディアに取り上げられていったわけですが、そうすると、鼠小僧によって害されてしまった人々の魂は救われません。けれど、大衆はそんなことに興味はない。ただ、立ち上ってきた物語を消費して留飲を下げているばかりです。
と、こうしてわたしは賢しらに言っていますが、きっとわたしもそうやって”物語”に乗せられて、誰かのことを損なっているのでしょう。
そう。実は、皆が悪党なんですよ。
おわり」

うわあ……。嫌な世界観だ……。

「でもまあ、これが現実といえば現実」

うひょおお……。

「いずれにしましても、本作をよろしく!」

明るく締めやがった!


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小説の基本構造を浮かび上がらせる十の質問

Q.1 主人公はどんな人物ですか?
Q,2 主人公の目的は何ですか?
Q,3 主人公の目的に立ちはだかる人、物、概念(以下「葛藤者」)は何で
すか?
Q,4 なぜ主人公はその目的を果たそうとするのですか?
Q,5 その目的を果たす/果たせなかったことで、主人公はどうなりま
すか?
Q,6 主人公の目的を阻止する/できなかったことで、葛藤者はどうな
りますか?
Q,7 なぜ主人公と葛藤者は争わないとならないのですか?
Q,8 主人公の内的欲求について、一番当てはまるものに丸をつけ、
()内に具体的に書いてください。
生存欲求  生理的欲求  社会的欲求  自我欲求  自己実現欲求 
          (          )
Q,9 主人公と葛藤者の端的な違いはなんですか?
Q,10 あなたは、この物語を通じて読者に何を届けようと考えていま
すか?




突然なんすかこれ。


「ああ、今日作った小説作成用の補助ツール。その名も『十の質問』
です」


なぜこんなものを……。


「いや、あると便利なんで。基本的に、アウトソージングできるものは
そうしておく、というのがわたしのモットーです」


なるほど……?


「これは構想がある程度まとまってプロットを書きだす前に書き入れると
いいかも。あとは書き進めていてなんとなくしっくりこないときなんかにこ
れでチェックしてやるといいと思います。小説を書く際に一番重要なあれ
これがまとまっているつもりです」


すげえ……! でもいいの、こんなものを公開しちゃって。


「かまいませんよ。名前が売れればね(白目)」


まじかよ……。


「これ、特に©をつけるつもりもございませんので、勝手に持って行ってくだ
さいませー」
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前回の続き。

さて、では、今回のクズは……。

「はい。お冬とヒロインお里です」

キター! 今作一番の問題児たちですね!

「いやいや、実は一番の問題児はほかにいるんですがそれはさておきまして」

ってか、なんでお冬さんがこんな上位に来ているんですか? 彼女、どう考えたって悪党でも何でもない……?

「そうですかねえ。わたし的には、彼女はどこまでお里の野心に気付いていただろう、と思っちゃいますよ」

へ?

「いえ、お冬は表面上は心清らかですしお里にすら『頭空っぽの善人』とか評されていますが、実際に、彼女はその通りの人でしょうか? もしかして、お里や周りの人間の人生を食い物にしていたのはお冬だったのではないでしょうか」

え、でも……。

「ええ、テクスト上にはあえてそういった仕掛けは作っていません。見ようによっては本作唯一の善人ですらあるお冬ですが、もしかして……、と考えていただけるとお話に奥行きが生まれると思うよ!」

おい、盤外戦でテクストの補完をするんじゃない!

「でもさ、そんなこと言いだしたら、この企画自体があかんやつですしおすし……」

おおっと。
では次はお里だ。

「実はわたし、この前結婚したんですけど」

え、何突然!?

「いつもお世話になっているある書店さんの社長さんに、『谷津さん、結婚したからにはきっと「蔦屋」の奥さんみたいな清純な女性を描くのがはかどるでしょう?』と言われたんですが……」

ああ、逆張りしちゃったわけですね。

「ええ、清純とは裏腹の女性キャラを書きたいなあというのがスタートでした。その結果仕上がったのが、毒婦としかいいようのないキャラクターです」

うん、あれは毒婦だったわ。
でも、実は彼女、ところどころで尻尾が出てますよね。

「ええ、呉兵衛などはしっかり気づいてましたしね。なので、スペシャリストの悪党とは言えぬまでも、主人公である次郎吉と最後まで対峙していたという意味で、悪党度はかなり高いのではないかと思います」

けど、この女性二人が悪党にカウントされるのはかわいそうじゃないですかねえ。彼女らはこういう風にしか生きられなかった人たちなわけですし……。

「んー。それはちょっと違うと思いますよ。本作に出てくる人々は、誰しもが『こういう風にしか生きられない』人々です。そういう意味では、彼女らと呉兵衛たち真性の悪党らとの間に違いなんてありゃしませんよ」

そ、そういうものですか。

「ええ(にっこり)。そして、次回が種明かしの最終回になると思うんですが(大工の棟梁さんたちや殺される若旦那さんは説明を割愛します)、その辺の話をじっくりやろうと思ってます」

怖いですねえ、恐ろしいですねえ。

「(にっこり)」

続く。
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前回の続き。

さて、善人の順から紹介している種明かし企画でございますが……!
さて次はどなたということになるのでしょうか!

「今回は黒髭と呉兵衛ですかね!」

おおう、ガチ悪党じゃないですか!

「ええ、二人ともなんでもありですからね!」

まずは黒髭から……。

「ぶっちゃけこの人は、呉兵衛の実務者としての役割しかなかったので、即興に近い設定のキャラクターです。本来はもっと不気味な人間なのではないかなあとイメージしていたのですが、思いのほかフツーの悪人に仕上がりました」

はあ。でも、こいつにはこいつなりの仁義があったんですよね。

「そう。(文字色反転)鈴ヶ森親分の元子分で、その意趣返しのために七兵衛を狙っていた(文字色反転ここまで)ですからねえ。けど、彼は”裏路地を歩く”人間なんですよ。ある意味論理的に行動しているんですけど、普通の側から見ると歪で怖い……。みたいな。ある意味、本作のコンセプトを体現した人物ともいえます」

ほうほう…!
では、次の呉兵衛もそのような……。

「っていうかすいません。読み直してみると、この人和月伸宏先生『るろうに剣心』の武田観柳でしかないッ……!」

おい。

「悪徳商人、けれど次郎吉のせいで身を持ち崩して裏の世界にどっぷり浸かる……、という。もちろんモチーフの一つに武田観柳はありますが、当然そのままでは仕上げていません。反吐が出る悪党、というイメージでキャラクターを作りました」

確かに、今までの谷津さんにない人物造型よね。いうなればこの人、クズだもん。

「そうそう。とんでもないクズです。他人を踏みつけにするわ、人を殺すことにまったく躊躇がないわ。けれど彼には彼の論理があって、彼の世界を生きている。その感覚が普通の人たちと交わることはないけれど、それでも生きている、という意味で、黒髭と並んで本作のコンセプトを明確にしている人物と言えましょう」

っていうか、実は谷津さん、今回紹介している二人が好きでしょう?

「はい、わたし、おおむねこんなキャラなんで!」

い、言い切りやがった……。
それはそうと。
末國善己先生がお書きくださった本作の書評がインターネットから読めるようになりました。ぜひとも!
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前回の続き。

さて、今回は……。

「今回は松浦静山と鈴ヶ森親分です」

おお、実在の人物キタ!

「ええ、いちおう本作は歴史小説のつもりなんですが、今一つ実在の人物が出てきませんで……。その例外の一人がこの静山さんです」

しかしなぜ松浦静山が本作に?

「いえ、彼の著作に『甲子夜話』というものがありまして、その中で結構鼠小僧のことを叙述しているんですよ。それゆえです」

そもそも『甲子夜話』って何ですか!?

「ええとですね、隠居時代の静山が、江戸の町に流れていた噂とか見聞きした事件をまとめておいたエッセイみたいなものです。実は、鼠小僧義賊伝説の形成にも、この『甲子夜話』が関わっています」

というのは?

「鼠小僧が義賊だとされたのは、人を殺さなかったこと、金にしか手を出さなかったこと、武家屋敷にしか手を出さなかったことにあるとされています。そのイメージを同時代で描き出したのが、この『甲子夜話』なんです」

ほうほう。
で、あの静山さんの人物造型は一体どういう……。

「こういっちゃアレですけど、静山さんって相当上昇志向強いっすよ。彼の現役時代は、幕府のお役目につくためにいろんな人に贈答を送っていたくらいですからね」

え? あれ? 松浦静山さんって外様じゃありませんでしたっけ? その人が幕府の役職を求めているんですか?

「実は、外様大名でも願い出て受理されれば譜代大名並みになることができて、幕府のお役目にもつけるんですよ。というわけで、彼は出世したくてもできず、大名として不遇であるがゆえにああして面白いことに首を突っ込む俗物として描きました」

俗物……。でも、あの人、そんなに悪党ですか。

「どうでしょうねえ。とんでもない悪党だと思います」

著者が言うならそうなんでしょうなあ。
さて、次は鈴ヶ森親分ですが……。

「あっはい、ここからはリアルな悪党が続きますので比較的紹介が楽です。鈴ヶ森親分に関しては、『ヤクザが描きたい』という一心で描き出したキャラクターです」

ヤクザが描きたいってあんた。それに、鈴ヶ森親分って目明し(岡っ引き)でしょう?

「あの時代、ヤクザが目明しを兼ねているなんてよくある話です。というか、目明しというのは裏の世界に通じている人間を登用して検挙率を上げる、というなんともアレな仕組みなので、結構こういう悪党は多かったみたいですよ」

そうなんですか……。

「まあ、かなり恨まれる稼業であったようで、何らかの罪で目明しが牢に押し込められると囚人たちの手にかかって殺されるなんてことは日常茶飯事だったそうで」

うわあ……。聞きたくなかった!

「そんな、ある意味でベタな悪党が鈴ヶ森親分でした。性格なんかについては、まあそのあれだ、どこまでもベタに造型しました」

おい!

続く。

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